自然環境復元研究
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巻頭言
原著論文
  • 小山田 智彰, 鞍懸 重和, 千﨑 則正
    原稿種別: 原著論文
    2024 年 14 巻 1 号 p. 3-16
    発行日: 2024/02/21
    公開日: 2024/08/14
    ジャーナル 認証あり

    国内において,チョウセンキバナアツモリソウ(Cypripedium guttatum)の自生地は1カ所であり,保護措置による個体数の増加傾向が見られないことなどから,生息域内保全を補完するための生息域外保全が急務になっている。本研究は,環境省東北地方環境事務所から要請を受け,環境省新宿御苑管理事務所に保存されてきた自生地由来となるチョウセンキバナアツモリソウの種子の発芽に取り組むことにより,生息域外保全の推進のために必要とされる保存種子の活用の有効性について検証した。研究は,保存種子の発芽に取り組む前に,予備試験として栽培地で維持されてきた栽培株より結実した種子900粒を材料にして,アツモリソウ属植物用に開発した小山田培地を使用し発芽試験を実施した。発芽した312個体を育苗培地に継代し,成長が認められた99個体をフラスコから取り出し,用土を充填したトロ箱に植え付けて2年間の育苗を行った。育苗によって生存した苗から30個体を栽培試験地に定植した結果,定植の翌年に初開花を確認した。この結果を参考にし,本試験として新宿御苑管理事務所に保管されていた2014年に採種された種子290粒を培地に播種したところ6個の発芽個体が得られた。これを育成用培地に継代して培養し,最終的に2個体の苗が得られた。また,2015年に採種された保存種子7265粒を材料に発芽試験に取り組んだ。その結果,培養開始50日から800日までの期間に断続的に108個体の発芽が確認された。発芽率は1.5%となり,予備試験として実施した栽培地由来の種子の発芽率34.7%と比較して有意に低くなることが分かった。発芽した108個体から器官分化が見られた101個体を育成培地に継代して育苗し,成長した57個体を培養フラスコから取り出して,栽培用土を充填したトロ箱に移植して2年間の育苗を行い,生存した22個体を環境省に提出した。本研究は,環境省が進めている絶滅危惧植物の保護増殖事業の中で取り組んだものであり,特にチョウセンキバナアツモリソウ野生株から採種された保存種子の発芽は国内外において初報告になり,生息域外保全に用いる保存種子の苗生産に成功した。

  • 池谷 透, 石田 卓也, 易 容, 伴 修平, 大久保 卓也, 奥田 昇
    原稿種別: 原著論文
    2024 年 14 巻 1 号 p. 17-29
    発行日: 2024/02/21
    公開日: 2024/08/14
    ジャーナル 認証あり

    河川整備事業が実施された「平湖・柳平湖」の水質や滞留時間の改善状況を確認し、琵琶湖沿岸の半閉鎖性水域の水質維持について検討した。調査の開始時には、住民は整備事業の水質改善対策の効果を実感しにくい状況だった。事業報告書データによると、浚渫によってリンなどの溶出が抑えられた結果、太田川導水が整備された2010年以降は「平湖・柳平湖」の水質は改善し、8~11月の全リンや溶存反応性リンの濃度低下と8~9月に出現する植物プランクトン種の細胞密度が低下した。さらにデータを解析したところ、カビ臭を生成するアオコ形成種のAnabaena (Dolichospermum) macrosporaなど、導水整備直後に顕著だったアオコ形成ラン藻種は2015年までに減少した。2016年以降はAnabaena (Dolichospermum) affinis をはじめとする数種のラン藻類に構成種が入れ替わり、珪藻類の割合が増加した。内湖の滞留時間の適切な調整を検討するために正味の流出入量を見積もったところ、太田川導水の流入量は整備事業の当初計画量の半分程度だったが、7~12月に実施された整備事業の流入量計測の多くは非灌漑期(9~4月)だったために灌漑期(5~8月)の流入量に対して過少評価で、灌漑期の滞留時間15~17日に対しては過大評価だった。太田川導水の流入不足を補うために地元自治会の保全活動によって実施された追加導水運用の効果を見積もったところ、湖面からの蒸発量が降水量を上回り、灌漑期が終わり太田川導水の流入量も最小だった2018年10月は26日の滞留時間の短縮になり、追加導水を運用した月あたりの平均では7日間の短縮になった。「平湖・柳平湖」のように規模の小さな水域の水質や同化容量の維持には物質収支の人為的管理が必要で、水質変化や流入量の季節変化に留意して滞留時間を順応的に調整することが有効である。

