理論と方法
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19 巻, 1 号
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会長講演
  • ―民主的社会のための新たな集合的意思決定論の構築をめざして―
    富山 慶典
    2004 年 19 巻 1 号 p. 1-16
    発行日: 2004/03/31
    公開日: 2008/12/22
    ジャーナル フリー
     民主的な社会には、2つの異なる集合的意思決定問題がある。ひとつは、人々の選好をいかに集約して社会的選好を導き出すかという問題である。もうひとつは、人々の判断にもとづいていかにして社会的判断を形成するかという問題である。これらの問題を解決するためには、それぞれに相応しい理論と方法が必要となる。これまでの集合的意思決定研究は選好集約論の探求に偏りすぎていた。置き去りにされてきた判断形成論の探求をすすめなければならない。そうだとすれば、選好集約論と判断形成論の基本的な特徴は何か、判断形成論の探求は民主的決定の隣接領域における最近の研究動向といかなる関連性をみてとれるのか、それは現代社会にとってどのような意義があるのか。本稿の目的は、古代ギリシャから現代までの集合的意思決定研究の歴史を概観することにより、これらの問いにたいする展望的な答えを得ようとすることにある。本稿の主張は、選好集約論の探求がもはや不要であるという点にはない。判断形成論の探求をすすめる必要があり、これらの理論が民主的決定にとって相補的な関係にあるという点にある。
特集 社会科学におけるエージェント・ベースト・モデルの最前線
  • 辻 竜平, 渡邊 勉
    2004 年 19 巻 1 号 p. 17-20
    発行日: 2004/03/31
    公開日: 2008/12/22
    ジャーナル フリー
  • 中井 豊
    2004 年 19 巻 1 号 p. 21-36
    発行日: 2004/03/31
    公開日: 2008/12/22
    ジャーナル フリー
     本研究では、「ある様式が大規模に普及する」という意味の熱狂ではなく、「ある様式と類似の様式が連続して普及し続ける」という意味の熱狂現象に注目する。そして、様式の採用に敏感なエージェントや慎重なエージェントから成る人工社会を準備し、熱狂現象を構成するとともに、熱狂が生まれるメカニズムを抽出する(以下、「熱狂の生成モデル(Genesis Model of Enthusiasm)、略してGEモデル」と呼ぶ)。結果は、様式の採用に敏感なエージェントのグループが発生することがきっかけとなり、社会に熱狂的な雰囲気が生まれてくることが分かった。そして、現実の社会現象(少年非行の歴史)に着目し、敏感なエージェントのグループ化と同型の現象が少年非行の歴史の中にも見出されることを示し、GEモデルに対する了解を深める。
  • ―適応的視点と進化シミュレーション―
    塚崎 崇史, 亀田 達也
    2004 年 19 巻 1 号 p. 37-51
    発行日: 2004/03/31
    公開日: 2008/12/22
    ジャーナル フリー
     社会心理学において、エージェント・ベースト・モデルは、社会的影響過程や社会的交換などの対人・集合現象に関する研究で展開されてきた。これらの先行研究におけるモデルでは、集団極化や住み分けが発生する社会的メカニズムを明らかにしたり、また、利他行動が集団内で合理的となる状況の範囲を同定することに成功している。本稿では、これらの展開について議論した後、不確実環境下での社会的学習方略の進化可能性や、集団意思決定における多数決規則の適応価について、エージェント・ベースト・モデルを用いて検討を行った最近の研究を紹介した。そして、エージェント・ベーストの進化シミュレーションを用いた研究を行うことで、様々な社会心理学的現象に関する理論的仮説を組織的に導き出せること、また、生物学や経済学など異なった分野との交流を促進できることを議論した。
  • 太田 勝造
    2004 年 19 巻 1 号 p. 53-65
    発行日: 2004/03/31
    公開日: 2008/12/22
    ジャーナル フリー
     法律学の持つ「後ろ向き」,「個別性」,「言語操作志向」,および「排他志向」の点で,法の分野での社会科学の利用には困難があり,エージェント・ベースト・モデルの利用もその例外ではない.しかし,法学と経済学の学際研究分野である「法と経済学」の近年の発展は,エージェント・ベースト・モデルの法の分野での利用に道を拓いている.たとえば,法現象の分析に,遺伝アルゴリズム,進化ゲーム論,シグナリング理論などの手法が利用され始めている.とはいえ,伝統的法律学自体もシグナル機能を有しており,エージェント・ベースト・モデルをはじめとする新たな社会科学方法論と法解釈学の鬩ぎ合いは続くであろう.
