トマト果実の着色に伴うクロロプラストの糖脂質の消長と形態的変化を調べた。
(1) 緑色果では,糖脂質,クロロフィル含量が多く,果実が着色するbreaker期からlight pink期にかけて,その含量は激減した。タンパク質は成熟とともに増加し,breaker期でもっとも多く,その後着色が進むにつれて減少した。リン脂質についても同様の傾向がみられた。
(2) クロロプラスト中の糖脂質のうちmonogalactosyl diglyceride (MGDG)とdigalactosyl diglyceride (DGDG)の脂肪酸組成をガスクロマトグラフィーで分析した。MGDGについては,linoleic acid, palmitoleic acidなどの不飽和脂肪酸が多く,緑色果ではlinolenic acidもかなり含まれていた。果実が着色しはじめるlight pink果ではlinolenic acidはほとんど消失した。一方,DGDGはlinolenic acidがほとんど存在しない。着色が進むにつれ,しだいに不飽和脂肪酸が多くなった。
(3) トマト果実およびクロロプラスト中の遊離脂肪酸を調べたところ,果実では,breaker期で一時多くなり,light pink期で減少し,その後多くなった。一方,クロロプラスト中の遊離脂肪酸は,mature green期でもっとも多くlight pink期で最少となり,着色が進むと再び多くなった。両者の脂肪酸組成をみると,トマト果実では不飽和脂肪酸が多く,クロロブラストでは逆に少ないことがわかった。
(4) 果実の成熟に伴うクロロフィラーゼ活性の変化は,breaker期でもっとも強く,着色が進むと活性は低下した。クロロフィル含量もbreaker期からlight pink期にかけて急減した。
(5) 果実の着色に伴うクロロプラストの形態変化を電子顕微鏡で観察した。緑色果のクロロプラストは,緑葉植物のものとよく似ており,ラメラ構造が発達している。着色が始まるbreaker期ごろのクロロプラストは,ラメラ構造が薄くなり,所々に球体が認められる。dark pink期になると,緑色果のものと明らかに異なり,ラメラ構造はなく,球体が多くなることが観察された。
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