脳と発達
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44 巻, 1 号
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巻頭言
総説
  • 九鬼 一郎, 川脇 壽, 岡崎 伸, 井上 岳司, 温井 めぐみ, 富和 清隆, 天羽 清子, 外川 正生, 塩見 正司
    2012 年 44 巻 1 号 p. 5-12
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/25
    ジャーナル フリー
    123I iomazenil SPECTは中枢性ベンゾジアゼピン受容体をターゲットとし, 抑制性ニューロンの分布や機能を可視化する脳核医学検査である. 外科的治療が考慮される部分てんかんの焦点同定に有効とされ, 発作間欠期の検査であるために幅広い施設で実施可能である. 限局性皮質形成異常や海馬硬化症を中心に有用性は確立されており, 結節性硬化症や神経細胞移動障害においても, 特徴的な所見を認める. MRIで画像異常がない症例においても異常検出が期待できる. 中枢性ベンゾジアゼピン受容体は乳幼児期にダイナミックな発達的変化を認め, ベンゾジアゼピン系薬物により影響を受け, これらを踏まえたSPECT読影が必要となる. 今後は, てんかん以外での幅広い分野での応用が期待され, 抑制性シナプス伝達を評価した上での診療が可能になるであろう.
原著論文
  • 橋本 奈津子, 下野 九理子, 富永 康仁, 北井 征宏, 池田 妙, 沖永 剛志, 谷池 雅子, 大薗 恵一
    2012 年 44 巻 1 号 p. 13-18
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/25
    ジャーナル フリー
     A型ボツリヌス毒素 (Botulinum toxin A, 以下BTX-A) 療法は痙性斜頸治療のひとつであるが, 呼吸障害を併発する患者への使用は慎重に投与する必要がある. 今回われわれは, 頸部の筋緊張亢進に伴う異常姿勢により閉塞性呼吸障害を来した5名においてBTX-A治療を行い, 治療前後でTsui scoreと呼吸状態の変化について後方視的に検討を行った. 対象患者は全例で治療前から臨床的嚥下障害を認めた. 頸部の筋緊張亢進とそれに伴う異常姿勢は5例全例で改善し, Tsui scoreと呼吸障害も改善した. 最も若い症例では, 2回のBTX-A治療のみで筋緊張のコントロールが良好な状態を維持している.
     BTX-A治療は頸部緊張亢進を改善し, 上気道のねじれや過伸展を軽減し, 閉塞を防ぐことにより呼吸状態を改善することができると思われる. しかし, 一方で一過性の唾液増加と嚥下困難を呈した例が1例ずつあり, 前頸部筋へのBTX-Aの浸潤や急激な嚥下パターンの変化には注意が必要である.
  • 深沢 達也, 山本 啓之, 久保田 哲夫
    2012 年 44 巻 1 号 p. 19-24
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/25
    ジャーナル フリー
     NICU退院時のMRIが発達予後の予測に有用とする報告は見られるが, NICU退院時の拡散テンソル画像 (diffusion tensor imaging ; DTI) を評価した報告は少ない. 今回我々はNICU退院時のMRIで囊胞形成を認めた脳室周囲白質軟化症 (PVL) の2例と, 同様の変化を認めなかった3例との間で, NICU退院時のDTI所見を比較した. 脳梁膨大部, 脳梁膝部, 左右の大脳脚・内包後脚・錐体路に直接設定した関心領域と, tractographyを用いて描出した交連線維と皮質脊髄路の線維束全体を関心領域としてfractional anisotropy (FA) を計測したところ, 脳梁膝部・膨大部を通過する交連線維以外の計測箇所ではPVL症例のFAがより低値を示した. PVLの症例においては, 通常のMRIで検出できない白質障害がDTIでは検出できる可能性が示唆された.
  • 丸山 幸一, 倉橋 宏和, 鈴木 基正, 三浦 清邦, 熊谷 俊幸
    2012 年 44 巻 1 号 p. 25-28
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/25
    ジャーナル フリー
     1990年から2009年の20年間に当院で診療した, 気管切開を受けた重症心身障害児 (者) 90名の予後を検討した. 観察期間中に28名が死亡し, 累積生存率は切開後1年で0.91, 5年で0.74, 10年で0.59, 15年で0.54, 19年で0.40であった. 切開時年齢は0歳が最多で, 次いで1~5歳と10歳代が多かった. 10歳以下と11歳以上で生存曲線に有意差を認めなかった. 肺炎による死亡は2名であった. 気管動脈瘻は5名で発症して4名が死亡し, 予後不良であった. 動脈瘻発症例の切開時年齢は13歳以上で, 切開後2週間以降の晩期発症であった. ハイリスク患者に対する予防的腕頭動脈切離は予後改善に有用であった.
