脳と発達
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41 巻, 6 号
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巻頭言
総説
  • 中島 欽一, 神山 淳, 波平 昌一, Gage Fred H, 岡野 栄之, 澤本 和延
    2009 年 41 巻 6 号 p. 411-414
    発行日: 2009年
    公開日: 2016/05/11
    ジャーナル フリー
     胎生期神経幹細胞がアストロサイトへの分化能を獲得するためには, アストロサイト特異的遺伝子プロモーターのDNA脱メチル化というエピジェネティックな制御が重要である. しかし, この脱メチル化を経た胎生後期~成体の神経幹細胞から産生されたニューロンでは, 中枢神経系においてニューロン特異的に発現する転写抑制因子メチル化DNA結合タンパク質ファミリー分子群 (MBDs) が, 高度にメチル化の維持された他の領域に結合してアストロサイト特異的遺伝子の発現を制限していることが明らかとなった. さらにこのMBDsをほとんど発現していないオリゴデンドロサイトでは, 損傷などによりアストロサイトへの分化転換が見られることがわかった.
原著論文
  • 石川 暢恒, 小林 正夫
    2009 年 41 巻 6 号 p. 415-419
    発行日: 2009年
    公開日: 2016/05/11
    ジャーナル フリー
     HAX1はミトコンドリア内膜での膜電位をコントロールすることでアポトーシス抑制因子として作用するのみならず, 多くのウイルスや細胞質内蛋白質と結合して多彩な機能を有する蛋白質である. 我々は本邦のHAX1遺伝子変異を有する重症先天性好中球減少症が中枢神経症状を呈することを報告してきた. 今回, HAX1遺伝子変異症例の自験例5例に, 文献報告例39例の詳細を加えて, 中枢神経症状, 遺伝子変異との関係について検討した. その結果, 自験例5例と文献報告例7例の合計12例が認知機能障害を有しており, 10例がてんかんを発症していた. HAX1はスプライシングにより2つのアイソフォーム (アイソフォームa, b) が形成されるが, 12例全例の変異部位が, アイソフォームa, b両方に影響する変異であり, アイソフォームaのみに影響する変異例では神経症状を呈さないことから, 両方のアイソフォームが影響を受けることによって中枢神経系の機能障害を生じることが示唆された.
  • 津田 芳見, 橋本 俊顕, 森 健治, 西村 美緒, 福本 礼, 藤井 笑子, 高原 光恵
    2009 年 41 巻 6 号 p. 420-425
    発行日: 2009年
    公開日: 2016/05/11
    ジャーナル フリー
     幼稚園, 小学校の高機能広汎性発達障害児の知的認知と社会性, 認知行動発達との関係を検討するために, 対象児にWechsler知能検査, P-Fスタディを, その親にTS式幼児・児童性格診断検査を行った. 欲求不満場面での対応は標準から逸脱した反応が6割にみられ, 知能指数の高さとは相関はなかった. 親評価による性格検査からはハイリスクで注意や配慮を要する行動様式のものが, 5割~7割であった. 言語性知能指数の高い群が, ハイリスクな行動様式が多く, 悩みや問題行動が高い傾向があった. 高機能広汎性発達障害児は, 認知行動発達上, 多くの問題を抱え, 社会性の発達支援の重要性が示唆された.
  • 平澤 利美, 眞田 敏, 柳原 正文, 津島 靖子, 加戸 陽子, 荻野 竜也, 中野 広輔, 渡邊 聖子, 大塚 頌子
    2009 年 41 巻 6 号 p. 426-430
    発行日: 2009年
    公開日: 2016/05/11
    ジャーナル フリー
     改訂版Stroopテストにおける年齢別の標準値を得るとともに, 干渉効果に関する指標の発達的変化について検討することを目的とし, 6~20歳までの健常児 (者) 281名を対象に検査を行った. Incongruent Color Naming (ICN), ICN - Color Naming (CN), ICN/CNなどの干渉効果に関する各指標の年齢による変化について単回帰分析を行った. その結果, 各指標において年齢による変化を認め, 各指標成績が示す最良値は16~17歳台であることが示され, 干渉課題の遂行には, 発達の完了が遅い脳局在や機能システムが関与していることが示唆された.
