理論と方法
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27 巻, 1 号
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会長講演
  • 石田 浩
    2012 年 27 巻 1 号 p. 1-18
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/18
    ジャーナル フリー
     この講演では,社会科学において原因と結果を特定していく因果推論の可能性について考えてみます.調査観察データに基づいて因果推論を試みる手法として (1) クロス集計表によるアプローチ,(2) 回帰分析によるアプローチ,(3) パネル調査データを用いた手法,(4) 反実仮想の枠組み,の4つを取り上げて詳しく検討します.最後に,社会に内在する「因果効果の異質性」に着目したオーティス・ダドリー・ダンカンの考え方と,「生成過程としての因果関係」に着目したジョン・ゴールドソープの考え方を紹介します.そしてこの2つの考え方が実は補完的であり,調査観察データを用いた因果推論の過程で,社会科学者が本来引き受けるべき重要な課題を,2人の偉大な社会科学者が指摘していることを主張します.
特集 社会学におけるパネルデータ分析の展開
  • 中澤 渉, 三輪 哲
    2012 年 27 巻 1 号 p. 19-22
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/18
    ジャーナル フリー
  • パネル・データ分析の特性の紹介
    中澤 渉
    2012 年 27 巻 1 号 p. 23-40
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/18
    ジャーナル フリー
     本稿では,日本ではまだ利用例の少ないパネル・データ分析が,社会学においてなぜ重要なのかが説明される.回顧法の調査でも時系列データをつくることはできるが,曖昧な記憶による不確実な回答で信頼性が低下したり,サンプルの選択バイアスが生じるという問題がある.特に社会科学の重要な課題である因果関係の解明には,時間の経過に伴う変化の情報が不可欠であり,パネル・データでなければ精度の高い分析はできない.さらに通常の最小二乗法では,観察できない異質性と独立変数との相関の存在から,不偏推定量を求めることができない可能性があるが,計量経済学的固定効果推定により因果効果の純粋な取り出しが可能になる.さらにマルチレベル分析の集団平均センタリングを応用したハイブリッド・モデルの紹介を行い,個人間と個人内の変動を同時に推定できることを示す.最後にパネル・データ分析を行う上での今後の課題をまとめる.
  • JLPS調査データによる3時点cross-lagged modelを用いた検討
    戸ケ里 泰典
    2012 年 27 巻 1 号 p. 41-62
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/18
    ジャーナル フリー
     心理社会的な職場特性が労働者の心身の健康に及ぼす影響に関する研究は職業性ストレス研究領域において多く行われている.しかしながら個人のストレス対処力が職場環境により左右され,それを介して健康状態に至るメカニズムについては十分な検討は行われていない.そこで,心理社会的職場特性とストレス対処力sense of coherence(SOC),ならびに精神健康との因果関係について縦断データを用いて検討することを目的とした.調査データは東京大学社会科学研究所が実施するJapanese Life course Panel Survey (JLPS)の第1波から第5波の調査時点においていずれも働いていると回答した男性1006名を分析対象とした.分析にあたってはベースライン(2007年,Time1),第3波(2009年,Time2),第5波(2011年,Time3)の3時点のデータを利用し,年齢,学歴,経済的状況,配偶者の有無,過去にケガや病気のため長期療養をした経験の有無,2007年以降に転職をしたかどうかの各々の要因を傾向スコアを用いて調整した構造方程式モデリングによるcross-lagged modelを用いて分析を行った.分析の結果,心理社会的職場特性はストレス対処力SOCを媒介し精神健康度に影響する間接効果のみを有するモデルが採択され(χ2/df=3.866,CFI=0.903,RMSEA=0.055),三者の因果連関が明らかになった.このことは成人労働者における精神健康を考える上で,ストレス対処力SOCの重要性がより明確に位置づけられたといえる.また,SOC自体が心理社会的職場環境により左右されるというAntonovskyの仮説を支持する結果が得られた.
  • パネルデータによる個人内変動と個人間変動の検討
    三輪 哲, 山本 耕資
    2012 年 27 巻 1 号 p. 63-84
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/18
    ジャーナル フリー
     本稿は,パネルデータに基づき,階層帰属意識の分析をおこなうものである.第1の目的は,とりわけ世代内階層移動の効果に着目して,個人間効果と個人内効果とを峻別しながら階層的地位の影響を読み解くことである.第2の目的は,マルチレベルモデルを応用したパネルデータ分析(Hybrid Model)の事例を示すことである.4波分の「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」(JLPS)のデータを使用し,固定効果モデルとHybrid Modelによる実証分析がなされた.次いで,モンテカルロシミュレーションにより,両モデルの推定の性能の比較検討がなされた.実証分析の結果,世代内階層移動と階層帰属意識との関連が見出された.また,同じ測定による変数であっても,個人内の回帰係数と個人間の係数とでは,異なることがしばしばあった.さらにシミュレーション結果によって,固定効果モデルと比べて,Hybrid Modelはほぼ同等と言えることが明らかにされた.この結果は,Hybrid Modelの使用がパネルデータ分析における有用な選択肢となることを示唆するように思われる.
