理論と方法
Online ISSN : 1881-6495
Print ISSN : 0913-1442
ISSN-L : 0913-1442
26 巻, 1 号
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
学会賞受賞講演
特集 エージェント・ベースト・モデルの社会学的展開
  • 中井 豊, 武藤 正義
    2011 年 26 巻 1 号 p. 13-16
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/31
    ジャーナル フリー
  • ―機会費用と二つの社会状態―
    朝岡 誠
    2011 年 26 巻 1 号 p. 17-29
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/31
    ジャーナル フリー
     本稿の目的は特定の関係を結んでいない他者への協力が促進される条件を明らかにすることである.山岸は特定の他者に対する信頼とそれ以外の他者に対する信頼を区別し,社会関係資本論は特定の他者に対する信頼を暗黙裡にそれ以外の他者に対する信頼に「還元」させていることを指摘し,緊密で同質的なネットワーク内で生成される評判ではネットワーク外の他者に対する協力的関係を構築できないと批判する.本稿では個人がワンステップ内で伝わる評判によってネットワークを切り替えていくと想定し,Macy&Sato で用いられたモデルをもとにモデルを構築した.このモデルを用いて機会費用と取引費用が一般的他者への協力に与える影響を分析した.その結果,機会費用が極端に小さいとき,スター型に近いネットワークが形成される傾向があり,中心性の高いエージェントを中心に不特定の他者に協力する秩序が生成され,費用が極端に大きいときはスター型のネットワーク構造からワンショット型の協力状態に変化することが明らかになった.
  • ―社会的ネットワーク上での進化シミュレーション―
    鈴木 貴久, 小林 哲郎
    2011 年 26 巻 1 号 p. 31-50
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/31
    ジャーナル フリー
     本研究は,異なる寛容性を持つ評判生成規範が協力に対してもたらす効果について,先行研究より現実に即した制約を課す進化シミュレーションによって検討した.具体的には,エージェントはネットワーク上で隣接する相手のみと社会的交換を行い,社会的交換における行動決定時とネットワークのリワイヤリング時に評判を参照するが,すべてのエージェントの評判情報を参照できるのではなく,評判が参照できるのはネットワーク上で2 ステップの距離に位置する他者までに限定された.こうした現実的な制約の下で,全エージェントがimage scoring(IS)規範,standing(ST)規範,strict discriminator(SD)規範のいずれかに従って評判を生成する条件を比較した結果,(1)全エージェントが寛容なST 規範に従って評判を生成する場合にはネットワークは密になり社会的交換の数は増加していくが,非協力行動が適応的になって協力率が大幅に低下する確率が高くなること,(2)全エージェントが非寛容なSD 規範に従って評判を生成する場合には協力率は安定するが,ネットワークが疎になり社会的交換の数自体が減少することが示された.この結果から,評判の生成規範の寛容性は,社会的交換における協力率だけでなく,社会的ネットワークの構造に対しても効果を持つ可能性が示された.このことは,協力率のみに注目した非寛容な評判生成規範では,副産物的に社会的ネットワークを縮小することで社会関係資本に対して負の効果を持ちうることを示唆している.さらに,相手の評判値を誤って知覚するエラーを投入したところ,寛容なST 規範に従って評判を生成する場合でも協力率が安定した.このことは,社会的交換がネットワーク構造を持つ制約の中で行われる場合には,寛容な評判生成規範でも高い協力率の維持が可能になりうることを示唆している.
