理論と方法
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31 巻, 1 号
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会長講演
  • ―性別役割意識の変化を例に―
    数土 直紀
    2016 年 31 巻 1 号 p. 2-19
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/06
    ジャーナル フリー
     本稿は,新しい分析概念として複合化された社会メカニズムを提示することを目的としている.この概念は,有名なコールマンボート(Coleman 1990=2004)から想を得ている.従来のコールマンボートでは一連の因果関係だけが想定されているが,新しい概念では複数の因果関係が併存することを想定している.このように想定することで,私たちは複雑な社会現象をより深く理解することが可能になる.本稿では,新しい分析概念の有効性を示す一つの事例として,回帰モデルの有限混合を前提にした性別役割意識の分析をおこなった.最近の世論調査によると,日本人の性別役割意識の趨勢が不安定化している.このような変化を説明するためには,高学歴化・女性の労働力参加と性別役割意識を結ぶ2つの因果関係を想定することが必要になる.一つは性別役割意識に囚われなくなる人びとを生むが,もう一つは,ワークライフバランスを無視した働き方を強いることで,性別役割意識を肯定するような人びとを生む.その結果,性別役割意識の趨勢が不安定化するのだ.SSP-I 2010 (N=1,739) による分析結果は,本稿の仮説を支持するものになっている.このことは,複雑な社会現象の解明には,複合化された社会メカニズムの存在を仮定することが有効であることを明らかにしている.
原著論文
  • ―社会の工業化, ポスト工業化による価値変化の影響―
    大崎 裕子, 坂野 達郎
    2016 年 31 巻 1 号 p. 20-38
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/06
    ジャーナル オープンアクセス
     ソーシャル・キャピタル研究において,制度信頼とアソシエーション参加は一般的信頼の主要規定因とされるが,どちらがより有力な規定因であるかについては見解が一致していない.本稿の目的は,Inglehart and Welzelが論じる社会の価値体系の変化を考慮することで,対立的に論じられてきた2要因の一般的信頼に対する効果について統合的に論じることである.データに世界価値観調査と欧州価値観調査をもちい,価値変化により分類される前工業社会,工業社会,ポスト工業社会の3つの国家グループに対して,個人,国レベルにおける2要因の一般的信頼規定力をマルチレベル分析により検討した.その際,価値変化が2要因の内的構造に与える影響も考慮し,3社会のマルチレベル因子構造の比較も行った.マルチレベル分析の結果,個人,国レベルともに,(1)前工業社会では一般的信頼に対する2要因の規定力はほぼ同等であるのに対し,工業社会ではアソシエーション参加と比べ制度信頼が強い規定力を示した.(2)ポスト工業社会では工業社会と同様の傾向が維持されたが,制度信頼については秩序維持制度への信頼と政治制度への信頼の両方の効果が示された.これらの結果から,工業化による世俗的・合理的価値の高まりにより制度信頼の一般的信頼規定力が増大し,その規定効果はポスト工業化による自己表現価値の高まりによって多様化することが示唆された.
  • ―グループ内の不平等に注目した分析―
    小川 和孝
    2016 年 31 巻 1 号 p. 39-51
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/06
    ジャーナル オープンアクセス
     本論文の目的は,通常の回帰分析で注目されているグループ間の不平等にくわえ,グループ内の不平等を明示的にモデル化した分析を行うことである.グループ内の分散の異質性に注目することで,どのような社会的属性を持つ人々がより不安定な状況に置かれているのかが分析の関心となる.従属変数の条件付き期待値と残差分散に対してそれぞれ共変量ベクトルを設定し,それらのパラメータを同時推定するモデルを用いる.データは,「社会階層と社会移動全国調査」の1995年調査A票および2005年調査であり,従属変数には個人収入および世帯収入の対数値を用いる.分析の結果,男女ともに正規雇用者や既婚者は収入の平均が高いだけではなく,それぞれのグループ内部での収入のばらつきが小さいことが明らかにされる.これらは日本の社会制度の特徴とされてきた「男性稼ぎ主型」モデルが想定してきた人々において,収入の安定性が大きいことを示唆する.本論文の知見は,これまでの社会階層研究やライフコース研究において重要な問いではありながらも直接的に検証が行われてこなかった,リスクや不安定性について新たな視点を導入した.
特集 社会階層と家族
  • ―どうすれば恋愛・結婚・出産の壁を乗りこえられるのか―
    渡邉 大輔, 小林 盾
    2016 年 31 巻 1 号 p. 52-54
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/06
    ジャーナル フリー
  • ―恋愛研究の視点から―
    谷本 奈穂, 渡邉 大輔
    2016 年 31 巻 1 号 p. 55-69
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/06
    ジャーナル フリー
     本稿の目的は,近代家族の理念の出発点ともいえるロマンティック・ラブ・イデオロギーが,現在どうなっているかを検討することである.ロマンティック・ラブ・イデオロギーの概要をふりかえった後,雑誌記事の分析および別れの語彙の分析から仮説を立てた.(1)ロマンティック・ラブ・イデオロギーは90年代以降に衰退し,(2)代わりに「ロマンティック・マリッジ・イデオロギー」と名付けるべきものがせり出してきている,という仮説である.量的データから,仮説(1)(2)とも検証された.またとくに,ロマンティック・マリッジ・イデオロギーは,若い女性や恋愛機会の多い人に支持されていることも分かった.ただし,ロマンティック・マリッジ・イデオロギーは,恋愛を解放しても結婚は解放しなかった.結婚へのハードルは高いものといえる.
