本稿の目的は,各種資料の整理とフィールド調査の結果をもとに,宮城県沿岸部の津波被災地における農業生産基盤の復旧状況と農地集積状況を確認するとともに,そこで展開されている土地利用型農業や施設園芸,農商工連携・6次産業化の特徴と今後の課題を整理することである.その結果,津波被災地の農業生産基盤の復旧は多少遅れが生じているものの停滞しているわけではないこと,それよりもむしろ良質な作土を確保できないなど大都市圏での建設需要の高まりから,復旧・復興に必要な資材や人夫を確保できないという問題が生じていること,また被災の程度によって異なるが,農地整備地区内では農業生産法人や集落営農組織に農地が集積して農業構造改革が加速していることが明らかになった.また土地利用型農業であれ,施設園芸であれ,津波被災地で展開されている大規模経営体には新たな生産技術を導入して生産効率を高めていこうとする特徴がみられるものの,それと同時に,地域住民の暮らしも含めて復興を推進しようとする地域マネジメントの視点もみられる.その反面,高齢兼業農家を構成員とする集落営農組織や農業経験のない従業員を多く抱える植物工場では,何よりもまず栽培技術の習得をはじめとする人材育成が喫緊の課題であること等々が明らかになった.
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