  • 横山 浩之, 廣瀬 三恵子, 奈良 千恵子, 涌澤 圭介, 久保田 由紀, 萩野谷 和裕, 土屋 滋, 飯沼 一宇
    2009 年 41 巻 6 号 p. 431-435
    発行日: 2009年
    公開日: 2016/05/11
    ジャーナル フリー
     「指示待ち」はすでに獲得された日常生活行動をスモールステップな指示があるまで待つ状態である. 中等度以上の知的障害を伴う自閉症があり, 「指示待ち」を呈した9症例を検討したところ, 全例で大うつ病エピソードを満たし, 気分障害の合併と診断し得た. 9症例のうち7症例でfluvoxamineが「指示待ち」を含めた抑うつ状態に有効であった. 無効例ではrisperidoneやvalproate sodiumが有効であり, これらの症例が双極II型障害である可能性がある. 「指示待ち」は気分を言語表現できない自閉症がある児 (者) にとって, 抑うつ状態の症状であり, 診断上有用と考えられた.
  • 洲鎌 倫子, 石﨑 朝世
    2009 年 41 巻 6 号 p. 436-441
    発行日: 2009年
    公開日: 2016/05/11
    ジャーナル フリー
     注意欠陥/多動性障害 (以下AD/HD) の治療にmethylphenidate (MPH) が使用されるが, 従来の速放剤が使用できなくなり, 徐放錠への切り替えを要した181例を対象として発達障害のタイプ, 服用量, 効果判定, 副作用, 併用薬, 徐放錠への変更に際しての問題点等につき検討した. 発達障害のタイプは広汎性発達障害 (以下PDD) 症状をもつAD/HDおよびAD/HDの症状をもつPDDが多かった. MPHはAD/HDの治療薬であるが, PDDでもAD/HDを併存し, そのAD/HD症状が生活の支障を来している場合には考慮される. 変更できたのは18歳以上の14例と錠剤服用困難の2例を除く165例であった. そのうち82.7%が速放剤と同等以上の効果が得られた. 問題点として錠剤服用困難例, 少量投与が必要な例, キャリーオーバー例, 成人例が挙げられ, 徐放剤の剤形 (徐放性顆粒) や容量 (少容量) の検討, 18歳以上の適応拡大などの対応が必要と考える.
症例報告
  • 山本 歩, 山本 剛, 大府 正治, 濱本 邦洋, 安元 佐和, 廣瀬 伸一
    2009 年 41 巻 6 号 p. 442-446
    発行日: 2009年
    公開日: 2016/05/11
    ジャーナル フリー
     けいれん群発で入院し, torsade de pointesを契機に先天性QT延長症候群 (long QT syndrome; LQTS) と診断した13歳女児を経験した. LQTSは発作時にけいれんを伴う場合てんかんと誤診されやすいが, 突然死の危険があるため鑑別が重要である. 脳波異常を認め, てんかんと初期診断されたLQTSの11例を検討し鑑別点を考察した. 1) LQT2やLQT3では安静時や睡眠時に発作が多い点への留意, 2) 発作時の脈の確認, 3) 脳波に記録される心電図所見への注意, 4) 間歇期脳波を併せた慎重な診断, 5) 治療域の抗けいれん薬投与下で発作抑制困難な場合に心原性の可能性を再考することが重要と考えた.
