理論と方法
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7 巻, 1 号
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特集 階層・移動研究の展望
  • 鹿又 伸夫
    1992 年 7 巻 1 号 p. 1-18
    発行日: 1992/04/01
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
     階層・移動研究の沈滞と混迷が指摘されている。本稿では、その沈滞と混迷について、次の諸点を論じる。(1) 階層・移動研究では、計量的分析の成熟という条件のもとで変数指向戦略が偏重されたために、諸仮説の個別化・競合化が進み、分析結果が錯綜する事態を生んでいる。そのため、(2) どこまで実証されたかを経験的に確証する方向へも、そして新たな理論構想を演繹的に論証する方向へも進展していない。最後に、(3) 沈滞と混迷の状況を打開する方途を、変数指向戦略、解釈的戦略、数理的戦略などの研究戦略の結合という観点から考案する。
  • ─SSM調査に対するいくつかの疑問を中心に─
    稲月 正
    1992 年 7 巻 1 号 p. 19-31
    発行日: 1992/04/01
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
     階層・移動研究の停滞やインパクトの低下が、現在、指摘されている。本稿は、その原因を、(1) 争点、(2) 方法、(3) 解釈枠組、(4) 価値観といった相互に関連する4つの点から明らかにし、それらを踏まえながら研究活性化の方向を模索することを目的としている。
     本稿前半部では、まず、インパクト低下の直接の原因を、SSM研究が有効な現状分析を提供できなくなったことにもとめる。さらにその原因は、(1) 1985年SSMの主要な争点である階層固定化・再生産が必ずしも明確に検証されなかったこと、(2) 不平等研究においては「中心―周辺(身障者、エスニック・マイノリティ等)」関係、「集合体(企業、国家)間の階層構造」等の比重が高まりつつあるが、「全国レベル」での「個人サンプル」から構成されているSSMのデータではこれらの問題を扱うことはできないこと、(3) したがってSSMによって析出された階層構造の分析は、全体社会構造における限られた局面の分析と解釈にとどまらざるを得ないこと、(4) また、このような方法ならびに解釈の限定性は、SSMが依拠している近代主義的な価値観に起因することが示される。
     本稿後半部では、これらの諸点を踏まえつつ、SSM活性化のための若干の方策を提示した。
  • 片岡 栄美
    1992 年 7 巻 1 号 p. 33-55
    発行日: 1992/04/01
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
     本研究では、文化による象徴的な支配のメカニズムが人々の日常生活の階層的リアリティを構成し、階層構造の再生産にとって重要な役割をもつことを解明する。このために文化資本を幼少時の文化的環境(相続文化資本)と現在の文化的活動(文化資本)の2つで測定する。その結果、次の知見を得た。(1) 男女で文化的活動の構造は異なる。(2) 正統文化への関与の意味は、男女で異なる。(3) 文化資本の再生産プロセスが、社会階層の再生産および教育的再生産にとって重要な媒介プロセスとなっている。さらに、LISRELの構造方程式モデルによる男性データを用いて得られた主な知見は、(4) 相続文化資本は、出身階層により差がある。(5) 相続文化資本は、階級のハビトゥスとして、学歴および成人後の「正統」文化的活動を左右する重要な要因である。すなわち家族から幼少時に相続した文化資本の効果は、成人後の文化資本を規定し、ここに文化的再生産メカニズムが存在する。(6) このメカニズムにおいて、教育は上層階層の家庭環境に由来する文化的能力を承認する役割を果たしている。
  • ─マルコフ連鎖モデルの場合─
    小林 淳一
    1992 年 7 巻 1 号 p. 57-65
    発行日: 1992/04/01
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
     マルコフ連鎖モデルにもとづいて、「農業」と「非農」間の転移による職歴の形成メカニズムを仮設し、そこからのデリベーションを追求する。その結果として、「1才ごとの職歴を吸収マルコフ連鎖モデルで表現できる」、という仮定の妥当性はきわめて高いことが明らかにされる。そしてSSM調査を活性化するための一助として、世代間・世代内移動に関する数理的モデルの構成が必要である、との認識が示される。
