理論と方法
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33 巻, 1 号
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会長講演
  • 政治と科学に関する意識調査より
    太郎丸 博
    2018 年 33 巻 1 号 p. 2-14
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー

     日本において保守的な人ほど学問に対して否定的な態度をとりやすいのかどうかを検討した.保守的な態度の指標として安倍内閣支持,保革自己イメージ,権威主義,排外意識の4つを用い,学問に対する態度の指標として学問効用認知と環境学,医学,経済学,歴史学,憲法学に対する相対的な信頼度を用いた.分析の結果,ある程度は保守的であるほど学問に対して否定的になりやすい傾向が見られたが,一貫したものではなかった.権威主義の直接効果は存在せず,保革自己イメージは,中間が最も学問に否定的で,保守と革新の両方で肯定的になることもあった.排外意識が有意な効果を持ったのは,歴史学と憲法学に対する相対的な信頼度だけであった.安倍内閣支持は医学に対する相対的な信頼度以外では有意な効果を持ったが,学問効用認知をむしろ高めていた.以上から,政治的な態度と学問に対する支持のあいだに関係があることは明らかであるが,それは分野によって異なっているだけでなく,むしろ保守的な人のほうが肯定的な場合もあることがわかった.

論文
  • 夫婦の学歴パターンのコーホート比較分析
    打越 文弥
    2018 年 33 巻 1 号 p. 15-31
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/03
    ジャーナル フリー

     本稿ではコーホート比較を通じて,未婚化が進行する中での夫婦の学歴に基づく階層結合の趨勢とその変化の要因を検討する.階層結合は開放性指標として検討されてきたが,既存研究は増加する未婚者を考慮に入れてこなかった.そこで本稿では未婚化を考慮に入れた上で日本社会における階層結合の趨勢を検討する.SSM2015年調査データを用いた生存分析から以下の結果を得た.第一に,未婚化はどの学歴にも浸透しているが,近年のコーホートでは四大卒層の40歳時点未婚率の高まりが確認される.第二に,結婚のハザード率を相手学歴別に分解した結果,未婚化と並行して階層結合パターンも相対的に変化している.四大卒女性に関しては,女性の高学歴化にともない高学歴男性の供給量が相対的に低下しており,学歴下降婚が増加している.中学・高校および短大・高専・専門学校卒の女性では大卒男性との結婚が減少し,短大・高専・専門学校卒の男性との結婚が増加しているが,中学・高校卒の男性との結婚は増加していない.以上より,男性稼ぎ主モデルの維持と雇用の不安定化が生じた結果として,晩婚・非婚化が進行しながら,低学歴・高学歴女性における学歴結合が減少している点が示唆される.

  • 2015年SSM調査データを用いて
    平尾 一朗
    2018 年 33 巻 1 号 p. 32-44
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/03
    ジャーナル フリー

     日本における自営業率の長期的な低下にもかかわらず,自営業からの退出を対象とした研究は少ない.本稿では自営業からの退出に家族構造や労働市場が与える影響を明らかにする.家父長制や性別役割分業を前提し,また2000年の大店法の廃止を念頭に置き,自営業からの退出について仮説が立てられた.2015年SSM調査(社会階層と社会移動に関する全国調査)データを用いた.非農業の自営業を経験した男性と女性を対象とした.男女の「自営業からの退出」,離職理由を考慮に入れ,男性の「自営業からの退出(廃業)」,女性の「自営業からの退出(家庭の理由)」を従属変数として離散時間ロジットモデルを適合させた.分析の結果,男性自営業者では,息子がいても自営業を継がないため高齢自営業者は廃業しやすい,同居する子どもがいれば廃業しにくい,離婚後に廃業しやすい.女性自営業者では,結婚や配偶者との死別は退出を促さないが,子どもの育児期,娘がいなければ親の介護期に退出しやすい.また,大店法の廃止は自営業からの退出に影響を与えないことが示された.自営業の減少は保護規制の弱まりよりむしろ,家族に基づいた社会関係資本の弱まりに関連する.

特集 社会ネットワーク分析の新展開
  • 藤山 英樹, 鈴木 努
    2018 年 33 巻 1 号 p. 45-48
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー
  • 社会ネットワーク分析における意義の検討
    鈴木 努
    2018 年 33 巻 1 号 p. 49-62
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー

     社会ネットワーク分析において指数ランダムグラフモデル(Exponential Random Graph Models: ERGM)や経験的ネットワーク分析のためのシミュレーション手法(Simulation Investigation for Empirical Network Analysis: Siena)といった統計的ネットワーク分析の手法の適用が広まってきている.本稿ではこれらの手法の特徴を概観し,社会ネットワーク分析におけるその意義を検討した.統計的ネットワーク分析の手法には,ネットワークに含まれる頂点や頂点対の諸特性が頂点間の結合に与える効果を多変量モデル化し,その統計的有意性を検定することができるという利点がある.近年の統計パッケージの整備によって,その実データへの適用は容易になってきているが,その意義については社会構造の解明という社会ネットワーク分析の目的にとっては限定的であるという疑義もある.本稿では統計的ネットワーク分析が主にミクロなネットワーク特性に着目しており,マクロなネットワーク特性をモデル化しにくい点,頂点結合に対する諸効果の一様性を仮定している点を指摘したうえで,社会ネットワークの形成,発展,衰退といったプロセスの分析に統計的ネットワーク分析を適用することを提案した.

