社会学の主流的伝統では,権力が服従者の了解を経由して働くことを,暗黙にせよ前提する。ウェーバーの定義は周知であるが,パーソンズでさえ,機能的側面として資源配分機能に着目したとはいえ,機能の帰属先である対象的外延としては「シンボルによって一般化された」権力(=公式権力)だけを問題化した。権力に想定される了解構造は,権力についての様々な問題設定を境界づけるが,了解構造自体を明確に主題化した業績は実に少ない。
我々は第1に,この了解構造を明確に取り出して,従来の諸定義を比較可能にすると共に,それ自身を権力の定義に据える。その結果,権力は権力者の意図や自覚から分離されて,服従者の体験にだけ定位した概念となる。
第2に,それを利用して,伝統的な権力理論の様々な主題──威嚇/報償の差異・予期の機能・正当性/公式性/合法性の差異・国家権力など──を相互に関係づけて論じ,発見された諸問題を記述する。
(*前半部(10. 迄)は1987年10月の社会学会報告のレジュメとほぼ同一である)
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