論文
  • 沢田 善太郎
    1992 年 7 巻 1 号 p. 67-86
    発行日: 1992/04/01
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
     部分尺度分析はガットマン尺度分析を拡張した多次元尺度分析法だが、その組織的な処理の方法は現在のところ未完成である。これを補うために、本稿では部分尺度分析の論理と制約条件を明確にして、論理プログラミングによる部分尺度分析の方法を検討する。代表的な論理型言語であるPrologによって、部分尺度分析の原理と制約条件を論理式で表わすと、Prologの処理系は半ば自動的に探索を行ない、部分尺度分析を遂行する。この方法は、部分尺度分析の実用化のために林(1973, 1974)が提唱した数量化の方法と比べて、部分尺度分析の論理に忠実であり、かつ、時間が節約できる。
  • ―予期理論の存立基盤―
    土場 学
    1992 年 7 巻 1 号 p. 87-102
    発行日: 1992/04/01
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
     本稿は、宮台が構想する「権力の予期理論」について、権力現象の背後にある個々人の「了解」の構造に着目することにより、予期理論の方法論を支えている理論的基盤を析出することを目的とする。予期理論の最大の特徴は、権力現象に対してある1人の個人の了解に準拠して接近するという理論上の戦略にある。しかし、社会状況のもとでは、個々人の了解の相互的な読み込みということが生じるがゆえに、この予期理論の戦略は無条件には成立しない。本稿では、まず、「共有知識」という概念についてのAumannの定式化に依拠して、予期理論の戦略が成立するための一般的な条件を考察する。その際、個々人の個別的な了解から、了解の相互的な読み込みを通じて、全ての個人の「共有了解」が導出される過程を記述するための形式的なモデルを提示する。そしてそれに基づいて、予期理論の戦略が成立するための条件は、個人の内的宇宙において、自己の了解が全ての個人の共有了解になっていることであることを論証する。しかし、このことから逆に、現実の社会状況において個人が自己の了解に基づいて行為を選択することは、一般的には不可能であるという結論が導出されてしまう。したがって結局、予期理論の戦略の有効性は、共有了解に関する疑似的な解決の可能性に依存することになる。
  • 数土 直紀
    1992 年 7 巻 1 号 p. 103-119
    発行日: 1992/04/01
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
     この論考では、情報が役に立つとはどのようなことなのか、このことの解明を目的にしている。人々は、情報を活用することで、事を有利に運ぼうとする。しかし、情報は、それだけで何らかの有用性を持っているわけでない。特に、他者との関わりの中で情報を用いようとする場合、情報は用いられ方次第で、有用にも、有害にもなりうる。そして、人は、与えられた情報を有用なものとして扱おうとする限り、その情報が状況に導入されることで、自分の判断にだけでなく、他者の判断にもどのような変更が生じうるかを検討しなければならなくなる。この事実は、二つの点で重要である。一つは、この事実は、情報を得ることで状況の展開の読みが容易になり、手の決定にいたるまでの負担が軽減される、という常識が誤っていることを示唆している。もう一つは、この事実は、状況に関係する不確定的な要因を確定してくれる情報が他者というより根源的な不確定性への意識的な注意を喚起するということを明らかにしている。つまり、状況の中の不確定性を減少させるはずの情報は、同時に、行為者をして異なる不確定性の存在に意識を向けさせる。これは、情報の逆説的な性格の一つであろう。
研究ノート
  • 土場 学
    1992 年 7 巻 1 号 p. 121-128
    発行日: 1992/04/01
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
     近年、ゲーム理論の領域において、「共通知識」という概念に関するAumannの着想を公理論的に体系化された認識モデルから導出しようとする試みがなされている。こうした試みは、個々人による世界像の共有という事態を形式的に記述するための1つの理論的方策を示すものとして解釈することもできる。本稿は、こうした認識モデルから「共有知識」という概念が導出されるまでの論理過程がどのような公理系および命題群で編成されているかを簡潔に紹介することにより、その基本的発想を明らかにする。
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