理論と方法
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15 巻, 1 号
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2000年連続特集 新たなる社会学の構想 ポスト・グランドセオリー時代における理論と方法
会長講演
  • ─構想としての探求─
    盛山 和夫
    2000 年 15 巻 1 号 p. 3-16
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
     今日、社会学とその関連分野は深い混迷の中にあるといっていいだろう。1968 年を境に、それまで研究共同体を支えていた二つの信仰があっという間に崩壊してしまい、いまや何ら共通の信仰(形而上学、理念)も共通の言葉もないまま、公式組織(大学、学会)の中に共同体の形骸をさらすのみである。こうした中で、数理社会学がどのような意義を持ちうるのか、そしてそれはいかにして可能なのか(土場(1996)の問題提起を参照されたい)。1970 年代のはじめ、さまざまな新しいパラダイムが出現して注目されていった中に、数理社会学もその一つとしてあった。他には、現象学的社会学、レイベリング論、エスノメソドロジー、社会構築主義、フェミニズム、エスニシティ研究、カルチュラル・スタディーズ、文化的再生産論、従属理論、世界システム論、社会システム論、言説分析、ポスト構造主義など、枚挙にいとまがない。数理社会学はこうした他のパラダイムと比べるとやや特殊な位置に立っている。他の多くが、とりわけポスト構造主義が典型的にそうであるように、近代的な知のあり方の脱構築をめざしているのに対して、数理社会学は数学を用いた合理的な知識の体系という、見方によっては時代錯誤的な目標をかかげているのである。現象の数理的把握という方法は、ガリレオやニュートンによって近代科学が華々しく興隆していく上での基盤であったが、それは、脱構築派からみれば、単なる「現前」についての知識にすぎないということになる。
     他方、数学は基礎づけ主義的思考の大いなる源泉であった。ホッブズもカントもユークリッド幾何学の華麗な体系に魅了されていた。自明で疑いえない真理から出発して正しい世界もしくは世界像を構築していくことがめざされていた。しかし今日、この公理主義的世界観はうさん臭く思われている。
特集I <社会>への新たな知
  • 土場 学
    2000 年 15 巻 1 号 p. 17-20
    発行日: 2000年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
  • 大澤 真幸
    2000 年 15 巻 1 号 p. 21-36
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
     人間を人間たらしめている条件は何か? われわれは、それを「原的な否定性」の成立に見ることができる。「原的な否定性」とは、始発的な禁止、根拠を問うことができない禁止のことである。それぞれの原的な否定性がその妥当な効力を発揮しうる範囲が、社会システムの境界を定めている。それゆえ、原的な否定性の起源を問うことは、人間的な社会性の起源を解明することでもある。本稿は、そうした探究のための準備作業である。社会生物学は、「利己的な遺伝子」の理論によって、動物個体の間に、原始的な社会性が一般に成立しうる、ということを論証してきた。人間に固有な〈社会性〉は、こうした原始的な社会性との差分によって定義することができる。ここでは、二つの供儀的な殺害行為を対照させることで、すなわちチンパンジーの子殺し行動とキリストの殺害とを対照させことで、完全に人間に固有な〈社会性〉が、第三者の審級を超越的な準位へと分離することの成功によって画される、という仮説を導き出す。チンパンジーの子殺し行動は、―これと機能的に等価な代替関係にあるボノボの特殊な性行動の機能を考慮に入れてみるならば―第三者の審級の投射に反復的に挫折する営みとして解釈することができる。それに対して、キリストの磔刑は、第三者の審級を投射する機制を「脱構築」するものである。両者は、事前と事後の両側から、第三者の審級を投射する機制の実態を照らし出す。
  • ―N.ルーマンの相互作用システム論から―
    佐藤 俊樹
    2000 年 15 巻 1 号 p. 37-48
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
     社会学は「システム」という用語を瀕用するが、その経験的意義は決して明確ではない。ここではN.ルーマンのシステム論を、相互作用システムという事例から考察する。彼の理論は行為概念の変更までふくむラディカルなものであり、「社会とは何か」への有力な答えとなっている。だが、厳密にその論理をおっていくと、複数のレベルを交錯させることで、システムの実在性を不当前提している可能性が高い。そのことは、たんに「システム」だけでなく、「行為」「コミュニケーション」「社会」といった社会学の基本概念自体に再検討をせまる。
  • ―全体性/全域性の現在的位相をめぐって―
    遠藤 知巳
    2000 年 15 巻 1 号 p. 49-60
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
     社会学および近接領域における言説概念の導入は、具体的形象の歴史記述を通して近代性を批判的に解体することを目指したミシェル・フーコーの言説分析の手法のインパクトによりもたらされた。だがそれは同時に、本来的には反-概念であるはずの「言説」という発想が平板化されたことの証でもある。フーコー自身の思考のなかにも潜んでいたこの平板さは、われわれにとって、社会の全体性/全域性に対する超越的視線を解除することが、どれほど困難であるかを証明している。全体性/全域性の現在形を描写しつつ、その多重的解体という、言説分析の本来的課題を遂行する方途をさぐる。
