社会科学の理論と分析の手法において、我々が用いてきたサイバネティックなモデルは、とりわけ社会構造の変動という問題について、不十分であった。構造変動は元来、必要十分条件や十分条件としては捉えられないという困難を抱えているのである。
本稿は、一般システム理論(General Systems Theory)のひとつのモデルとして、シナジェティック・モデルを導入し、自己組織性の視座からこれをサイバネティック・モデルと対比する。このために、Haken(1978)にもとづき、シナジェティクスの概念を定式化する。これは、秩序構造の形成や維持というシステム現象を、システムの「場」(マクロ特性)に対するミクロ要素の隷従として捉える考え方であり、その数学的手法の中心となるのは、断熱近似による情報の縮約である。サイバネティクスは、構造の変動を「メタ化」によって構造内変動に置換える手法であり、あくまで変動を必要十分または十分条件としてとらえようとするため、論点先取に陥る。これに対しシナジェティクスは、「ゆらぎ」という偶然要素の導入によってこの問題を方法論的に回避することができる。
社会システムには、こういうシナジェティックな現象が豊富に存在する。本稿では、価格と経済主体からなるシステム、社会的制度と社会構成員からなるシステム、流言とこの集合行動に参加する人々のシステム、等を概観している。
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