理論と方法
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21 巻, 1 号
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会長講演
  • 佐藤 嘉倫
    2006 年 21 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2006/04/30
    公開日: 2007/08/01
    ジャーナル フリー
    本講演では、エージェント・ベースト・モデルが社会変動論の発展に貢献することを主張する。社会変動は多くの社会学者を惹きつけてきた魅力的な研究テーマだが、マクロレベルでの分析に焦点が当てられていて、ミクロ・マクロ・リンクに着目した研究があまりなかった。例外として、今田高俊の自己組織性理論があるが、彼の理論はミクロレベルからマクロレベルへの移行の分析が弱い。エージェント・ベースト・モデルはこの移行の分析を明確に行うことができる。しかし社会変動論の主題である構造変動にこのモデルを適用しようとすると、役割概念を明確にする必要性が生じる。近年、役割概念をフォーマライズする研究がいくつか出てきているので、これらの研究とエージェント・ベースト・モデルの発想を組み合わせたモデルを開発することで、エージェント・ベースト・モデルは社会変動論の発展に寄与するだろう。
特集 計量社会学の発展とその課題
  • 片瀬 一男
    2006 年 21 巻 1 号 p. 11-12
    発行日: 2006/04/30
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
  • 岩井 八郎
    2006 年 21 巻 1 号 p. 13-32
    発行日: 2006/04/30
    公開日: 2007/08/01
    ジャーナル フリー
    本稿は、1980年代半ばより、20年間にわたって展開されてきたライフコースの計量的研究を整理し、今後の研究課題を検討する。ライフコースの計量的研究は、ユニークなライフヒストリー・データを作成した研究と標準化された大規模データを用いた研究に分けることができる。前者の例として、「大恐慌の子どもたち」、「フリーダム・サマー」、「非行少年のライフコース」を取り上げる。後者としては、ドイツのライフヒストリー研究があり、最近では1964年と71年出生コーホートの研究がある。標準化されたデータを用いた研究の課題として、ポスト近代産業社会の段階において生じている、各国のライフコースの変化を比較研究によって明らかにすることが求められている。研究の視点としては「経路依存性」と「個人主義の再構築」が重要である。日本の「現在」を検討するためにも、クロスセクショナルなスナップショットではなく、ライフコース分析の視点が重要である。
  • ロジットモデルによる教育達成分析
    鹿又 伸夫
    2006 年 21 巻 1 号 p. 33-48
    発行日: 2006/04/30
    公開日: 2007/08/01
    ジャーナル フリー
    日本における計量社会学的研究は、多重比較をおこなう研究課題にたいして、交互作用変数の投入をともなう同時分析ではなく、分割比較を多用してきた。しかし、標本を比較の単位ごとのサブ・サンプルにわけたうえで、同じ独立変数をもつモデルで別々に分析した結果を比較する分割比較では、比較された単位ごとの異同の判断が研究者の主観に左右されやすい。そこで、教育達成を題材にして、多重比較をロジットモデルによる同時分析でおこなう方法について例示的に検討した。とくに順序ロジットは、節約的な性質をもつので、多重比較の同時分析モデルとして使用しやすい。ロジットモデルにかぎらず、他の種類のモデルにおいても同時分析の可能性を探求する努力が必要だろう。
原著論文
  • 「n人チキンゲーム」によるゲーム理論的分析
    鈴木 鉄忠
    2006 年 21 巻 1 号 p. 49-61
    発行日: 2006/04/30
    公開日: 2007/08/01
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は、「共通利益と個別利害のジレンマ」の解決に「連帯集団」が及ぼす効果と社会的メカニズムを、マイクロ・レベルに基礎付けて解明することにある。利己的な行為者を仮定する社会理論では、ジレンマを解決する主要因として、「連帯集団」の存在がたびたび取り上げられてきた。しかしそれが行為者の意思決定状況や行動に及ぼす効果と社会的メカニズムについては十分な分析がなされていなかった。そこで本稿では、ジレンマが生じる問題状況を「n人チキンゲーム」によって定式化し、プレイヤー間の提携を考慮に入れた「強ナッシュ均衡」を用いて新たに分析した。分析の結果、「連帯集団」がコミュニケーション回路として機能することで行為者同士の共同行動が促されることによりジレンマが解決されるという、マイクロ-マクロ・レベルの社会的メカニズムが明らかになった。そしてこれは、「連帯集団」を通じた「集団まるごと加入」によって効率的な動員が可能になるという資源動員論の主張からも実証的に裏付けられることがわかった。
  • 利他性と平等性の視点から
    武藤 正義
    2006 年 21 巻 1 号 p. 63-76
    発行日: 2006/04/30
    公開日: 2007/08/01
