Heider(1958=1978)のバランス理論は、バランス状態とインバランス状態を定義したが、なぜそのような定義が成り立つかについては言及していない。本研究では、バランス理論の基盤として「認知的経済性の原則」を取り上げ、バランス理論は認知的経済性を最大化するよう働くプロセスであったことを示した。バランス理論のプロセスは“心理-論理”と呼ばれる操作で表現されるが、その帰結として、要素間関係を表した関係行列の階数(rank)がより小さいことは、認知的経済性が高いことを意味し、バランス理論と固有値分解が情報圧縮という機能的相同性をもつことを明らかにした。また、人間関係においては関係行列が非対称になり、今まで心理-論理のロジックや固有値分解を用いたアプローチができなかったが、非対称多次元尺度構成法の一種を用いることで、同様の第一固有値の寄与率による情報圧縮を論じることができることを明らかにした。この手法を実際のソシオマトリックスに応用した結果、集団はその構造化の初期段階において、情報圧縮が進んでいくことが示され、認知的経済性の原則を反映した行動により、集団全体としても情報圧縮がみられることを指摘した。最後に、バランス理論=情報圧縮パラダイムの今後の展望と限界について述べた。
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