理論と方法
Online ISSN : 1881-6495
Print ISSN : 0913-1442
ISSN-L : 0913-1442
31 巻, 2 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
論文
  • 判例を用いた質的比較分析(QCA)の試み
    小森田 龍生
    2016 年 31 巻 2 号 p. 211-225
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/15
    ジャーナル フリー
     本稿の目的は,いわゆる過労「死」と過労「自殺」の比較を通じて,過労自殺に特有の原因条件を明らかにすることである. 原因条件の導出にあたっては,クリスプ集合論に基づく質的比較分析(Qualitative Comparative Analysis, QCA)を採用し, 分析対象は労災認定請求・損害賠償請求裁判に係る判例58件を用いた. 過労死, 過労自殺とも, 複数の原因条件が複雑に絡み合い生じる現象であるが, 本稿では具体的にどのような原因条件の組合せが過労死ではなく過労自殺の特徴を構成しているのかという点に焦点を定めて分析を実施した. 分析の結果からは, 過労自殺を特色づけるもっとも基礎的な原因条件はノルマを達成できなかったという出来事であり, そこに職場における人間関係上の問題が重なることで過労死ではなく過労自殺が生じやすくなることが示された. この結果は, これまで過労自殺と呼ばれてきた現象が, 実際には通常の意味における過労=働きすぎによってではなく, ノルマを達成できなかった場合に加えられるパワーハラスメント等, 職場における人間関係上の問題によって特徴づけられるものであることを明らかにするものである.
  • 「結婚してもしなくてもよい」に注目して
    不破 麻紀子, 柳下 実
    2016 年 31 巻 2 号 p. 226-239
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/15
    ジャーナル フリー
     本稿は「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査2007」を用い, 女性の学歴と結婚に対する肯定・否定的意識との関連に加え, 結婚を「してもしなくてもよい」ものととらえるような「関心」の低さとの関連を検討した. 女性の自立仮説からは高学歴女性は結婚に対して否定的であると予想される. つり合い婚仮説を敷衍すると, 学歴が女性の結婚意識に与える影響として(1)肯定的にするという効果の方向性が考えられる一方, (2)否定的にはしないものの, 結婚に対する「関心」を低めるという方向性も予想される. 結婚に対して否定的, 肯定的, 関心が低い, の3カテゴリーをもつ結婚意識を従属変数とした回帰分析(多項ロジットモデル)の結果から, 高学歴女性は「結婚したくない・考えていない」よりは「してもしなくてもよい」を選びやすい一方で, 「してもしなくてもよい」と「ぜひ・できれば結婚したい」の間では差がないことが示された. 本稿の知見は, 女性にとって高学歴であることが結婚に対する関心の低さにつながる可能性を示唆する. 今後の研究においては, 結婚に対する肯定的・否定的意識に加えて, 関心の高低を含めて検討することが必要となろう.
特集 社会的不平等への数理社会学アプローチ
  • 佐藤 嘉倫
    2016 年 31 巻 2 号 p. 240-241
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/16
    ジャーナル フリー
  • Hiroshi HAMADA
    2016 年 31 巻 2 号 p. 242-260
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/16
    ジャーナル フリー
    The purpose of this study is to formalize a generative model for income and capital inequality by focusing on the accumulation process of human and network capital. Using this model, we attempt to provide theoretical explanations to three empirical questions. First, why is the relationship between economic growth and income inequality expressed as an inverted U-curve? Second, why does societal relative deprivation increase when economic growth rises (the so-called China puzzle)? Third, why is income inequality stable despite the reduction of human capital inequality? The model assumes that people in a society experience repeatedly random chances of gaining capital interest with a success probability p. People gain additional capital as an interest when they succeed and incur a cost when they fail randomly. We show that the capital distribution approaches a lognormal distribution, and as an output of Cobb-Douglas production function, income distribution is also subject to a lognormal distribution. Analyzing the Gini coefficient and the average income as a function of parameters of the model, we derive the following implications. 1) The inverted U-curve is realized by the expansion of success chance. 2) The China puzzle occurs because the increase of average income and Gini coefficient are simultaneously followed by the expansion of success probability p under the range p∈(0,0.5). 3) The income inequality is stable, though human capital inequality decreases because of human and network capital elasticity and network capital diminishes the impact of human capital equalization on income inequality.