  • 池谷 透, 上原 佳敏, 伴 修平, 脇田 健一, 奥田 昇
    原稿種別: 原著論文
    2024 年 14 巻 1 号 p. 31-43
    発行日: 2024/02/21
    公開日: 2024/08/14
    ジャーナル 認証あり

    「平湖・柳平湖」では、琵琶湖湖岸の湿地生態系の回復を目的として実施された河川整備事業によって底泥からの汚染負荷が軽減し、内湖の水質が改善した。地域住民は「平湖・柳平湖」の保全を自分たちの活動としてどう引き継いでいけるかを模索していた。生物多様性が流域生態系と地域住民による保全活動に果たす役割を検討するため、内湖の保全と地域住民による保全活動を協働研究課題として取りあげ、住民が内湖の保全に取り組むうえでの課題と内湖の滞留時間の季節調整の順応的管理について話し合いをした。内湖の回復に対する住民の関心や保全の課題について住民と情報交換を進めた結果、内湖の水循環を促進する流入量を合理的に調整することが重要と考えられた。河川水と追加導水について供給可能量と全リン濃度(TP)の季節変動を調べた結果、追加導水の実施を9月~10月に限定することによって3月~8月に遡上・産卵する習性のある在来魚の産卵回遊と内湖の水質維持を両立させることが、住民が望む‘在来魚のにぎわいを感じられる内湖’と保全活動の効率化につながると考えられた。地域住民は、自治会で活動を組織化し、農地と集落内の環境整備と内湖の保全に取り組むようになった。「平湖・柳平湖」の内湖の保全活動には、生きものとのつながりを記憶する住民に地域の歴史的魅力を尊重する価値意識が共有されていることが寄与していると考えられた。

  • 倉田 薫子, 西川 友梨, 樋口 結子
    原稿種別: 原著論文
    2024 年 14 巻 1 号 p. 45-51
    発行日: 2024/02/21
    公開日: 2024/08/14
    ジャーナル 認証あり

    ラン科のタシロラン(Epipogium roseum (D.Don) Lindl.)は,生育に必要なエネルギーを共生する菌に依存する菌従属栄養植物で,環境省レッドリスト(2020)では準絶滅危惧種(NT)に指定されている.開花期しか地上に現れず,共生菌と共生菌が分解する照葉樹の葉に依存するため,分布や生態については不明な点も多い.横浜国立大学には都市部には珍しい成熟した照葉樹林が残存し,ここで2019年,300個体を超えるタシロランの群落が発見された.しかし自生地が埋め立てられるなど複数回にわたる環境改変が行われた.そこで自生地を環境復元し個体群を回復すること,タシロランの保全の知見を得ることを目的に,2021年3月に環境修復工事を行い,個体群の回復状況を確認した.また環境復元前後において,花序形態や出現個体数に変化があるかを検討した.その結果,工事終了後の開花期に個体群が回復し,開花が確認された.しかしこの年に開花した個体は,環境改変以前の個体よりも花序長は小型化し,小花数も減少していた.これらは経年に伴い個体サイズは回復傾向にあった.一方で,環境の変化により分布域が変化していくことも明らかになった.これらの知見は,都市部に残る成熟した照葉樹林における生物多様性の観点に立った維持管理に活用できるだろう.

調査研究報告
  • 中村 俊彦, 劉 淑恵
    原稿種別: 調査研究報告
    2024 年 14 巻 1 号 p. 53-62
    発行日: 2024/02/21
    公開日: 2024/08/14
    ジャーナル 認証あり

    「共生」と「人と自然の関係」のイメージについて日本と台湾でアンケート調査し、そのイメージ分析をおこなった。二つの要素間の関係について3つの型、すなわち「別離型」「寄添型」「包含型」を図で設定し、「共生」そして「人と自然の関係」に対し、最も近いイメージの型について質問し、回答を得た。この調査は、自然への関心、また自然とのかかわりを多く持つ人を対象に日本と台湾で実施し、日本では141人、台湾では223人から回答を得た。「共生」のイメージとして最も多かった回答は、日本、台湾ともに「寄添型」で、両国とも、約57%であった。次に多かった回答は両国とも「別離型」で、日本で約29%、台湾で約24%であり、「包含型」については両国ともに10%台と少なかった。一方の「人と自然の関係」のイメージについては「包含型」の回答が最も多く、日本は約74%、台湾は77%を越えた。次に多かったのは両国とも「寄添型」、そして「別離型」は両国とも最も少なかった。このように多くの人で、「共生」と「人と自然の関係」のイメージは異なり、その割合は、日本では約76%、台湾では約74%であった。

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