点頭てんかんの治療において, 合成ACTH-Zは第一選択治療剤とされてきた. しかし本剤により頭部コンピューター断層写真 (CT) 上に著明な退縮像を示す事が周知となり, 本剤の乳幼児に対する治療は再評価を要する時期に来たと思われる. このため本剤の薬用量, 治療時年齢, 精神発達の予後およびCT上の退縮像との関係を前回の症例報告1) に続いてさらに多くの症例で検討を行なった.
対象は合成ACTH-Z治療を受けた点頭てんかんおよびレノックス症候群の29例, ネフローゼ症候群でprednisoloneのパルス療法を行なつた2例, 合成ACTH-Zを使用せず, 抗痙攣剤のみで経過観察を行なった1例で以下の結果を得た。
1) CTの経時的観察を行なった点頭てんかん9例総てに治療直後CT上に退縮像が見られ, 治療終了後回復傾向が見られた. 退縮像は年齢が幼若, 大量投与, 治療前にすでに退縮像の見られた症例で著明となる傾向が見られ, 今後さらに多数例で検討を要すると思われた
。2) 過去に合成ACTH-Z治療を受けた点頭てんかんおよびレノックス症候群の20例中18例に知能障害が見られた. しかし本剤治療以前にすでに発達遅延を示していた症例も多く, 本剤と知能予後との関係は今後なお検討を要すると思われた.CT正常例は8例あり, CTで退縮像を示した症例では前頭部退縮像, シルビウス溝の拡大が多く見られた. しかし基礎疾患を考慮すると本剤治療より長期間経過した症例ではCT上での影響はあまり残存しないようであった.
3) Prednisoloneのパルス療法を受けた2例 (ともに4歳) のネフローゼ症候群においてCTの経時的観察を行なったところ, パルス療法後著明な脳溝の拡大と軽度の脳室の拡大が見られた。
しかしパルス療法終了それぞれ6ヵ月後と10ヵ月後の脳波, 精神運動発達に異常は見られなかった.
4) 合成ACTH {を使用せず抗痙攣剤のみで軽快し, CTに著変を見なかった点頭てんかんの1例を経験した.
以上の結果より, 合成ACTH-ZによるCT上の退縮像と精神運動発達の予後への影響の関係を考えると, 年長児ではあまり影響が無かったように思われた. 1~2歳以下の幼若児では完全な退縮像の回復の見られなかった症例があり, なお未解決な問題を残していると考えられた.
このため点頭てんかんの治療においては合成ACTH-Zは第二選択治療剤として考え, 従来より少量, 短期間, CT像に注意して使用する事を我々は考えた.
抄録全体を表示