本研究はバナナ果実のおもな揮発性物質であるエステルの生成における,酸とアルコールの結合する機構について調べたものである。
バナナ果肉切片より抽出したエステラーゼの活性は,熟度が進むにつれて増加するが,これを果肉切片に酸とアルコールを添加したときのエステル生成と比較すると大体において平行して増加する。しかしこれら活性には差がみられ,香りの生成のない緑熟果においてもエステラーゼ活性を示すことや,過熟段階での活性低下の時期的なずれを認めた。また維管束部におけるエステル生成の高まる熟度(黄熱果)では,これから抽出したエステラーゼの活性はほとんどなかった。さらにEPN(エステラーゼの阻害剤)を維管束部より抽出したエステラーゼに添加すると低濃度で阻害されたが, EPNを維管束部に添加し,そのエステル生成能への影響をみたところ,かなりの高濃度でないと阻害がみられなかったことから,エステラーゼのエステル生成への関与はないものと考えられた。
つぎにacetyl CoAを経る経路をみるため, α-phenylbutyrateおよびp-hydroxymercuri-benzoateを維管束部に添加したところ,エステル生成能は著しく阻害された。バナナの果肉より,遊離の果肉細胞および維管束部を作り,これをhomogenateし, acetyl CoAをアルコールとともに添加すると非常に強いアセテートエステルの生成がみられた。このことからバナナ果実におけるエステル生成は,酸基がacyl CoAを経てアルコールと結合することにより行われるものと判断された。この反応は熟度の進んだ過熟果よりのhomogenateにおいて活性が強く,その最適pHは7.5であることを認めた。
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