  • ―経験的データをもちいた概念分析としての相互行為分析―
    西阪 仰
    2003 年 15 巻 1 号 p. 61-74
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
     H. サックスは1960年代半ばに、反復可能な現象の産出手続きの探究としての社会学という考え方を提出した。いわゆる「会話分析」の始まりである。本稿では、ここに構想されている社会学に対して一つの像を与えてみたい。第一に、この社会学は、P. ウィンチのいう意味での「概念的探究」にほかならない。あるいは、ヴィトゲンシュタインのいう意味での、概念の結合関係の「見通しのきいた記述」こころみにほかならない。第二に、常識的および社会学的な行為の説明が、行為そのものと同様に、概念の文法の適用として産出される規範的な現象であるのに対して、サックスの「手続きの探究」は、その概念の文法(規範構造)そのものの探究である。その意味で、それは、常識的な説明とも従来の社会学的な説明とも論理的身分を異にするものである。第三に、会話分析(もしくは相互行為分析)が経験的データの詳細な分析にもとづくものであるとしても、そのデータは、あくまでもウィンチのいう「概念の用法を思い起こさせる」ものであって、理論的仮説を「検証」するためのものではない。
原著論文
  • 伊藤 公雄
    2000 年 15 巻 1 号 p. 75-88
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
     「カルチュラル・スタディーズとは何か」。この問いかけに対して、簡略に語ることはむずかしい。というのも、この研究スタイルはひとつの声で語ることがないし、またひとつの声で語ることができないからだ。また、ここには、二〇世紀後半の多様な知的潮流や政治的な流れが合流しているからでもある。本稿は、こうしたカルチュラル・スタディーズの輪郭を、その来歴を溯って描く試みである。カルチュラル・スタディーズの背後には、1960年代のニューレフトの影響が明らかに存在している。と同時に、イギリスにおける文化主義との結び付きもまた明らかなことだ。さらには、構造主義やポスト構造主義といった現代の思想潮流の積極的吸収も、この研究スタイルの特徴だろう。また、カルチュラル・スタディーズの登場は、グローバライゼーションやポストモダンと呼ばれる現代社会の変容とも密接に関連している。カルチュラル・スタディーズの輪郭を探るなかで、カルチュラル・スタディーズが、私たちに、つまり、社会学に何を提起しようとしているのかについて考えてみたい。
研究ノート
  • 坂本 佳鶴恵
    2000 年 15 巻 1 号 p. 89-100
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
     本稿は、ポストモダン・フェミニズムの理論枠組みの特徴とその展開の可能性を具体的に論じたものである。ポストモダン・フェミニズムは、デリダなどのポストモダニズムの思想の影響を受けながら、反本質主義と差異の重視を特徴として、独自に展開した90 年代の新しいフェミニズムの流れである。具体的には、意味カテゴリーや表象の問題に、新しい観点の分析をおこなっている。日本もふくめて、先進諸国では、自由主義の立場からフェミニズムに対する疑問や、フェミニズムがうまく取り組めていないさまざまなマイノリティの問題が提起されているが、ポストモダン・フェミニズムは、そうした問題に対処するための枠組みを提供しようとしている。ポストモダン・フェミニズムは、日本では、たとえば、近年のミスコンテスト、売買春をめぐる論争に対して、新しい観点を提供しうる。まだ多くの課題を抱えているが、これからの展開が期待される。
  • ―という社会学の計画―
    立岩 真也
    2000 年 15 巻 1 号 p. 101-116
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
     社会学が、規範的な問題を、政治/経済/家族/その他の自発的関係という4つの社会領域の境界を問いながら、もっと考えたら、おもしろいと思う。
  • ―ポスト・ハーバーマスの批判的社会学へ向けて―
    土場 学
    2000 年 15 巻 1 号 p. 117-134
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
     ハーバーマスは、『認識と関心』において、理論と実践の統一的な研究プログラムとして批判的社会学(批判的社会理論)を構想した。そこにおいてハーバーマスは、認識を導く関心というアイデアをもとに、技術的認識関心に導かれる科学、実践的認識関心に導かれる解釈学、そして解放的認識関心に導かれる批判的社会学という認識類型の認識人間学的な正当化を試みた。しかしこの構想は、ハーバーマスの学問的営為のなかで、認識論からコミュニケーション論へというコミュニケーション論的転回によって放棄されることになった。そしてそれと同時に、理論と実践の統一という要請も断念されることになった。この構想の綻びは、ヘーゲル-マルクスの歴史哲学を継承した「人類主体」という実体概念を認識の最終審級に置く主体哲学に淵源する。しかしながら、こうした主体哲学を放棄するならば、アイデンティティ(自立性)を確立する政治的過程としての「承認をめぐる闘争」にその立脚点を据え直すことによって、理論と実践の統一という要請を断念することなく新たな批判的社会学を構想しえるはずであり、実際今日の批判的研究はかつてのモダニズム/ポストモダニズムという対立軸を越えてこうした構想に収斂しつつある。
原著論文
  • ―政治的機会構造概念の有効性―
    渡辺 勉
    2000 年 15 巻 1 号 p. 135-148