  • ―社会学習動学による規範ゲームの数理的基礎付け―
    出口 弘
    2004 年 19 巻 1 号 p. 67-86
    発行日: 2004/03/31
    公開日: 2008/12/22
    ジャーナル フリー
     本稿で我々は、エージェントベース社会システム科学の研究プログラムにひとつの数理的な基礎を与える、社会学習に関する動学的なモデルとその分岐構造を分析する。そのために代替案選択に関する非定常マルコフ過程を導入し、そこから社会学習動学(SLD)と呼ばれる動的システムを定式化する。SLDは、エージェントベースモデリングとそのシミュレーションに対する理論的枠組みを提供する。この力学系の平衡点を変化させるために境界条件を制御する間接制御に着目しSLDを規範の形成と崩壊のプロセスの分析に適用する。これはもともとR.アクセルロッドによって規範ゲームとメタ規範ゲームとして定式化されエージェントベースシミュレーションによって分析されたものである。本稿ではこれにSLDを用いた再定式化を与えたものを数理的に解析し、幾つかの性質を定理として明らかにする。これは結果として二次の社会的ジレンマ問題に対する一つの解を与える。
原著論文
  • 小杉 考司, 藤澤 隆史, 藤原 武弘
    2004 年 19 巻 1 号 p. 87-100
    発行日: 2004/03/31
    公開日: 2008/12/22
    ジャーナル フリー
     Heider(1958=1978)のバランス理論は、バランス状態とインバランス状態を定義したが、なぜそのような定義が成り立つかについては言及していない。本研究では、バランス理論の基盤として「認知的経済性の原則」を取り上げ、バランス理論は認知的経済性を最大化するよう働くプロセスであったことを示した。バランス理論のプロセスは“心理-論理”と呼ばれる操作で表現されるが、その帰結として、要素間関係を表した関係行列の階数(rank)がより小さいことは、認知的経済性が高いことを意味し、バランス理論と固有値分解が情報圧縮という機能的相同性をもつことを明らかにした。また、人間関係においては関係行列が非対称になり、今まで心理-論理のロジックや固有値分解を用いたアプローチができなかったが、非対称多次元尺度構成法の一種を用いることで、同様の第一固有値の寄与率による情報圧縮を論じることができることを明らかにした。この手法を実際のソシオマトリックスに応用した結果、集団はその構造化の初期段階において、情報圧縮が進んでいくことが示され、認知的経済性の原則を反映した行動により、集団全体としても情報圧縮がみられることを指摘した。最後に、バランス理論=情報圧縮パラダイムの今後の展望と限界について述べた。
  • ―2つのアプローチの峻別と統合―
    樋口 耕一
    2004 年 19 巻 1 号 p. 101-115
    発行日: 2004/03/31
    公開日: 2008/12/22
    ジャーナル フリー
     新聞記事や質問紙調査における自由回答など、社会調査において計量的な分析の対象となるテキスト型データには、様々なものが挙げられる。これらのテキスト型データを計量的に分析する際、従来はCorrelationalアプローチかDictionary-basedアプローチのうち、いずれかが用いられることが多かった。前者は多変量解析の応用、例えば、クラスター分析を用いて頻繁に同じ文書の中にあらわれる言葉のグループを見つけだすといった方法で、データ中の主題を探索するアプローチである。それに対して後者のアプローチでは、分析者の指定した基準にそって言葉や文書が分類され、計量的な分析が行われる。本稿ではこれらのアプローチを検討し、それぞれに一長一短を持つこれら2つを、互いに補い合う形で統合したアプローチを提案する。そして、その実現に必要なシステムを作製・公開するとともに、本アプローチ・システムを用いて自由回答データの分析を行った例を示す。その上で、従来のアプローチに対する本アプローチの有効性について若干の検討を加える。
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