“ことばの遅れ” を主訴として受診した男児105例, 女児18例の計123例 (平均年齢±SD: 3歳8カ月±1歳2カ月) に対し, 難聴のスクリーニングとして聴性脳幹反応聴力検査 (ABR) を施行した.
(1) 123例のうち8例は95dBにても有意の反応波形が出現せず, 2例はV波の域値が55dB, 65dBと上昇していた. これら10例は, のちの聴力検査でも難聴が確認され, 9例は聾学校へ, 1例は補聴器を使用しながら言語治療教室に通学している. また, V波の域値が35dB以下だった113例で, のちに聴力障害を指摘された児はいなかった.
(2) 123例の言語発達遅滞児の分類は, 精神発達遅滞が55例 (44.7%) と最も多く, 次いで自閉症31例 (25.2%), 微細脳障害症候群11例 (9.0%), 難聴・聾10例 (8.1%), 脳性麻痺8例 (6.5%) だった.これに対し特発性言語発達遅滞は8例 (6.5%) と少なかった.
(3) ABR反応波形の潜時は, 精神発達遅滞, 自閉症, 微細脳障害症候群とも健康対照児群の平均潜時 (85dB: I波1.14msec., III波3.39msec., V波5.14msec.;55dB: I波1.78msec., III波3.89msec., V波5.71msec.) と比べてt検定で有意の差を認めなかった.
(4) ABRは, 幼児難聴診断のスクリーニング方法として極めて有用であり, 言語発達の遅れがみられる幼児では早期に行うべき検査と思われた.
抄録全体を表示