  • ―エージェント・ベース・モデルによる分析―
    堀内 史朗
    2011 年 26 巻 1 号 p. 51-66
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/31
    ジャーナル フリー
     様々な対立を潜在的に孕む人々が,その対立を乗り越えて仲良く暮らすためには何が必要なのか?その条件を明らかにするため,互いに異質なエージェントが緩やかな集団を形成するエージェント・ベース・モデル(ABM)を作成した.モデリングに際して,隣接者との違いが閾値より大きいとエージェントが移動を続けるシェリングモデル(Schelling 1971)と,複数の特性それぞれについて複数の構成要素をもった隣接者同士が相互作用するアクセルロッドモデル(Axelrod 1997)を参照した.シミュレーションの最終時刻までに達成された最も大きい集団をコミュニティと定義し,どのようなエージェントの活躍の下に巨大なコミュニティが成立するかを調べた.分析の結果,特性の数F と構成要素の数Q の比Q/F が低いと,僅かな構成要素の一致で隣接エージェントと集団を形成しようとする「丁重」なエージェントが大きなコミュニティ形成に貢献する.Q/F の値が高いと,構成要素が一致するエージェントとの集団形成を求めて「移動」するエージェントが大きなコミュニティ形成に貢献する.またシミュレーション時間が長いほど,移動するエージェントが活躍する領域が増えることがわかった.この結果は,人々の異質性が高いときにこそ,集団間を移動する「よそ者」がコミュニティの形成に貢献すると示唆する.人間類型としてのよそ者に付与されてきた「地域社会を客観的な世界と結びつける」という理論的位置づけを,本稿はABM によって裏付けた.
  • 大垣 俊朗, 本田 利器
    2011 年 26 巻 1 号 p. 67-81
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/31
    ジャーナル フリー
     環境への適応を考慮した文化形成の過程を分析するエージェントベーストモデルを構築し,動的に変化する社会ネットワークの影響について分析した.構築したモデルでは複数の変数の組合わせを「文化」として定義した.環境への適応を考慮するため,エージェントは外部から与えられた情報を学習し,その情報を社会ネットワーク上で共有する.リンクは同類選好(homophily)に基づいて動的に切り替えられ,ネットワーク構造は動的に変化する.このようなモデルを用い,与えられた環境のもとで,社会ネットワークと形成される文化が相互作用しつつ共進化する過程をシミュレートした.シミュレーションの結果,文化を構成する指標が多次元化するにつれ,エージェントあたりのリンク数の下限値が一定数の場合に,外部からの情報を発生させる領域内にいくつかの文化のクラスターが形成される事が示された.これは,コミュニティ等において,与えられた環境に対応することによって,複数の極化した文化が形成されるメカニズムに関する示唆を与えるものであると考えられる.
  • ―学生専用SNS のデータ分析とモデリングおよびシミュレーション―
    友知 政樹, 田中 敦, 七條 達弘
    2011 年 26 巻 1 号 p. 83-97
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/31
    ジャーナル フリー
     友だち関係をあらわす社会ネットワーク(友だち関係ネットワーク)を形成する個々人間の地理的距離や社会的距離がネットワークの構造に与える影響を検討した.「トモCOM.JP」とよばれるSNS より得た実データから分析した結果は,友だち関係ネットワークを形成する個々人間の大学の違い(地理的距離もしくは社会的距離)や学年の違い(社会的距離)がそのネットワークの構造に階層化を与えていること,その結果,スモールワールドがつながりスモールワールドを形成していること(スモールワールドの入れ子状態)を示唆している.また,個々人間の地理的距離や社会的距離が友だち関係を結ぶかどうかの判断に影響を与えるとのシナリオのもとでモデルを構築し,シミュレーションを行った結果,友だち関係ネットワークにスモールワールドの入れ子構造が再現された.