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
     近年の社会運動研究において、政治的機会構造をめぐる議論が活発となっている。しかし、その概念の曖昧性も手伝って、政治的機会構造が先進資本主義国家の社会運動に本当に影響を与えているのか、与えているとすればどのような影響なのかについて、はっきりとした結論が出ていない。そこで本稿では、政治的機会構造を3つの次元で捉え、先進資本主義国家18カ国を対象に、ブール代数分析によって政治的機会構造の社会運動への影響を検討した。そこで次の点が明らかになった。第一に、社会運動は主として政治的機会構造の開放と閉鎖の組み合わせによって生じる。第二に、政治的機会構造の影響は抗議サイクルの初期と後期のいずれにおいても見られるが、その影響の仕方には違いがある。
  • ―格フレームによるSSM職業コーディング自動化システム―
    高橋 和子
    2000 年 15 巻 1 号 p. 149-164
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
     本研究では、統計処理が想定された大量の自由回答のコーディングを支援する例として、SSM(Social Stratification and Social Mobility)調査において必須の処理である職業データ(自由回答が中心である)のコーディングを自動化するシステムを構築し評価を行った。提案システムの特徴は次の3点である。1)職業データに対して自然言語処理(形態素解析と格フレームによる意味解析)を適用することにより、内容を理解する。2)カテゴリー(職業)の定義内容を格フレームにより表現し、辞書にまとめる。3)辞書における述語と格スロット値に対してそれぞれシソーラスを作成し、回答との対応をとる。システムを1995 年SSM調査データに適用した結果、無修正のデータに対しても適合率84.1%、再現率62.0%で、有効性が示唆された。今後、データ入力時に単純な修正を行ったり、システムを使い込むことにより性能を高めることができる。本システムによる効果は、コーディング作業の軽減や一貫性の保証とコーディングルールの明示化であるが、これらは従来、自由回答において問題とされていた点を解決するものである。また、本システムをコーディングずみのデータに適用すれば、すでに得られたコーディング結果についてのチェックを行うことができるが、SSMの職業データにおいてはこの機能の有用性は高いものと思われる。
  • ―学歴移動表を例として―
    保田 時男
    2000 年 15 巻 1 号 p. 165-180
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
     クロス集計表に含まれる欠損データの取り扱いについて、学歴移動表を例にして考察をする。欠損データは、ある調査項目に対する回答拒否や無回答によって発生し、近年その増加が問題になっている。欠損データを持つケースは不完全ケースとして分析の対象から除外されることが多いが、この対処方法は分析結果に偏りを与える。クロス集計表の欠損データを適切に処理するためには、ログリニア・モデル(対数線型モデル)を応用した欠損データの帰属推定が有効である。1985 年SSM 調査の学歴移動表を例に、欠損データを無視した分析の結果と欠損データを考慮に入れた分析の結果を比較した。この学歴移動表では父親学歴の欠損が分析結果に偏りを与えている。比較の結果、欠損データを無視した分析では中等教育から義務教育への下降移動を過小評価していることが明らかになった。
  • 小林 盾
    2000 年 15 巻 1 号 p. 181-196
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
     この論文の目的は、全員一致を目指す合意形成において、どの評価戦略が進化的に安定であるのかを明らかにすることにある。結論として、特定の個人の効用を自分の評価とみなす評価戦略が、全員に等しく配慮する功利主義的な評価戦略と自分のみに配慮する利己主義的な評価戦略にたいして、進化して普及することをしめす。なお、ここで評価戦略とは、他の個人の効用から自分の評価を形成する方法をさす。つぎの結果を得た。(i) まず2人で合意形成を行うならば、もっとも効用が低いプレイヤーのみに配慮するマクシミン的な評価戦略が、功利主義的な評価戦略と利己主義的な評価戦略の中で進化する。(ii) つぎに、3人以上で合意形成を行うばあいでも、この結果は頑健である。(iii) さいごにこの結果を一般化すれば、マクシミン的な評価戦略に限らず、特定の1人の個人の効用を自分の評価とみなす評価戦略が進化する。
  • 辻 竜平
    2000 年 15 巻 1 号 p. 197-208
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
     「集団が構造化する」と言うとき、考えるべき問題が三つある。第一は、どの関係について考えるか(友人関係か信頼関係かなど)、第二は、どのような構造指標を用いてどの構造形態(対称性か推移性かなど)を扱うのか、第三は、その指標値から判断して、集団がどのくらいランダム状態から乖離しているかである。本稿では、集団内部での信頼関係について、その密度・対称性・推移性を考える。そして、いくつかの集団で相手不明条件1回囚人のジレンマゲームを行った結果と、集団の構造化の程度とを比較する。その結果、集団における信頼関係の推移性が高いほど、協力率は上昇するが、集団内の他者の行動予測の正確さは、ランダム状態のときと変わらなかった。このことから、集団は構造化することによって、他者に対する個別的信頼感がなくても、集団構造を当てにした協力が可能になることがわかる。
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