  • 大林 真也
    2016 年 31 巻 2 号 p. 261-276
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/16
    ジャーナル フリー
    本稿では, 「過程の平等」に焦点を当てて分析を行う. 過程とは労働の過程を意味しており, 労働過程が平等に評価されており, 労働者が会社の評価基準を正しく把握している状態を過程が平等である, と考える. バブル崩壊後, 成果主義的賃金制度が導入されはじめ, 労働の成果が評価されるようになった. しかし, その評価には多くの企業が少なからず問題を抱えている. このような過程が不平等な状態で, いかなる帰結が生じるのか, ということを分析することが本稿の目的である. そのために, 評価に不正確さが存在する場合に, 労働者が最適な努力水準を決定する試作的なモデルを用いて分析する. また, 個人の能力の異質性も組み込んだ. その結果, 評価の不正確さと個人の能力に違いがある場合, 能力の高い人が高い努力水準を選択する一方で, 能力の低い人は低い努力水準を選択する, という結果が得られた. 努力水準を, 労働時間と解釈するなら, 能力の高い人と低い人の間で労働時間の格差が生まれることを示している.
  • ミクロ・マクロ・リンクを意識した数理モデルの重要性
    佐藤 嘉倫
    2016 年 31 巻 2 号 p. 277-290
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/16
    ジャーナル フリー
     本稿の目的は, 数理社会学が社会的不平等研究に貢献するためにはミクロ・マクロ・リンクを意識する必要があることを示すことである. この目的のために, まず既存の量的研究と質的研究の問題点を指摘し, いくつかの数理モデルの論理構造を検討し, それらがミクロ水準とマクロ水準の移行を適切に扱っていることを主張する. 既存の量的研究は高度な統計分析により重要な知見を得てきたが, その知見を生み出した社会的メカニズムの分析が弱い. 一方, 質的研究はその社会的メカニズムを丹念に解明しているが, その知見の一般性について留保が必要である. この両者の問題点の解決策の1つとして, 数理モデルによる社会的不平等の解明がありうる. そこで本稿では相対的リスク回避モデル, 地位序列の生成モデル, 信頼と不平等のエージェント・ベースト・モデルの論理構造を検討し, それらがミクロ・マクロ・リンクを踏まえたものであることを示す. 今後の数理モデルもそのような方向性を持つことで社会的不平等研究に貢献するだろう.
小特集 分析社会学の可能性
  • 小林 盾
    2016 年 31 巻 2 号 p. 291-292
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/16
    ジャーナル フリー
  • 社会学における理論と経験的研究の統合のために
    打越 文弥
    2016 年 31 巻 2 号 p. 293-303
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/16
    ジャーナル フリー
    本稿では, 分析社会学の理論的構造をこの分野を牽引してきたPeter Hedströmの議論に依拠して明らかにする. 分析社会学は, 調査データによって得られた変数から因果関係を特定化する既存の社会学の経験的研究に対して異議を唱える. 分析社会学的なアプローチでは, 変数間の関連だけではブラック・ボックスになっている「社会現象が生じるプロセス」を, 個人の行為(action)と相互行為(interaction)から説明する. その中で本稿では, 分析社会学は欲求, 信念, 機会の三つにもとづいて個人の行為, および相互行為が連鎖する点を重視することを指摘する. さらに, 本稿では分析社会学との類似性が指摘される社会科学の統計的因果推論を重視する学派と合理的選択理論との比較を行う. 最後に, 分析社会学の説明戦略は, 既存の調査データに対する代替案を提示することを述べる.
  • 文化活動はオムニボア(雑食)かユニボア(偏食)か
    小林 盾, 大林 真也
    2016 年 31 巻 2 号 p. 304-317
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/16
    ジャーナル フリー
     この論文は, 分析社会学を実証研究へと応用する. そのために, 美術展や小説などの文化活動を事例とし, 人びとはオムニボア(雑食)的で多趣味なのか, ユニボア(偏食)的で偏っているのかを検討することで, 文化の階層構造(文化格差)を解明する. 分析社会学のDBO理論によれば, 人びとは「~したい」という欲求(Desire)と「自分や世界は~だろう」という信念(Belief)を持ち, 客観的条件である機会(Opportunity)に制約される. そこで, 「自分は自由に文化活動できる」という信念を持ち, さらに等価所得が高く実行機会に恵まれた人ほど, 文化的オムニボアとなると仮説を立てた. データとして2015年階層と社会意識全国調査(第1回SSP調査)を用い, 文化的オムニボアを高級文化(クラシック音楽と美術展)と中間文化(小説)の頻度の幾何平均で測定した(分析対象2,769人). その結果, (1)分布から, オムニボアが52.5%いた. (2)回帰分析における教育, 等価所得の主効果から, 高い階層的地位が文化的オムニボアを促進した. (3)信念(主観的自由)と機会(等価所得)の交互作用効果から, 信念と機会の両立が文化的オムニボアを促進した. 以上より, 日本社会における文化活動は, ブルデューの主張するような排他的なものではなかった. 分析社会学を用いたことで, 人びとの合理性を仮定する必要がなく, どうじに信念という主観的心理的要因の役割が明確になった.
コミュニケーションズ
書評
編集後記
feedback
Top