  • ―コミュニケーションコストのネットワーク構造と評判への影響―
    藤山 英樹
    2011 年 26 巻 1 号 p. 99-122
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/31
    ジャーナル フリー
     本稿の目的は,Cohen et al. (1972)を嚆矢とするゴミ箱モデルにおいて,組織の参加者間のネットワーク構造を入れ,さらに内生的なネットワーク構造の生成を考察することである.ネットワーク構造が所与のもとでは,組織の参加者のコミュニケーションコストが大きいときに,ネットワーク構造が組織の効率性に大きな影響を与える.また,ここではより中心的な参加者がより多くの問題解決の経験を積む.他方で,コミュニケーションコストがないときには,ネットワーク構造はそれほど効率性に影響を与えない.しかし,より中心的な参加者はより小さな問題解決の経験となる.こうした性質は内生的なネットワーク構造の生成に大きな影響を与える.すなわち,コミュニケーションコストが大きい場合は,「最大リンク数」の中心をもつ星形ネットワーク構造が生成される.コミュニケーションコストがない場合には,ネットワーク構造の中心は1 つか2 つとなる.しかし,より多様なネットワーク構造が確認できる.さらに,リンクの数が同数でかつ多いにもかかわらず,一方が最大の問題解決の経験を得て,他方が最小の問題解決の経験となっている状況も安定となる.ここで問題解決数が組織内の評判につながるとすると,リンク数が同じで問題解決数が大きく異なる状況とは,NPO や大学の組織内での状況における,より多く関係を同様に持ちながら,一方で評価の高い人と,他方で評価の低い人の併存を示すことになる.この併存状況は,たとえ同質な個人の仮定のもとでも,社会的なダイナミクスから生まれることになる.
  • ―ネットワーク上でのマッチングによる不平等の生成メカニズム―
    関口 卓也, 瀧川 裕貴
    2011 年 26 巻 1 号 p. 123-140
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/31
    ジャーナル フリー
     マッチング理論は,学校選択制,研修医の病院への配属などの場面で,より望ましい社会制度をデザインするための有効な道具立てとして期待されている.各種マッチングアルゴリズムは,それらがもたらす帰結がパレート効率的か,安定的か,耐戦略的かといった基準で評価されてきた一方で,マッチングがもたらした帰結の不平等度を計測するというアプローチはそれほどとられてこなかった.しかしマッチングという局所的相互行為のもたらす分配状態についてどのように考察するべきかという問題は,社会学的・規範理論的にも非常に重要である.本研究ではこうした問題意識のもと,マッチングによってペアになった個人間で互いの能力を分配しあうとしたときの社会全体での分配状態を考察する.特に注目すべきは,相互行為に社会構造を導入した場合の全体の分配状態にもたらされる帰結である.これについて複数の構造を想定し,その不平等の度合いを考察,評価する.
  • 金澤 悠介, 朝岡 誠, 堀内 史朗, 関口 卓也, 中井 豊
    2011 年 26 巻 1 号 p. 141-159
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/31
    ジャーナル フリー
     本稿の目的は,エージェント・ベースト・モデルの方法の特徴を明らかにするとともに,この方法を用いた研究が社会学の中でどのように展開されてきたのか/されうるのかを議論することである.最初に,エージェント・ベースト・モデルの方法的な特色を,数理モデル分析や計量分析という既存の社会学の方法と比較を通じて,明らかにする.次に,社会学において,エージェント・ベースト・モデルを用いた研究がどのように展開されてきたのかを,社会秩序の生成と社会構造の生成というトピックを題材に確認する.最後に,社会学の重要なテーマでありながら,エージェント・ベースト・モデルを用いた既存の研究ではいまだ未探索となっている領域について議論する.
原著論文
  • ―日本のデータによるブルデュー理論の検証―
    近藤 博之
    2011 年 26 巻 1 号 p. 161-177
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/31
    ジャーナル フリー
     本稿では,ブルデューが『ディスタンクシオン』において行った社会空間分析を日本のデータに対して適用し,とくに社会空間の「交差配列」構造と日常的活動および意識空間との「相同性」に焦点を当てて,ブルデューのモデルの妥当性を吟味した.多重対応分析(MCA)による検討の結果,社会空間の構造についても,日常的活動および意識空間との相同性についても,「資本総量」の分化軸は明瞭なものの,「資本構成」のタイプによる差異はそれほど明瞭でないことが明らかとなった.これらの分析を通して,日本の社会空間の特徴とともに階層研究における社会空間アプローチの有効性が示された.
