農林1号,5号,シロセンガン,ポートリコの4種の甘藷を焙焼,磨砕,乾燥して焙焼藷粉を調製,小麦粉に配合してスポンジケーキをつくり,味,すだち,香などについて嗜好調査を行い同時に鮮度保持の効果を検討した。
(1) 焙焼藷粉の製法は甘藷を洗滌後,200℃にて焙焼,剥皮後磨砕して得たパルプを鉄板上にのばして乾燥した。米国では甘藷を十分煮熟したものをチヨッパーにかけパルプ状とし,これを帯状または紐状にバンドオーヴンのエンドレスベルト上に押出し焙焼しているが,小規模には石焼藷を乾燥する方式でも実施できる。
(2) 上記の乾燥は藷の品種により難易あり,粉質の藷は粘質のものに比し乾燥し易い。すなわち農林1号,同5号,シロセンガン,ポートリコのうち粉質の農林1号は最も乾燥し易かつたが,還元糖は最も少なかつた。したがつて乾燥難易のみで適種を決めるのは早計である。(3) 藷粉中の還元糖は藷の加熱処理により著しく増加し約50%が葡萄糖になつている。
すなわち菓子にこの藷粉を利用することは50%の葡萄糖を用いることになる。
(4) 焙焼した藷粉は香ばしいが,やはり藷特有の臭があり,またケーキやビスケットに入れると膨脹度がわるくなるので,配合には限度がある。試験の結果これを小麦粉の20~25%とした。
(5) 小麦粉に20%焙焼藷粉を混合してスポンジケーキを焼き嗜好調査の結果,膨らみは少し悪いが,いずれも配合しないものに比し嗜好上何の遜色もないことを認めた。各種の藷を用いた場合。製品に対し嗜好上多少順位ができるか否かは更に検討を要する。
(6) スポンジケーキに入れると製品は普通のものに比しやや固く,スポンジようの軟い弾力は多少失われるが,焙焼藷粉の保水性により乾燥しにくく,長く始めの性質を保つことができる。
しかしながら今回の保水性の実験はきわめて不備で,乾燥条件も温度のほか何も明らかにされていないので,さらに検討する考えであるが,クリスマスケーキのようにある程度店頭に置かざるを得ないものに対しては加えた方がよいと思われる。
(7) 最近わが国における甘味料自給の方針に従い,甘藷は結晶葡萄糖に加工され製菓原料として使用されるように指導されているが,砂糖に比し生産費が高くなる点に悩みがあり,製菓業者もこれを利用するのに苦労している。もちろん葡萄糖としては結晶葡萄糖のような純粋なものを用いるのに越したことはないが,価格が高いと使い切れないので,一部にはシロップ状にして安くしてはという意見もある。筆者はジユースやキャンデー類には精製葡萄糖が必要であるが,ケーキやビスケット類にはここにのべた焙焼藷粉を用いることも成立たないことはないと考え,時代に逆行するようであるが,敢えて実験してみたわけである。この種の藷粉を菓子に入れることはすでに米国で行われており,粉はAlamaltという商品名で売られている。すでに応用されている菓子名を挙げるとつぎのとおりで,かなり範囲が広い。fruit cake,1ayer cake, southern brown bread, cookies biscuit, muffins, pies, icings, ice cream, milk shake, hard brittle candy, chewey type of gum candy, praline.
しかし藷粉は砂糖の代用という意味ではなく,品質を向上させる目的に使われている。
今回もシンナモンロールビスケット,ジャムブル,ピーナッツバタークッキース,ランチビスケットなど2,3試作してみたが,20%の藷粉を混用した場合,通常混用に気がつかなかつた。
最近ビスケット業界ではバンドオーヴンがしきりに増設され,設備が過剰になつてきているので,これをある程度藷粉の処理に活用できるのではないかということも考えられる。
終りに本研究に当り種々御世話になつた食糧研究所鈴木繁男先生,千葉農業試験場小野田正利先生および隔離増殖部の方々,森永製菓研究所,明治製菓研究所,日本製粉中央研究所の方々に深謝する次第である。
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