壷酢製造における振り麹の役割について,実際に鹿児島県姶良郡福山町で,工業生産規模の仕込みを行い検討した.
(1) 振り麹添加の有無による発酵への影響については,振り麹有りではアルコール生成及び酢酸発酵は順調に行われたが,振り麹無しではアルコール生成は早く,生成量も多く,以後の酢酸発酵の開始が遅れ,発酵期間も長かった.過剰なアルコールは,酢酸菌による酢酸発酵を阻害することが分った.
(2) 振り麹添加の有無による有機酸生成の影響については,酢酸以外の有機酸については,乳酸の含量が一番多く,振り麹有りの方が振り麹無しのものより,乳酸は多かった.この他に,コハク酸,ピログルタミン酸,ピルビン酸,リンゴ酸の生成がみられた.
(3) 振り麹添加の遅延による発酵への影響については,振り麹の散布が遅い程アルコール生成が早く,その生成量も多く,以後の酢酸発酵は順調に行われなかった.
(4) 振り麹の代替として,発泡スチロール板を表面に浮かせて,壷酢製造を行った所,仕込み後20日目で取り除いたものは,順調に酢酸発酵は行われたが, 90日間の発酵期間中,発泡スチロール板を浮かせたものは,酢酸発酵は行われなかった.
(5) 仕込み時に酵母を添加した所,添加菌数が多いとアルコール生成は多く,以後の酢酸発酵は行われなかった.酵母無添加でアルコール発酵を行った後,酢酸菌を添加して酢酸発酵を行ったものは,無添加と比較して酢酸発酵に差はみられなかった.
仕込み直後に行われる振り麹は,仕込み初期の急激なアルコール生成を抑えると同時に,種々のカビや産膜酵母等の混入防止の役割と,乳酸菌群から酵母菌群さらに酢酸菌群へのフロラの推移を司どり,壷酢製造における重要な役割を果していることがわかった.
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