ナチュラルチーズ6タイプ,計13種類を小麦粉に対して10 %添加して焼成したパンの香りの評価方法として色彩による評価方法を検討し,チーズブレッドの香りが色彩を用いて評価できることを明らかにした.また色彩による評価結果は揮発性成分とも関連付けることができ,以下の結果を得た.
チーズブレッドの香りについて色彩を用いて評価し主成分分析を行った.第1主成分はトーンの違いが寄与しており「チーズブレッドのこうばしい香りの強弱」,第2主成分は色相の違いが寄与しており「パンの香りのバランス」,と解釈できた.また分析型パネルの色彩評価の結果は,嗜好型パネルによりパンの香りのイメージが表現されていると評価された.
チーズブレッドの揮発性成分は,チーズ由来の揮発性成分である酸類やケトン類の他,イーストの発酵により生成したアミノ酸由来のアルコール類,酸類とアルコール類が反応して生成したエステル類,メイラード反応により生成したアルデヒド類や複素環式化合物類により構成されていた.揮発性成分と色彩評価の結果を相関分析したところ,主にメイラード反応により生成するアルデヒド類や複素環式化合物類はpale,lightと負の相関,deepと正の相関が見られた.
本研究によりチーズブレッドの香りは言葉や成分で表現可能なだけでなく,色彩により可視化できる可能性が示された.
高齢者の日常生活における危機管理能力を知ることを目的に,食べ物の劣化の指標として,酢酸,トリメチルアミン,メチルメルカプタン水溶液を選び,濃度をlog比0.5として,酢酸は10段階,トリメチルアミンは11段階,メチルメルカプタンは13段階の濃度の異なる試料を調製した.水と区別できる濃度を検知閾値とした.検知閾値の濃度から順次濃度を上げて,何のにおいかわかった濃度を認知閾値とした.各回に高齢者50名と若年者35名を対象とした.
いずれの試料についても高齢者は若年者より閾値が上昇し,においに対する感度が衰えていることがわかった.さらに高齢者および若年者について一人ひとりのデータから,検知閾値と認知閾値の差を求めた.高齢者ではその差は小さく若年者の方が大きかった.
用いたデータ解析の方法として,1.フィットを用いることによってデータの偏りを回避して,定量的な結論を得た.2.「対標本」を用いることによって,いずれの物質においてもパネルの検知閾値と認知閾値が有意に異なることをみいだした.などの特色がある.
最後に,高齢者に以前と比べてにおいを感じにくくなっていると思いますか,と聞いたところ,高齢者の76 %は自分のにおいの感度の低下を自覚していなかった.
本研究の結果,高齢者は嗅覚の閾値は若年者に比べ上昇しており,しかも,高齢者は聞き取り調査により,それを自覚していないことがわかった.劣化した食物を食べたりすることのないように高齢者にこのことを注意喚起すると同時に,周囲の人も高齢者に対し見守りや注意をする必要がある.
小麦粉45%,ショートニング25%,砂糖20%,および鶏卵10%から成る,基本的な組成のクッキーを作製し,170℃,11分間で焼成した後,臭い物質を連続水蒸気蒸留抽出(SDE)によりエーテルへ抽出した.エーテル濃縮液を0.25mm IDのDB-WAXカラムを用いたGCMSにより組成を同定して65種の物質が同定された.さらに,エーテル濃縮液を希釈したのちにそれぞれをDB-WAXカラムへ注入し,カラム出口で臭いの強度を検出するAEDA法により主要な臭い物質を検索した.その結果,クッキーの臭いを最も特徴づけている物質は2,5-dimethylpyrazineであり,次に特徴づけている物質は1-octen-3-oneと2-acetyl-1-pyrrolineであった.他に,いくつかのpyrazine化合物,aldehyde化合物,ketone化合物が主要な臭い物質であった.