1963年長野県更埴市雨宮産のナガイモを試料として,新食品開発の目的をもって,熱風および凍結乾燥によって粉末を作り,生イモならびに「山芋の粉」との化学的組成,ビタミンC含有量,β-アミラーゼ活性および粘度などについて比較検討し,つぎの結果を得た。
(1) ナガイモは乾燥しやすいので乾燥は容易であるが,前処理中時間が経過すると褐変しやすい。とくに首部が早く褐変しやすいのですみやかに処理することが大切である。外観的に熱風と凍結両乾燥製品を比較すると,凍結のほうが褐変少なく柔らかで,粉末にした場合,容積比重小さく多孔質で軽い。
(2) ナガイモの一般的化学組成については,産地その他の影響が比較的少なく,類似の成分組成をもっている。各部組成の相異点としては,首部より尻部に向い次第に水分が少なく組織が密になるが,乾物としては可溶性無窒素物を除いて,他の諸成分はいずれも尻部より胴部,首部の順に増加する。
(3) 還元性ビタミンCは,生イモで約5mg%含むが,乾燥によって失われる量がきわめて少ない。相当量失われることを予想した熱風乾燥法でも,低温で処理がよければ損失が少なく,凍結乾燥法とほとんど変らない。
(4) β-アミラーゼ活性は乾物1g当たり10~25単位で,同じイモ類のサツマイモ,サトイモなどに比しきわめて少なく,乾燥による減少もまたわずかで,熱風と凍結乾燥についての差はほとんど見られない。
(5) 静岡産寒製「山芋の粉」について,還元性ビタミンC,β-アミラーゼ活性を測定したが,本実験によるナガイモの乾燥物より,それぞれきわめて低い測定値を得た。これは乾燥の方法および時日の経過による貯蔵中の変化と考えられる。
(6) 回転粘度計を用いて,生イモと両乾燥法による粉末に加水したものの粘度を比較したところ,粘度は乾燥により著しく減少し,とくに熱風乾燥の場合ははなはだ低くなる。凍結乾燥の場合はそれでも,生イモに対する水分比0.9ぐらいで,実際のとろろ汁の粘度と同程度に止まることが認められた。しかしここで数量的に測定できなかった曳糸性ともいうべき粘度は,乾燥によって失われるようである。
(7) 乾燥粉末に加水して,とろろ汁と似たものを作り食味した結果,とくに粉っぽさ,辛味などに少しく難点を持ち,色や香気よりも味に問題を残している。今後この点を研究して行きたい。
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