カンボジアの中央部に位置し,東南アジア最大の淡水湖であるトンレサップ湖の氾濫原には,高木の
Barringtonia acutangula Korth. (サガリバナ科)が優占する季節浸水林が成立している。しかし,野焼き跡地や水路沿いなど強い人為圧がかかる場所では,侵略的外来低木の
Mimosa pigra L. (マメ科)が高密度の藪を形成して,ユニークな生態と地域住民の生業に深刻な被害を与えている。 本研究では,野焼き跡地にみられた
M. pigra の発芽から定着,優占までの侵入初期過程を,
B. acutangula との競合に注目しながら1 年10 か月間追跡し,
M. pigra の防除と氾濫原の順応的マネジメントのあり方について検討した。調査はトンレサップ湖北縁部に位置するシェムリアプ近郊の氾濫原で,
B. acutangula が優勢な藪(植生高6m程度)が約0.7ha の範囲で伐採・野焼きされ,ほぼ裸地となった場所で実施した。現地調査は,2005 年5 月下旬の野焼き後から2007 年3 月まで,冠水期間 (8~1 月)の前後を含む4 回にわたり実施した。焼け跡地に毎回50 個の方形区(1m × 1m)を無作為に設置し,植物社会学的な手法により植生を調べ,同時に各方形区の中央・地上高50cm で全天空写真を撮影して相対光量子束密度(RPPFD)を算出した。本研究によって明らかとなった野焼き跡地の植生回復過程は,以下のように要約される:(1) 野焼き1 週後の裸地に,まず先駆的つる性草木の
Merremia hederacea Hallier f. (ウリ科)が,地下に残存する種子と植物体の双方から高頻度で侵入し,(2) 1.9 か月後には,
M. hederacea が被度41.7%となって優勢となる一方,
B. acutangula も萌芽由来の幼個体が成長し,2 方形区で被度60%を越して局所的に優勢となった。
M. pigra は,種子由来の実生が散在する程度だった。次に,(3) 冠水期間を経た14.5 か月後には,主に萌芽から発生した
M. pigra が急激に成長し,被度64.2%,高さ2.1mにもなって優占する状態となった。(4) 2 度目の冠水期間を経た21.9 か月後には,
M. pigra の優占状態はさらに顕著となって,高さ2.9m,被度90.2%に達して他種を完全に被圧するようになった。以上のことから,伐採・野焼きによる地上部の消失という著しい人為的撹乱を受けた氾濫原内陸部の立地では,
M. pigra の萌芽による更新能力が勝り,この熱帯淡水湿地生態系の優占種である
B. acutangula の定着が阻害されていることが示された。
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