  • 白井 謙太朗, 中島 啓介, 渡辺 章充, 川野 豊, 佐久間 啓, 吉田 尊雅, 宮田 理英, 田沼 直之, 林 雅晴
    2009 年 41 巻 6 号 p. 447-451
    発行日: 2009年
    公開日: 2016/05/11
    ジャーナル フリー
     インフルエンザ菌 (Hib) による劇症型髄膜炎の1男児例を経験した. 症例は4歳男児. 生来健康であったが, 発熱, 嘔吐を来し傾眠傾向となった. 発症12時間後より細菌性髄膜炎の治療を開始したが, 急激な脳腫脹から脳ヘルニアを来し臨床的な脳死状態となった. 本症例は急性脳症と類似した臨床経過・画像所見を示し, さらには発症1日目の髄液で炎症性サイトカインが著しい高値を呈していた. 文献的考察から, Hibによる劇症型髄膜炎には, DIC (disseminated intravascular coagulation) ・多臓器不全型と急性脳腫脹型があり, 本例はサイトカイン・ストームによる急性脳腫脹型であると考えられた.
  • 田中 竜太, 須貝 研司, 富士川 善直, 小牧 宏文, 中川 栄二, 斎藤 義朗, 大戸 達之, 橋本 俊顕, 佐々木 征行
    2009 年 41 巻 6 号 p. 452-456
    発行日: 2009年
    公開日: 2016/05/11
    ジャーナル フリー
     先天性無痛無汗症の6カ月女児および3歳2カ月男児の脳誘発電位を検討した. 2例とも聴性脳幹反応 (ABR) の潜時は正常であったが, 閃光刺激視覚誘発電位 (F-VEP) でIV波 (P100) 潜時の遅延, 短潜時体性感覚誘発電位 (SSEP) で中枢伝導時間 (N13-N20間潜時) の著明な延長が認められた. 男児例はWest症候群後で脳波上多焦点性てんかん放電を認め, SSEPの所見はその影響を受けていると考えられた. 乳児例はてんかんの合併もなく, F-VEPやSSEPの異常は本疾患における中枢神経発生障害を反映した可能性が考えられた.
  • 今井 由生, 吉永 治美, 石﨑 裕美子, 渡邊 嘉章, 大塚 頌子
    2009 年 41 巻 6 号 p. 457-461
    発行日: 2009年
    公開日: 2016/05/11
    ジャーナル フリー
     Vitamin B6再投与により, 良い治療効果が得られた症候性West症候群の2症例を経験した. どちらも1回目のvitamin B6投与を十分な効果判定がされないまま中止されていた. 症例1は初回投与時に脳波の改善がみられないということで早期に中止され, 2回目の合成ACTHを含め多剤が無効であったが, vitamin B6の再投与が著効した. 症例2ではvitamin B6は副作用のため中止されていたが, 内服中のvalproate sodiumに追加したところ著効した. どちらも周生期障害による重篤な頭蓋内病変を有しており, 合成ACTH療法の施行が困難であった. Vitamin B6が有効である可能性が高い症例に対しては, 投与量および併用薬剤を変更して再評価してみる価値があると考えられた.
短報
  • 今井 由生, 渡邊 嘉章, 渡邊 聖子, 大塚 頌子
    2009 年 41 巻 6 号 p. 462-464
    発行日: 2009年
    公開日: 2016/05/11
    ジャーナル フリー
     臭化カリウム (KBr) による結節性臭素疹 (bromoderma tuberosum) の乳児例を経験した. 症例は1歳1カ月の難治てんかんの小児. 種々の抗てんかん薬が無効であり, KBrを使用した. 使用開始6週後から両頬部と足背に膿痂疹が出現し, 急速に増大した. 抗生剤外用, 内服, 静注は効果がなく, 細菌・真菌・抗酸菌培養はすべて陰性であった. KBrの血中濃度は1,833μg/mlまで上昇していた. 臨床経過と皮疹の特徴, 生検の結果から結節性臭素疹と診断した. KBrの中止とステロイドの併用で皮疹は軽快した. Bromide内服中は皮膚症状に注意が必要である.
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