  • Taiwan and Japan
    Shu-Ling TSAI, Nobuo KANOMATA
    2011 年 26 巻 1 号 p. 179-195
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/31
    ジャーナル フリー
         This paper examines whether and how educational expansion affects inequality of educational opportunity, focusing on the two hypotheses which argue that educational expansion transforms class inequality through saturation of education. Under the condition that a level of education approaches nearly saturation, the MMI hypothesis claims class inequality in attaining the level of education begins to decrease and the EMI hypothesis maintains class inequality over types within the level of education emerges. Taiwan and Japan showed similarity in educational system, but education in Taiwan has expanded more drastically than that in Japan. To test the hypotheses, utilizing their different time point in appearance of saturation caused by the respective pace of expansion, we present the expectations on changes in class inequality for the two countries. The result of analysis using survey data collected in each country is more consistent with the MMI rather than the EMI. Class inequality in attaining levels of education persisted until approaching saturation, but reduced in attaining senior high school education in Japan when this level of education reached saturation. Class inequality in attaining university education rather than junior college over types of higher education emerged clearly corresponding to approaching saturation in Taiwan but appeared in Japan before saturation. The result also indicates that educational expansion urges the transformation of class inequality and gender inequality through respective process. Educational expansion leads to reduction of gender inequality in attaining levels of education irrespective of rapidity and saturation of expansion and without interaction by class and gender in both countries, but hardly erodes gender-specific educational paths institutionalized by gender norm or preference preserved in Japan.
研究ノート
  • Natalie Simonová, Tomáš Katrňák
    2011 年 26 巻 1 号 p. 197-213
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/31
    ジャーナル フリー
         This paper provides a survey of the key thematic and methodological milestones in research into educational inequalities. The article focuses on authors and concepts that introduced major innovations and contributed to significant advancements in the analysis and knowledge of educational inequalities. We have distinguished three periods, focusing on two key concepts in each. The first period is represented by the basic model of the process of stratification and the social-psychological model. The second period includes the educational allocation concept and the theory of maximally maintained inequality (MMI). Finally, the third period is described on the grounds of the multinomial transition model and the theory of effectively maintained inequality (EMI). Across these development stages, three of the above-mentioned concepts are presented as breakthrough methodological innovations while another three concepts are viewed as thematic (interpretational) innovations, closely linked to the development of quantitative methods used to analyse educational inequalities.
数理社会学ワンステップアップ講座 (2)
  • ―相対的リスク回避モデルを中心に―
    瀧川 裕貴
    2011 年 26 巻 1 号 p. 215-223
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/31
    ジャーナル フリー
     社会階層研究における理論の不在が指摘されるようになってすでに久しい.産業化の進展に伴う階級間の機会格差の消滅を予言した近代化理論と逆に階級対立の激化を予言したマルクス主義は,ともに決定的に誤っていたことが明らかになった(原・盛山 1999).その後に提唱されたいわゆるFJH 仮説は,産業化諸国における社会移動の「機会格差」の質的パタンの同一性を主張するもので,確かに実証データとの適合度は高い(Featherman et al. 1975).だがこの仮説は,なぜ産業化が進展した後でも階級間の「機会格差」が残り続けるのかを,理論的に説明するものではない.
     もう少し的を絞った問題としては教育,特に高等教育への進学における社会階層格差の存続をいかにして説明するべきかという問題がある.もちろん,これは社会階層全般における持続的不平等の問題と密接に関連している.高等教育を媒介として階層間の機会格差が持続するからである.さて,高等教育における持続的不平等とは,産業化の進展に伴い教育機会は全般的に大きく拡大したにもかかわらず,階層間の進学率の格差が残り続ける現象をいう.このような現象は,いくつかの例外を除き産業化を達成した諸国において共通に観察されている.
     高等教育における持続的不平等の問題については,近年になっていくつかの注目すべき理論的考察が提出されてきている.なかでもR.ブリーンとJ.ゴールドソープが提唱した相対的リスク回避モデルは,大きな注目を集め,多くの実証的追試を産んだ3), 4).にもかかわらず彼らの相対的リスク回避モデルの定式化は不必要に煩雑であり,かつ多くの点で理論的な問いに答えるためには不十分であることは否めない.そこで,本稿ではブリーンとゴールドソープのモデルに対して筆者が与えた新たな定式化を紹介し,このモデルの意義と限界について説明を試みたい.
書評
feedback
Top