シークワシャー果実(16系統)および比較対照としてシキキツ,ナツダイダイ,バレンシアオレンジ,ウンシュウおよびポンカンから果汁を搾汁し,果汁中の13成分のフラボノイド含量および48成分の香気成分組成比を測定した.また,これらの成分を変数として多変量解析を用いて,特性評価を行った.
フラボノイド成分では,伊豆味クガニはナリンギンが検出され,ネオヘスペリジンを多量に含有したため,他のシークワシャー系統と異なる性質を有していると考えられた.ポリメトキシフラボノイド類の一つであるノビレチンは,シークワシャー系統では1.4~18.1 mg/100 mL含有していた.フラボノイド成分による主成分分析の結果,勝山クガニ,A-5西表島およびB-38マヤーガーが構成するグループのポリメトキシフラボノイド類が高く,機能性食品素材としての利用に適すると考えられた.
香気成分組成では,伊豆味クガニのリナロール組成比が他のシークワシャー系統より高く,香気パターンが異なっていた.香気成分組成による主成分分析の結果,現在果汁飲料の原料によく用いられる大宜味クガニと勝山クガニが第4象限に位置した.
フラボノイド成分と香気成分組成比を合わせた主成分分析では,伊豆味クガニ,大宜味クガニおよびシキキツがそれぞれ離れて位置した.また,シークワシャーのみで3グループ,比較対照としたカンキツで1グループとなり,複数成分を合わせて検討することにより,より正確な相対関係を明らかにできた.
フィルム式多点圧力センサーと一軸圧縮試験機を用いた新規食感評価法を開発した.本食感評価法を用いると「つるつる感」,「ねっとり感」のような,広く普及している評価方法が確立されていないゲルの接触面での変形挙動に関わる食感を精度よく推定できた.また,標準試料のバラエティを増やすことで本評価法の推定精度が向上する場合があることが確認された.
ホエイ粉の噴霧乾燥機内壁に対する付着現象を対象とし,1)CFDシミュレーションの確立,2)CFDシミュレーションの精度向上,3)ホエイ粉の付着現象の解明に関した検討結果を報告した.
まず,CFDシミュレーションの確立に向けて,液滴含水率の低下に伴う乾燥速度の低下(減率乾燥),ガラス転移温度に応じた乾燥機への付着堆積をCFDシミュレーション上に再現する必要があった.脱脂粉乳およびホエイ粉を対象とした単一液滴乾燥試験およびDSCの結果に基づき,減率乾燥および付着堆積をモデル化した.
次に,乳製品の噴霧乾燥におけるCFDシミュレーション精度の向上を検討した.CFDシミュレーションにより,減率乾燥を考慮しない計算では液滴水分のほぼ全量が出口に到達するまでに蒸発するのに対し,減率乾燥を導入したモデルでは液滴含水率の低下に伴い水の蒸発が抑制されることが明らかとなった.付着堆積モデルを組み込むことで,ホエイ粉の付着位置がチャンバー胴部の上部やコニカル部で観測され,実現象が再現されていた.つまり,Kweiの式に近似したガラス転移温度の含水率変化,Patersonの付着判定式,Walmsleyの付着式を組み合わせた付着堆積モデルは,脱脂粉乳だけではなく,ホエイ粉の噴霧乾燥における付着に適した有用なモデルであった.また,実測値との比較において,蒸発効率,蒸発容量,蒸発流量,熱効率,乾燥機入口の空気温度,胴部の上部の壁面温度,コニカル部の空気温度および排風温度に整合性を確認し,CFDシミュレーションは実際の噴霧乾燥の応答傾向を高い精度で再現できた.
最後に,ホエイ粉の噴霧乾燥における付着現象の機構を検討した.その結果,ホエイ粉の方が脱脂粉乳よりもガラス転移温度の低い粒子割合が高いため,“付着”と判定された粒子が増加することが分かった.
以上のように,減率乾燥および付着堆積のモデルを導入することにより,脱脂粉乳だけではなく,ホエイ粉の噴霧乾燥を対象としたCFDシミュレーション精度が向上した.ホエイ粉の付着はガラス転移温度の低い粒子の影響であることが明らかとなった.
ルテインを関与成分とした機能性表示食品開発の可能性を検討するため,生鮮コマツナのルテイン含量および乾燥粉末化に伴う含量変化に関する研究を行った.
生鮮コマツナ6品種(目標サイズ「M」)のルテイン含量は3.7~5.4 mg/100 g FWの範囲で,最大葉先端部のSPAD値に対し正の相関を示した.同一品種の目標サイズ「M」と「L超」を比較すると,「M」のルテイン含量が高かった.これは,生育に伴って,ルテイン含量の低い葉柄部の割合が増すことによって生じている.
ルテイン含量の高いコマツナ乾燥粉末を得るためには,乾燥前にブランチングを実施することが重要であり,高温での乾燥を避けることが望ましい.実験室で調製したコマツナ乾燥粉末(「いなむら」使用,ブランチング実施,乾燥温度40 ℃)のルテイン含量は,製造直後の時点で0.92 mg/g DW(粉末重量当たり 0.86 mg/g)であった.コマツナ乾燥粉末のルテイン含量は,6ヵ月の保存(20 ℃・遮光)により20 %低下した.一方,-30 ℃・遮光条件下で保存した場合,6ヵ月後にも製造直後の値を維持していた.
以上のことから,適切な品種や加工条件を選択すれば,生鮮コマツナの場合は200~400 g/day,コマツナ乾燥粉末の場合は12~24 g/day摂取することで,網膜黄斑部の色素量増加が報告されているルテイン摂取量(10~20 mg/day)を充足できる可能性がある.
本研究では,発酵および非発酵ルイボスティー(RTおよびGRT)の抽出時の茶葉量,時間および温度によるポリフェノール含量および抗酸化活性への影響を調べた.
500 mLの水道水を沸騰させた熱水で茶葉1.5-10 gを10分間浸漬した「お湯出し」条件では,茶葉量は,1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル(DPPH)ラジカル消去活性(抗酸化活性)と正の相関関係示し,茶葉5および10 gのRTと比べて,GRTは半分の茶葉量で同レベルの抗酸化活性を示した.また,茶葉5 gを500 mL熱水で5-20分間お湯出しした場合,RTでは15分以上,GRTでは20分以上浸漬することにより,より効率的にポリフェノールや抗酸化活性を引き出せることが確認された.7 °C,12時間浸漬の「水出し」条件(茶葉5 g/500 mL)では,ポリフェノール量と抗酸化活性はRTでお湯出し5分間,GRTで10-15分間と同程度であることがわかった.RTは茶葉5 g(/500 mL),10分間,70および80 °Cは沸騰を保った沸騰水の抽出「煮出し」と比較して,総ポリフェノールおよびアスパラチン含量,DPPHラジカル消去活性に大きな違いは見られなかった.GRTにおいても80 °Cと沸騰水ではポリフェノールおよびアスパラチン含量に有意な差は認められなかった.本実験で検討した条件では,茶葉量10 g/500 mL,10分間お湯出しは,総ポリフェノール含量(RT:756±9;GRT:939±5 µg/mL),アスパラチン含量(RT:10.6;GRT:363 µg/mL),DPPHラジカル消去活性(RT:3.62;GRT:5.87±0.03 mMアスコルビン酸当量)が最も高い条件であった.また,本研究により,RTおよびGRTは,「お湯出し」および「水出し」でもポリフェノールおよびアスパラチンや抗酸化活性を有することが確認された.