  • 保田 時男
    2012 年 27 巻 1 号 p. 85-98
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/18
    ジャーナル フリー
     本稿では,社会学者によるパネルデータの収集と管理に関して,日本の調査環境が直面するいくつかの方法論的な課題を提示し,その理想像について考察する.パネルデータの収集については,3つの論点を示した.第1に,パネル調査においても回顧法の視点が必要なことを主張した.第2に,カレンダー面接が正確な記憶の取り出しに役立つことを説明した.第3に,computer assisted interview(CAI)が多方面に有効性を発揮することを示した.次に,パネルデータの管理に関する2つの論点について議論した.第1に,データクリーニングの問題を取り上げ,Fellegi and Houtの原則に沿った手続きの重要性を主張した.第2に,分析者にとってユーザビリティの高いデータを構築することまでが,調査設計者の役割であることを訴えた.最後に,これらの論点の中で,CAIの導入がもっとも重要で,パネルデータの理想的な収集・管理を議論するための要石であることを訴えた.
原著論文
  • 吉岡 洋介
    2012 年 27 巻 1 号 p. 99-116
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/18
    ジャーナル フリー
     世代内移動の説明要因として,階層研究では,個人に外在する構造変数がおもに注目されてきた.一方,仕事に関する意識研究の分野では,個人に内在する意識変数が世代内移動の1つである企業間移動(従業先からの移動)に影響するという前提が,職業意識を扱う研究意義の1つとされてきた.そこで本稿では,(1)戦後日本社会で広く信じられてきた,現状肯定的な職業意識が,その後の企業間移動を阻止する効果と,(2)もう一つの帰結として,その後の職業階層間の移動を妨げる効果を,社会調査データにより明らかにした.分析には,男性対象者を27年間(1979年-2006年)の長期的なインターバルをおいて追跡したパネルデータを用いた.そして,世代内移動を企業間移動と職業階層間の移動とに区別した上で,離散時間ロジットモデルにより現状肯定的な職業意識の効果を検証した.分析の結果,有職男性の現状肯定的な職業意識は,その後の企業間移動のしやすさに明確な影響を見せなかったものの,その後の職業階層間の移動を妨げることがわかった.よって,ポスト経済成長期において有職男性の現状肯定的な職業意識は,労働市場における移動よりもむしろ,社会移動における文脈でより明確な停留効果をもつことが示された.
  • 伊藤 尚, 前田 義信, 谷 賢太朗, 林 豊彦, 宮川 道夫
    2012 年 27 巻 1 号 p. 117-130
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/18
    ジャーナル フリー
     ジニ係数は標本間格差を評価する代表的な指標のひとつである.しかし,ジニ係数は全標本が非負であることを前提としているため,負の標本を含む標本間格差を評価することは出来ない.Chenらはこの場合でも標本間格差を評価できるようにするためジニ係数の拡張を試みた.しかし彼らの提案した拡張ジニ係数は全標本の合計が0以下である場合において標本間格差を評価することが不可能であった.そこで本論文では,負の標本を含む場合および全標本の合計が0以下の場合においても標本間格差を評価するために,ジニ係数の幾何的表現の拡張を提案する.提案された拡張ジニ係数では負の標本を含む場合および全標本の合計が0以下の場合においても標本間格差を評価することが可能であり,全標本が非負である場合において拡張ジニ係数は従来のジニ係数と一致する.さらに,拡張ジニ係数の代数的表現を検討し,得られた代数的表現から本論文で提案する拡張ジニ係数が母集団原理と拡張移転原理を満たすことを示す.
  • Jeong-Yoo KIM
    2012 年 27 巻 1 号 p. 131-148
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/18
    ジャーナル フリー
         In this paper, I explore the relation between important concepts, Myerson value developed in economics (bargaining theory) and betweenness centrality widely used in sociology. In the communication game in which a value is generated only from a connected pair of players, I give a network-based interpretation for the Myerson value of a player as his average betweenness centrality in a network. I also propose various concepts of betweenness centrality (betweenness centrality, weighted betweenness centrality and generalized weighted betweenness centrality), and show that generalized weighted betweenness centrality converges to weighted betweenness centrality as the discount factor approaches one.
  • 遊間 義一, 金澤 雄一郎, 遊間 千秋
    2012 年 27 巻 1 号 p. 149-168
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/18
    ジャーナル フリー
     本研究は,遊間・金澤・遊間(2010)に2年分のデータを追加して1974年から2008年までの,日本全国で起きた少年による殺人事件の発生率に対する完全失業率の効果及びその構造変化の有無を共和分回帰及び誤差修正モデルを用いて検証したものである.その結果,遊間・金澤・遊間では,見いだせなかった構造変化が,年長少年(18・19歳)において確認された.つまり,年長少年においては,完全失業率が上昇(下降)すれば殺人発生率も上昇(下降)するという正の関係が認められ,この効果の強さは調査期間を通じて変化がなかったものの,殺人発生率は2000年を境に急激に減少する傾向が認められた.他方,中間少年(16・17歳)では,遊間・金澤・遊間とほぼ同様の結果が得られており,完全失業率と殺人発生率との間に正の関係が認められたが,構造変化は見いだせなかった.年長少年の急激な減少について,1998年以降急増した自殺率や1990年代後半からの犯罪や少年非行への厳罰化傾向との関連から考察した.
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