脳と発達
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41 巻, 4 号
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巻頭言
総説
  • —発生生物学から臨床医学への応用—
    藤井 克則, 宮下 俊之
    2009 年 41 巻 4 号 p. 247-252
    発行日: 2009年
    公開日: 2016/05/11
    ジャーナル フリー
     ヘッジホッグシグナル伝達経路は生体にとって形態形成と細胞増殖をコントロールする重要な経路である. 本経路はリガンドであるヘッジホッグとその受容体であるpatched (PTCH), 隣接タンパクのsmoothened (SMO), その下流のGli (GLI) から構成されている. この経路の異常は出生前であればGorlin症候群等の奇形症候群を, 出生後であれば髄芽腫, 基底細胞癌等の癌腫を来す. 近年低分子化合物を用いた本経路の阻害研究が進み, 特に癌領域でその分子標的治療が効果を上げている. 小児神経学において先天性奇形症候群と易腫瘍形成性に対処する上で, このヘッジホッグシグナル伝達経路の理解は極めて重要である.
原著論文
  • —主要症状を中心とした多様な症候スペクトラム—
    田辺 良, 藤井 克則, 宮下 俊之, 内川 英紀, 遠藤 真美子, 杉田 克生, 新井 ひでえ, 河野 陽一
    2009 年 41 巻 4 号 p. 253-257
    発行日: 2009年
    公開日: 2016/05/11
    ジャーナル フリー
     Gorlin症候群は, 先天奇形と高発癌性を特徴とする常染色体優性遺伝疾患である. 主要5症候の基底細胞癌, 皮膚小陥凹, 顎骨内囊胞, 椎骨肋骨異常, 大脳鎌石灰化はよく認められる症状であるが, これらは年齢依存性に出現し, 診断基準にない症候も数多く存在するため早期には診断に難渋することが多い. 我々は日本人Gorlin症候群22家系25例の臨床症状を検討し, 基底細胞癌の発症率が20%と欧米豪と比較して極めて低率であること, 致死率の高い髄芽腫が存在しなかったこと, そして, 従来報告のない新たな合併症を見出した. 本症候群は易腫瘍形成性があるため, 幅広い臨床症状からその特徴をとらえ, 早期診断することが重要である.
  • PTCH1遺伝子変異とその多様な変異スペクトラム—
    遠藤 真美子, 藤井 克則, 宮下 俊之, 内川 英紀, 田辺 良, 杉田 克生, 新井 ひでえ, 河野 陽一
    2009 年 41 巻 4 号 p. 259-263
    発行日: 2009年
    公開日: 2016/05/11
    ジャーナル フリー
     Gorlin症候群は先天奇形と高発癌性を特徴とする常染色体優性遺伝疾患でありPTCH1変異により発症する. 我々はGorlin症候群22家系25例のPTCH1解析を行い19家系22例 (86%) で遺伝子変異を同定した. 内容は挿入/欠失変異が10家系12例, 染色体欠失によるヘテロ全欠失が3家系4例, スプライス変異が3家系3例, ナンセンス変異が2家系2例, ミスセンス変異が1家系1例であった. ヘテロ全欠失以外の16変異のタンパク内部位は細胞外ループ10例, 細胞内ループ4例, 膜貫通領域2例であった. 今回の検討では86%と高率にPTCH1変異が同定されたが, これは人種差ないし解析方法の改良によると思われた.
  • 横山 浩之, 廣瀬 三恵子, 奈良 千恵子, 涌澤 圭介, 萩野谷 和裕, 飯沼 一宇
    2009 年 41 巻 4 号 p. 264-267
    発行日: 2009年
    公開日: 2016/05/11
    ジャーナル フリー
     10年間に行為障害 (conduct disorder; CD) を合併した発達障害13例を経験した. 虞犯行為を認めた平均年齢は8.9歳で, CDと診断し得た平均年齢は12.5歳であった. 全例で虐待を認めた. 司直による措置を受けた4例を除くと, 施設入所を余儀なくされた症例が9例中5例であった. 5例中4例でCDから離脱がみられた.
     同一性, 同一発達障害の症例を対照群として検討したところ, CD群では虐待と保護者の離婚が有意に多かった. 保護者の精神疾患の有無は両群間に有意差はなかったが, 対照群では, 有意に治療的介入を受けていた.
     家族を含めて治療的介入することが, 子どものCD併存を予防できる可能性が示唆されるが, よりよい治療的介入の検討が必要である.
  • 弓削 マリ子, 全 有耳
    2009 年 41 巻 4 号 p. 269-274
    発行日: 2009年
    公開日: 2016/05/11
    ジャーナル フリー
     平成17年秋にF市 (年間出生数約800人) と協働で, 7保育園年中組で保護者の同意を得た129名に5歳児モデル健診を実施し, 集団の苦手な子に事後支援を行った. 1年後に担任保育士に再問診し, 健診時問診ともに完全回答を得た療育中の1名を除く103名 (健診結果 : 「正常」86名, 「集団の苦手な子」17名) を対象に分析した. 1年後, 「正常」の約9割が「正常」, 「集団の苦手な子」の約7割が集団不適応傾向と推測された. 行動上の問題のうち「外からの刺激に気が散りやすい」, 「落ち着きがない」, 「不器用である」は回答の一致率が高く, 成熟や事後支援によっても改善されにくいが, 他の問題は成熟と養育環境の調整で改善される可能性が高いことが明らかになった.
