(1) みそ・しょうゆにおけるIR物質の生成はアミノ酸と糖による褐変反応に基くものと考えられる。みそ・しょうゆに存在する程度のIR物質ならば,微生物の働きを考えずに,アミノ酸と糖の反応だけでその生因を十分説明できる。
(2) みそ・しょうゆの色の非酵素的な生因はかなり単純で,アミノ酸(あるいは蛋白質)と糖による褐変が中心になるものと考えられる。
現在,非酵素的な褐変現象として,アミノ酸-糖,アミノ酸-レダクトン,アミノ酸-活性カルボニル化合物の3つの反応が考えられている
5)。しかし前報
12)のようにみそ・しょうゆの色の生成には,アミノ酸-活性カルボニル化合物の反応はあまり重要でない。(新式2号しょうゆやアミノ酸しょうゆを除く)。
そして前報
12)のように,みそ・しょうゆにアスコルビン酸程度の反応力を持つレダクトンがたとえ100mg%ぐらいできたとしても,色の生成にほとんど影響がなくこの報告にあげたように,みその搾り汁やしょうゆ,あるいはアミノ酸-糖混合液などを貯蔵すれば,着色の場合とは違って酸素があってもなくても物質が同じようにふえることなどから,アミノ酸-レダクトンの反応が起こる可能性もごく少ないと思われる。
もっとも,HODGEら
19)やANETら20)の報告にあるように,アミノ酸と糖が褐変を起こすさいに,中間体として無色のレダクトンができるという事実もあるから,レダクトンの問題はアミノ酸-糖の反応あるいはアミノ酸-レダクトンの反応などとは分けないで,アミノ酸-糖の反応いっぽんで新らしい見地に立って追求することが必要である。なお,オレンジジュースなどの褐変には褐変の程度や成分がひじょうに違うから,こういう考え方は通用しない。
(3) しょうゆをペーパークロマトグラフで調べるとIR物質と褐色色素のスポットはだいたい重なるが,くわしい関係はまだわからない。
褐色色素のRfを文献値と比べると第4表のようになる。褐変したグリシン-糖混合液に食塩を加えて展開すると褐色色素のスポットは1個ふえて2個になるが,これは色素が塩析されて起こる現象だと思う。大亦ら
16)や三井・児玉
15)も,しょうゆの色素は2成分からできていると報告しているが,どちらもしょうゆをいったん活性炭カラムに通し,色素をカラムに吸着させてよけいな成分を除き,そのあと苛性ソーダで色素を溶出し,塩酸で中和しているからやはり色素が塩析されているのであろう。
(4) しょうゆと褐変したグリシン-フルフラール混合液のペーパークロマトグラムを比べると,後者にはしょうゆには見られないRfの高い,あい色の螢光スポットがある。また,褐変したグリシン-フルフラール混合液に限って,食塩を加えると褐色色素がかなり沈澱し,グリシン-糖混合液よりも,色の着き方に比べてIR物質のでき方が少ない。こうした事実からもみそ・しょうゆの色が
糖→分解→フルフラール
フルフラール+アミノ酸→褐変
という径路をとらずにできることが考えられる。
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