  • ―結婚研究の視点から,えひめ結婚支援センターを事例とした量的分析―
    小林 盾, 能智 千恵子
    2016 年 31 巻 1 号 p. 70-83
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/06
    ジャーナル フリー
     この論文は,人びとが婚活(結婚のための活動)をするとき,どのような要因が結婚を促進したり阻害したりするのかを検討する.これまで,婚活について事例分析は豊富にあるが,計量分析がなかった.そこで,愛媛県の事業であるえひめ結婚支援センターを対象として,約4年間における登録者全員4,779人の推移をデータとした.結婚による退会のハザード率を従属変数としたイベント・ヒストリー分析をおこなった.その結果,(1)男性では,教育・正規雇用・収入という社会経済的地位が高いほど,結婚のチャンスが上昇した.女性では,これら社会経済的地位の効果がなかった.(2)年齢が若いほど,また結婚経験があるほど,男女ともに結婚チャンスが上昇した.(3)他に男性では,身長が高いほど結婚チャンスが上昇した.したがって,男性では働き方を中心とした地位(いわばスペック)が,女性では年齢が,結婚のおもな規定要因となっていた.実践的には,男女とも婚活をすこしでもはやくスタートさせることが重要であろう.
  • From a Perspective of Studies on Child-birth
    Junya TSUTSUI
    2016 年 31 巻 1 号 p. 84-93
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/06
    ジャーナル フリー
    East Asian societies, including Japan, are suffering from the lowest-low fertility rate. This study inquires about the possible factors of this low fertility problem with special attention to female labor force participation. The preliminary analysis suggests that dual-earner couple society is a solution for improving birthrates, where women's income complements men's income in the age of lower level of economic growth. It also argues about the social and economic conditions of the dual-earner couple society. The US model presupposes the income gap where low-income group provide reasonable care services through labor market. The Nordic model relies on massive public employment to provide care work as the social service. None of these conditions are easily attainable in East Asian societies, especially in Japan. Another problem of dual-earner society is its unintended consequence, namely the widening between-household income gap. In a dual-earner society, women's labor force participation no longer works as a moderation, where wives usually take part in the labor market only if their husband's income is insufficient. Through the assortative mating, a rich man is more likely to marry with a rich woman. Extra policy for income redistribution might be required to ease this economic gap possibly derived from the dual-earner couple orientation.
  • 山田 昌弘
    2016 年 31 巻 1 号 p. 94-98
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/06
    ジャーナル フリー
小特集 『理論と方法の30年』
研究ノート
  • 河野 敬雄
    2016 年 31 巻 1 号 p. 138-150
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/06
    ジャーナル オープンアクセス
     現在の標準的ゲーム理論においては,展開形ゲームと標準形ゲームとは目的に応じて使い分けているが,原理的には区別をしていない.つまり,表現の仕方が異なるだけである,という理解の仕方をしている.しかし,日常的ゲームを考えてみると容易に観察されるように,複数のプレイヤーの手番が交互に,あるいは順を追ってプレイされる囲碁・将棋,トランプゲームの類と,複数のプレイヤーの手番を同時にプレイしなければならないジャンケンゲームの類とは原理的に異なるゲームであると認識すべきである.一度この違いを受け入れると,逐次ゲームである展開形ゲームにおいては,先手番プレイヤーがもつ優先的選択権をすべてのプレイヤーが受け入れざるを得ない結果,採用すべきナッシュ均衡は原則としてプレイヤー全員の一致した選好の結果として一意に決まり,かつ複数のナッシュ均衡の中から敢えてパレート劣位なナッシュ均衡を選んでしまうことがあるという,従来のゲーム理論の〈非合理的〉な欠陥が解消される.
  • ―コールマン・ボートと随伴圏―
    落合 仁司
    2016 年 31 巻 1 号 p. 151-159
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/06
    ジャーナル オープンアクセス
     落合仁司「社会と行為―コールマン・ボートとマクロ・ミクロ・リンク」『理論と方法』30(1)は,社会構造を多様体M,社会構造のシフトを双対境界作用素δ,相互行為を微分形式ω,相互行為のドリフトを微分作用素dで表現することにより,コールマン・ボートの微分幾何モデルを構成し,社会構造の圏,マクロ圏と相互行為の圏,ミクロ圏,すなわちマクロ・ミクロ・リンクが圏論的に同値であることを論証した.本論は,以上の結果を踏まえ,社会構造のシフトすなわちマクロ・シフトδと相互行為のドリフトすなわちミクロ・ドリフトdの関係が圏論的に充満忠実,言い換えれば全単射であることを論証する.このことは社会構造の圏と相互行為の圏が随伴であることを帰結する.
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