炊飯した米の臭気に対して化学的分析を行った.特に,古米から発生する臭気の原因となる化学成分を特定し,その発生機構および低減効果について検討した.炊飯後の米のGC-MS分析結果から,臭気の原因物質はアルデヒド類であることが明らかになった.それらはヘキサナール,へプタナール,オクタナール,ノナナールで,特にヘキサナールが主要成分であった.FT-IR分析の結果から,アルデヒド類は,炊飯前の古米に存在していた.新米にはアルデヒド類は検出されないことから,新米に含まれるエステルが加水分解と酸化によりアルデヒドに変化したと推察される.炊飯に竹炭を用いると,これらアルデヒド類は効果的に吸着された.官能評価においても,竹炭を用いることにより炊飯した古米の臭気は低減しており,化学分析の結果と一致した.
製糖時期の遅れが黒糖の品質に及ぼす影響を明らかにするため,2015年3月~6月に製糖された沖縄県産黒糖79試料の品質変化を測定した.色,pH,導電率,透過率を用いたクラスター分析により,製糖時期により3つのクラスターに分類された.各クラスターより選抜した13試料の成分分析の結果,還元糖,ミネラル(Ca,Fe),有機酸(乳酸,酢酸,コハク酸),香気成分(ケトン類,アルコール類)は製糖後期になるほど多く,官能評価の苦味や味覚センサーによる「苦味雑味」も強くなった.以上のことから,3月~6月にかけては,サトウキビ中の還元糖やFe,Mgが増加し,黒糖製造中に生じるカラメル化やメイラード反応を促進することで,黒糖の苦味が強くなると考えられた.
市販パン酵母および自然界から収集した野生のS. cerevisiaeについてMALDI-TOF MSを用いてマススペクトルを収集し,類似したマススペクトルのパターンを有したパン酵母株と野生酵母株の組み合わせを複数選び出した.クラスター分析の結果,これらの菌株の組み合わせは互いのマススペクトルが酷似していた.しかし,コロニーが発生した寒天培地を冷蔵処理し,その後再びマススペクトルを収集してクラスター分析を行ったところ,パン酵母株と野生酵母株のマススペクトルは独立したクラスターを形成し,菌株の識別性が向上することが判明した.
試験用黒糖製造において,仕上加熱工程と冷却撹拌工程を連続して実施できる,卓上型の黒糖試験製造装置を開発した.この装置は,PC制御されたマイクロヒーターと水道水利用の冷却管を備えた加熱冷却容器,および撹拌トルクを検出できる撹拌装置から構成される.この試験製造装置を用いて黒糖を試作する過程で,冷却撹拌工程の終了時に品温が上昇する現象を見出した.この品温上昇は,温度上昇幅と糖蜜の推定比熱からショ糖の結晶熱が要因と推測された.