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は2つある。第1に、合理的選択理論において利己性について扱いうる4つの立場を区別する基準を示し、そのひとつである社会的動機アプローチの位置を明らかにする。第2に、二者関係における多様な社会的動機(配慮の仕方)を「利他性」と「平等性」という2変数によって表現することにより、13個の典型的な社会的動機間の相互関係を明らかにする。たとえば、「負けず嫌い」は反利他的かつ平等的な動機、「マクシミン主義」は利他的かつ平等的な動機の弱い形態、等がわかる。これらの知見はボランティアや友人関係の分析などに役立つだろう。
  • 明治初期における地租変動と自由民権運動の関係から
    劉 国翰
    2006 年 21 巻 1 号 p. 77-91
    発行日: 2006/04/30
    公開日: 2007/08/01
    ジャーナル フリー
    自由民権運動を起こした経済的背景について、「農民的商品経済論」と「中間地帯論」の矛盾がある。本論は、明治初期の地租変動と自由民権運動の地域特徴との関連性から、その矛盾を解決することを目的とする。明治初期の経済が移行経済であったという仮説を立て、地租の動学的な調整プロセスを描くモデルを作成した。また本論は明治8年から20年にいたるまでの26府県における世帯当たりの地租税収のデータを整理し、非線型回帰を通じて、各府県における農民的商品経済の発展度合いを反映するパラメーターα(生産要素の移動速度)とθ(生産要素の移動コスト)の値を推定した。結果として、激化事件だけに注目すれば「中間地帯論」がより適合しているが、自由民権運動の全体を見ると「農民的商品経済論」がより説得力があると考えられる。
  • 石原 慎一, 内海 幸久
    2006 年 21 巻 1 号 p. 93-107
    発行日: 2006/04/30
    公開日: 2007/08/01
    ジャーナル フリー
    本稿の主要な目的は、破産問題におけるタルムード解をファジィ値をもつTUゲームのコアを利用して特徴付けることである。タルムード解の一部は、提携の満足水準が最大になるようなコアと一致し、相対的に見て少ない資金を貸しているプレーヤーに有利な分配方法になっているという特徴をもつ。加えて、ミシュナの分配方法は、安定的であり、満足度の観点から偏りがない唯一の方法であることが明らかとなる。
  • シミュレーションとWebコミュニティでの実験
    渡辺 光一
    2006 年 21 巻 1 号 p. 109-130
    発行日: 2006/04/30
    公開日: 2007/08/01
    ジャーナル フリー
    社会的影響力とは、ある主体が社会/集団全般から一般的な注目をどの程度得ているかを表わす特性であり、社会的評価やその結果としての社会的資源が配分される程度の尺度と考えることもできる。理想環境のように人間が他の全てのメンバに注意を払い判断を下すことは、現実環境では組み合わせ爆発により不可能である。そのため、現実環境では、複雑系における初期値敏感性により、本来的価値(能力)と影響力が対応しない局所均衡に陥る。すると、本来的価値に見合う影響力がないメンバが存在する(「埋もれた才能」)、本来的価値があまり高くないのに影響力を独占するメンバが存在する(「僭越」)、などの現象が生じ、社会的不公正やコミュニケーションの非効率が生じ、社会/集団全体で見ても非常に大きな損失となる。本研究では、そのような影響力などの特性の相互依存関係のモデルを構築し、理想環境においてはメンバの本来的価値(能力)の高低が影響力の高低を一意に決定すること、一方の現実環境(に近似した環境)においては「埋もれた才能」「僭越」という現象が生じることをそれぞれ確認した。その上で、そのような現実環境における問題点を解決すべく、新たなコミュニケーションの制御プロトコルのモデルを開発しその挙動を調べた。さらに、当該モデルが効率的で公正な影響力の実現に資することをシミュレーションで確認し、併せて電子掲示板によるユーザ参加の社会実験を行った。
翻訳論文
  • 合理的エージェントからなる緊密な集団における連帯の失敗
    フラハ アンドレアス, 山本 英弘
    2006 年 21 巻 1 号 p. 131-156
    発行日: 2006/04/30
    公開日: 2007/08/01
    ジャーナル フリー
    近年の研究 (Flache 1996; Flache and Macy 1996)では「強い紐帯の弱さ」が指摘されている。すなわち、緊密な社会的ネットワークは集団連帯を維持するのではなく、むしろ弱めてしまうのである。シミュレーションの結果からは、適応的な行為者は共有財 (common good) を犠牲にしてでも紐帯を大切にするために、共有財をめぐっての集団での作業の交換よりも、相手に対する承認をめぐっての2者間での交換において、より早く協力を学習することが明らかとなっている。このような結果には適応的学習という認知の単純さ (cognitive simplicity) が重要な条件だと考えられる。しかし本稿では、ゲーム理論を援用して、強い紐帯の弱さが認知の単純さの問題ではないことを示し、緊密な集団における連帯の失敗の新しい条件を明らかにする。作業が不確実だと、共有財の生産における合理的な協力が次第に非効率的になる。したがって、合理的行為者は同僚からの承認に依存するほど、社会的紐帯を維持するために共有財の生産から得られる利益を犠牲にする。
書評
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