  • Kayo Fujimoto, Hideki Fujiyama, Dennis H. Li, John A. Schneider
    2018 年 33 巻 1 号 p. 63-78
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー

    This study explores a context of competition between social venues and between health organizations that are structured by different patterns of client referrals. Using the economic concept of properties of services/goods (“substitutes” or “complements”) and the network concept of structural equivalence, we derived several hypotheses regarding the associations between specific referral patterns and the presence of competition ties. Referral ties may exist among social venues and health organizations to better serve their clients, such that social venues may help clients to identify other venues that are more central to the gay community and that health organizations may help clients to obtain services that they themselves do not offer. Based on the data of 20 social venues and 20 health organizations in Chicago, IL, and Houston, TX, we tested our hypotheses using exponential random graph models. The results indicated a co-occurrence of referral and competition relationships between social venues. This tendency, however, was not found between health organizations. Health organizations in a similar network context in terms of referral inflow from other health organizations tended to have a competition relationship. The implications of these findings in terms of referral-competition networks between health organizations and between social venues are discussed.

  • Hideki Fujiyama, Kayo Fujimoto
    2018 年 33 巻 1 号 p. 79-93
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー

    This study examines the co-evolution of conversation and advice networks in a Japanese university class, based on the self-determination theory in which autonomy, competence, and relatedness are the three key concepts. The network data were collected during the spring and fall semesters from 2013 to 2016. Stochastic actor-oriented models were used to estimate the dynamics in the two networks. The results are as follows: (1) There was an asymmetric property in the advice ties; (2) One tie of a network created a tie of another type of network at the dyadic level; and (3) For enhancing advice ties, the autonomy effect of conversation tie was effective in the fall semester. The findings of this study offer a new understanding of the dynamics between conversation and advice networks.

  • 辻 竜平
    2018 年 33 巻 1 号 p. 94-113
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー

     職業評定は,安定していることが知られているが,不変というわけではない.本稿では,ある職業に就いている「家族・親戚・友人・知人」がいることによって,職業評定が変化するかどうか,すなわち,社会関係資本が職業評定に与える効果について検討した.この職業評定の変化には,いくつかの異なるメカニズムが考えられる.1つは,身近に当該職業の人がいて,その人からサポートを受け,その見返りとして評価を高める場合である.これを「サポート効果」と呼ぶ.もう1つは,自分の職業を高く評価しようとする作用から,自分とつながりのある他者が同種の職業を持つ場合に,他者の職業を自動的に高く評価することになってしまう場合である.これを「自己高揚効果」と呼ぶ.さらには,当該職業に関する内容や待遇をよく知ることによって評価を高める場合もある.これを「知識効果」と呼ぶ.このような諸効果のいずれによって,職業評定が変化するのかを探索的に検討した.主な結果は,次のとおりである.ある職業に就いている「家族・親戚・友人・知人」がいることで,評価が高まる職業は少数であり,その高まりが「サポート効果」によるものは,その半数程度であった.「家族・親戚・友人・知人」がいることによって評価が不変であるものについても,その一部に「サポート効果」がみられた.

  • 島連想イメージのネットワーク分析
    金光 淳
    2018 年 33 巻 1 号 p. 114-131
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー

     近年日本各地で開催されているアート・フェスティバルはアートによる「観光のまなざし」を地域に内省化することで,観光客の側にも住民の側にも新たな地域表象を結像させている可能性がある.それはどのように地域イメージの形成に貢献しているのか,またそれは地域社会の問題をどのように可視化しているのかを瀬戸内国際芸術祭で探った.小豆島と豊島で行われた島ブランド・イメージ連想調査データのネットワーク分析は,1)産業が盛んで伝統的な地域イメージが形成されている小豆島では,アートはそれにほとんど貢献しておらず,産物,観光とメディア・コンテンツの連想イメージが前面化している;2)これとは対照的に産業が衰退し確固たる地域イメージが形成されていない豊島においては,地域表象形成におけるアートの役割は大きい.アート・フェスティバルは感覚的反応,他地域の連想を伴ないつつ,美しい瀬戸内の風景に助けられ豊かな美的空間を形成するのに貢献している;3)豊島では産業廃棄物問題は大多数の観光客には見えていないものの,地域の記憶を伝承するアート作品やシンボリックな豊島美術館を通してこの問題が観光客の一部にも連想されており,アート・フェスティバルは観光客の産業廃棄物問題の可視化にある程度貢献している,ことが明らかになった.これらの知見を基に瀬戸内国際芸術祭の課題が論じられた.

招待論文
  • 瀧川 裕貴
    2018 年 33 巻 1 号 p. 132-148
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー

     近年の情報コミュニケーション技術の発展により,われわれの社会的世界は劇的な変容を遂げている.また,これらの発展により,社会的世界についてのデジタルデータが急速に蓄積されつつある.デジタルデータを用いて社会現象のリアリティとメカニズムの解明を試みる新しい社会科学のことを計算社会科学と呼ぶ.本稿では計算社会科学の現状と課題について,特に社会学との関係を中心に概観する.計算社会科学に対して独自の定義を試みた後,計算社会科学がなぜ社会学にとって特別な意味をもつのかを説明する.また,計算社会科学のデータの新しさがどこにあるのかを明らかにし,計算社会科学の分析手法について解説する.最後に,計算社会科学の課題について述べる.

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