理論と方法
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6 巻, 1 号
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論文
  • ─規範主義社会学と契約理論からの挑戦との戦い─
    久慈 利武
    1991 年 6 巻 1 号 p. 1-20
    発行日: 1991/04/01
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
     本稿ではデュルケム(パーソンズ)の功利理論(合理的選択理論)批判、社会契約論からの見えざる手説明批判を、功利理論、見えざる手説明を区分せず、その擁護、反論を行なった。簡単に言えば社会学にたいしては、社会化(愛他心の喚起、将来の利益・公共の利益へのコミット)からの協力の発生の説明を避け、個人が相変わらず利己的なままであるのに協力が発生し得ることの証明と、社会契約論にたいしては、専門機関によるコントロール(監視と制裁)による利己的な個人のあいだの協力発生の説明を避け、そのようなフォーマルなコントロールがなくとも利己的な個人のあいだに協力が発生しうることの証明である。後者については二者ペア間インタラクション戦略では大規模匿名社会でもその戦略が進化的に安定的であることが明らかになった。しかし二者でなく、三人以上になると合意がないと協力の維持は不安定であること、そしてその人数が多くなるに連れて協力の発生すらおぼつかなくなる、つまり監視や制裁の統制がなければ協力の発生が難しくなることが明らかになった。
  • 丸田 利昌
    1991 年 6 巻 1 号 p. 21-36
    発行日: 1991/04/01
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
     志田 [1988] は,「自由で合理的な個人」という観念の直観的理解のもとで個人主義的社会理論を「社会状態の行為の組への一義的分解可能性」以下の三つの条件によって特徴づけた.しかしながら,「自由で合理的な個人」とははたしてどのような個人なのか.本稿は,個人主義的社会理論における合理性概念として「Nash均衡概念にもとづく合理性」が採用されるときの帰結を検討する.そのような帰結として本稿は以下の二つを主張する;(1) Nash均衡概念にもとづく個人主義的社会理論は,社会状態を一義的に説明/予測することはできない(説明/予測の「不完全性」):(2) Nash均衡概念にもとづく個人主義的社会理論は、「個別決定的」であることはできない(Nash均衡概念と個別決定性の「非整合性」).これらは,個人主義的社会理論の枠組みについての再考を迫るものである.
  • ─社会過程の予備モデルI─
    遠藤 薫
    1991 年 6 巻 1 号 p. 37-59
    発行日: 1991/04/01
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
     従来、集合過程を個別過程の延長として記述することは困難であるとされてきた。なぜなら、両者の間には、合理性レベルの相違、不完全情報、排除不可能な不確実性、個人―個人間・個人―集合間の相互作用の錯綜および再帰性などの問題が介在するからである。明らかに社会は、諸個人の意志および行為の集積として存在する。にもかかわらず、社会は「社会」と名指されたときから、あたかもそれ自体が主体意志をもつ仮想生命体のように、自らが自らを更新してゆく自己再製能力を獲得する。本稿では、我々の作成した社会論理モデルのコンピュータ・シミュレーションにより、個的主体間のきわめて単純な交換原理の反復適用によって、無秩序な状況から「社会圏(社会的凝集)」が自生的に生成されることを確認する。さらにこの自己準拠的過程から生ずる (1)「社会圏」の凝集の特性,(2)「社会圏」の分散/統合/階層化,(3)「社会圏」の動態の求心性/離心性などに関して様々な知見が得られた。しかし、本モデルの意義はこれにとどまらず、その容易な拡張により、自然法、権力、貨幣、都市などの生成モデルへと連結する。本稿は、こうした今後の展開の起点となるモデルを提示するものである。
  • 和田 修一, 大久保 孝治
    1991 年 6 巻 1 号 p. 61-87
    発行日: 1991/04/01
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
     本稿の目的は、ひとつには、「イヴェント・ヒストリー分析」(event history analysis)ならびに「コーホート分析」(cohort analysis)の視点から「ライフコース論」(life course perspective)について考案を加えることであり、そしてふたつめには、コーホート分析の視点から行った実際の分析例(今時の戦争がひとびとのその後の生活に及ぼした影響のコーホート間比較)を示すことである。本稿のその2つの目的に対応して、本稿は2つの部分(「I.ライフコース論の方法論的検討」ならびに「II.戦争がライフコースに及ぼす影響についての一考察」)から構成されている。
     ライフコース論を支える分析方法論のひとつはコーホート分析である。コーホート分析は、コーホート間で比較分析を行うことによって、社会の変動構造にアプローチする視点を提供する。比較分析をより信頼度の高いものにするためには、時間変数を導入した時系列データを分析対象とすることが方法のひとつとして指摘できる。すなわち、ライフコースはライフコース間の比較分析に適用されることによって大きな力を発揮できるといえる。特に、ライフコースをひとびとの生活状態の持続と変化と見なしうるならば、そしていくつかのパラメータによってそのプロセスの構造を描くことができるならば、そのパラメータを指標とする比較分析へとライフコース論の道が開かれることになる。
     太平洋戦争はそれを経験した日本人の人生にどのような影響を及ぼしたか―これが本稿のテーマである。分析に用いたデータは朝日新聞に「私の転機」というタイトルで連載された241名の個人的記録(personal document)である。すなわち、本稿の方法論的なねらいは、多数の質的(主観的)データを用いて、戦争体験が個人の内面的経歴に及ぼした影響を明らかにしようとした点にある。分析には統計的方法と事例的方法とを併用した。まず、241名を12の出生コーホート(1つのコーホートの幅は5年)に分け、その内の比較的規模の大きい7つのコーホートについて、戦争体験が人生の転機の契機となった者の割合を算出するとともに、その割合がコーホート間で異なる理由について考察した。続いて、別々のコーホートに所属する4人の事例を取り上げ、転機=ライフコースの方向転換(あるいは方向の決定)という視点から、戦争体験が人生の転機を引き起こすメカニズムについて考察した。その結果、戦争体験を契機とした転機とは、敗戦前後の日本の社会構造の非連続性が個人のライフコースに反映したものであること、また、その反映の程度と内容にはコーホート間で違いがあることが明らかになった。
特集 安田三郎教授/人と業績
コミュニケーションズ
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