  • 水野 勇司, 笹月 桃子, 相部 美由紀, 本荘 哲
    2009 年 41 巻 4 号 p. 275-278
    発行日: 2009年
    公開日: 2016/05/11
    ジャーナル フリー
     気道内視鏡検査を実施した40例の重症心身障害児 (者) を対象に, 気管内肉芽の有無, 発生部位, 対策に関して検討した. 年齢は2歳から52歳 (平均23.2歳) であった. 気管チューブ挿入中の11例中7例 (63.6%), 気管カニューレ留置中の21例中17例 (81.0%) に気管内肉芽を認めた. 肉芽の発生部位は, カニューレ先端部が最も多く, 気管前壁に発生しやすい傾向が見られた. 対策として, カニューレ変更を9例, レーザー治療を6例に行ったが, 再発がそれぞれ5例と4例あった. 再発した2例に対し, mitomycin Cの局所投与を実施し, 良好な結果が得られた. カニューレ装着中の重症心身障害児 (者) は, 斜頸, 頸椎前彎や胸郭の変形による気管の走行異常が誘因となり, 気管内肉芽が発生しやすい. 肉芽対策として, カニューレ変更や, レーザー治療など種々の方法があるが, mitomycin Cの局所投与も有効な方法のひとつといえる.
  • 第1編 滋賀県の脳性麻痺の発生動向—出生体重別・在胎週数別分析
    鈴木 順子, 宮嶋 智子, 藤井 達哉
    2009 年 41 巻 4 号 p. 279-283
    発行日: 2009年
    公開日: 2016/05/11
    ジャーナル フリー
     1977~2000年度24年間に出生し, 就学時に滋賀県に在住した脳性麻痺を調査し, 3年ごと8期に分け出生体重別・在胎週数別発生動向をみた. 24年間の滋賀県の出生349,514に対し, 就学時の脳性麻痺は569, 出生1,000対1.63で, 第1~4期に比し第5期から増加し, 以後第8期まで有意な増減はなかった. 出生体重・在胎週数の低いものの割合が次第に増加し, 第8期には低出生体重児・早産児ともに3分の2を占めていた.
  • 第2編 滋賀県の脳性麻痺の発生要因
    鈴木 順子, 宮嶋 智子, 藤井 達哉
    2009 年 41 巻 4 号 p. 284-288
    発行日: 2009年
    公開日: 2016/05/11
    ジャーナル フリー
     1977~2000年度24年間に出生し, 就学時に滋賀県に在住した脳性麻痺の発生要因, 画像所見, リスクファクターについて検討した. 24年間を3年ごと8期に分け, 発生要因の時期による増減についても検討した. 早産であったものと正期産であったものとに分け, それぞれについて検討した.
     早産であったものでは, 脳室周囲白質軟化症 (PVL) 58%, 多胎25%, 人工換気41%で, いずれも後半期に増加していた.
     正期産であったものでは, 脳形成障害17%, 胎児期脳血管障害15%, 低酸素性虚血性脳症14%, PVL 8%, 子宮内発育遅滞19%で, 時期による増減はなかった.
     ビリルビン脳症は早産であったものでは5期以後, 正期産であったものでは4期以後には認めなかった.
  • 第3編 滋賀県の脳性麻痺の6歳時の臨床像
    鈴木 順子, 宮嶋 智子, 藤井 達哉
    2009 年 41 巻 4 号 p. 289-293
    発行日: 2009年
    公開日: 2016/05/11
    ジャーナル フリー
     1977~2000年度生まれで, 就学時に滋賀県に在住した全脳性麻痺 (cerebral palsy: CP) 569例の就学時 (6歳時) の臨床像を検討した. 病型は, 痙性両麻痺が最も多く43%, 四肢麻痺28%, 片麻痺18%, 不随意運動型6%, 失調型5%の順で, 後半期に痙性両麻痺が増加, 不随意運動型は減少した. 発生頻度は, 早産の痙性両麻痺と四肢麻痺は後半期に増加した. 歩行可能なもの44%, 杖歩行5%, 四つ這い14%, 四つ這い不能37%で, 早産で歩行可能の割合が後半期に減少した. 精神発達は正常31%, 軽度遅滞12%, 中等度遅滞25%, 重度遅滞32%で, 早産で正常の割合が後半期に減少した.
     新生児医療の改善にもかかわらず, 滋賀県全体からは2000年までには脳性麻痺の減少や症状の軽症化はみられなかった.
症例報告
  • —歩行分析の有用性—
    栗原 まな, 高橋 佳代子, 小萩沢 利孝, 山内 裕子, 井田 博幸
    2009 年 41 巻 4 号 p. 294-298
    発行日: 2009年
    公開日: 2016/05/11
    ジャーナル フリー
     知的障害以外の症状が認められなかった時期より長期経過観察をした歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症 (DRPLA) の28歳女性を報告した. 本例の遺伝子診断に家族の了承は得られなかったが, 母と兄が剖検病理診断でDRPLAと診断されていたため, 頭部MRI・脳波・歩行分析・心理検査などを行いつつ経過を観察した. 頭部MRIでは10歳代後半より小脳萎縮が出現し, 脳波では14歳の初診時より全般性棘徐波複合が認められた. 臨床的には歩行障害とてんかんが発症した15歳をDRPLAの発症と考えた. 歩行分析では20歳代後半になって明らかな異常が認められるようになり, その後1年で歩行不能となった. 経過観察において歩行分析は有用なツールであった.
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