微生物リパーゼにより,乳脂肪を処理し,天然の乳製品フレーバーを作ることを目的に,各種起源のリパーゼによる生成フレーバープロフィルの比較ならびに処理条件の検討を行なった。
(1) 基質とした全乳,クリーム,バター中の遊離脂肪酸のプロフィルは,前2者では比較的類似しており,バターのみ低級脂肪酸の含量比の小さいことが注目された。これらのプロフィルは以後のリパーゼ処理により生ずる脂肪酸プロフィルと比較された。
(2) クリーム形態の乳脂肪を各種リパーゼで処理し,その脂肪酸プロフィルを比較したところ,動物リパーゼと微生物リパーゼのそれにおいては低級脂肪酸の分解様態にかなりの差がみられた。微生物リパーゼ間では差は比較的小さかった。官能的にみると,リパーゼの起源によりそれぞれ特有のフレーバーを有しており,未処理クリーム中の遊離脂肪酸プロフィルに近いものでは,クリームないしバター的なフレーバーの増強されていることが認められた。なかでも,Candida cylindracea lipaseにより生成されるフレーバーがパネルテストにより最もよいとの結果が得られ,以後本酵素を中心に検討を進めた。
(3) Candida cydindracea lipaseにより処理された濃縮全乳,クリーム,バター中の遊離脂肪酸のプロフィルを比較したところ,前2者のそれはよく類似していたが,バターでは低級脂肪酸の含量比が低く,高級脂肪酸のそれの高いことが認められた。これは未処理基質中のそれぞれの遊離脂肪酸のプロフィルによく類似していた。
(4) Candida cylindacea lipaseの乳脂肪分解においては,分解の進行度により,遊離脂肪酸プロフィルに差の生ずることが認められた。
(5) Candida cylindracea lipaseによる濃縮全乳,クリーム,バターの分解曲線を取ると,クリームのみに反応に誘導期のあることが認められた。この現象は他のリパーゼにはみられなかった。
(6) Candida cylindracea lipaseは濃縮全乳,クリーム,バター形態の乳脂肪を効率的に加水分解し,その処理物は各種食品に添加され,乳製品のフレーバーを効果的に発現することが明らかとなった。
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