  • —スクリーニング検査としてのRapid Automatized Namingの有用性—
    金子 真人, 宇野 彰, 春原 則子, 粟屋 徳子
    2012 年 44 巻 1 号 p. 29-34
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/25
    ジャーナル フリー
     就学前年長児に施行したRapid Automataized Naming (RAN) による, 就学後の読み困難児を予測する確率について検討した. 就学前年長児1,001名にRAN課題を実施し, その後4年間追跡し, 小学1年から4年までの4時点におけるひらがな非語音読と漢字音読成績が低かった児童を抽出した. 就学前に実施したRAN成績による音読成績が低かった児童の識別確率およびRANの有用性をROC解析にて検討した. その結果, 就学前に実施したRANによる読み困難児の識別精度は, 小学2年で最大0.86を示した. また, 曲線下面積は, 小学3年で最大0.84を呈し, RANの予測指標としての有用性が示された.
  • 渡辺 好宏, 辻 恵, 鮫島 希代子, 和田 敬仁, 井合 瑞江, 山下 純正, 林 拓也, 相田 典子, 小坂 仁
    2012 年 44 巻 1 号 p. 35-40
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/25
    ジャーナル フリー
     2009年~2010年シーズンにインフルエンザウイルスH1N1 (2009) が全国的に大流行し, 小児重症患者の発生が報告された. 当院ではインフルエンザウイルスH1N1 (2009) による急性脳症を12例経験し, インフルエンザ脳症ガイドライン (改訂版) に沿い, 診療を行った. 症例は全例で基礎疾患・既往歴を有し, 意識障害を呈した. 脳波は全例で高振幅徐波を認め, 頭部CT, MRI検査ではそれぞれ4例, 6例で異常所見を認めた. 治療は5例に脳低体温療法を施行し, 予後は全例で軽快~軽度後遺症であり, 重度な後遺症を残した症例は認めなかった. 今後も重症例が増加する可能性があり, 適切かつ早急な診断・治療が必要と考えられた.
  • 杉浦 信子, 小貫 悟, 平野 浩一, 小沢 浩
    2012 年 44 巻 1 号 p. 41-44
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/25
    ジャーナル フリー
     医師以外の人々のてんかんに対する理解の現状を確認するために, 一般外来通院児保護者150名, 神経外来通院児保護者26名, 小学校教師38名, 養護教師42名, 看護師28名, 医大学生46名にアンケート調査を行い比較検討した. 一般保護者の多くはてんかんを「ほぼ半数が遺伝し, 生涯服薬する必要がある治癒しない疾患である」と捉えていることが結果から推察された. てんかん患者の保護者群では, 発作コントロールが良好でも服薬中は妊娠, 出産はできないと考える人が他群より多くみられた. また, けいれん時の対応の正答率は一般保護者, 小学校教師, 医大学生の3群で低く, 正しい理解のために今後のさらなる啓蒙が必要と考えられる.
  • 山下 稔哉, 林 隆
    2012 年 44 巻 1 号 p. 45-49
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/25
    ジャーナル フリー
     単音, 単語, 単文からなる読み検査と読字障害の判定基準を用いて一般中学生 (2年生43名) のひらがな音読能力を調査した. 中学生の音読能力は小学6年生と比べて向上するとはいえなかった. 音読時間と読み誤り数から7名 (16.3%) を読字障害に相当する読みの困難さ (reading difficulties; RD) を有すると評価した. RD群のうち3名は, 単音と単語の読みに困難さを有していたが, 単文の読みに問題を認めず, 単音読みに頼らない読み方略を発達させていると考えた. RD群と非RD群で, 学習面の自己評価, 自尊感情, 抑うつ度に有意差を認めず, 読みの困難さは直接的には自己評価や抑うつに影響を与えないと考えた.
症例報告
  • 熊田 知浩, 西井 龍一, 東 達也, 宮嶋 智子, 小田 望, 下村 英毅, 齊藤 景子, 藤井 達哉
    2012 年 44 巻 1 号 p. 50-54
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/25
    ジャーナル フリー
     4歳11カ月の難治前頭葉てんかんの女児にケトン食治療を行った. 発作は姿勢性強直発作, 頭部前屈発作, 複雑身振り自動症, 非けいれん性てんかん重積 (複雑部分発作) を認めていた. 頭部MRI所見は正常であった. ケトン食治療 (修正Atkins食) 開始5日目頃より著明な発作改善を認めた. ケトン食治療開始前と開始2カ月後に [11C] flumazenil (FMZ) -positron emission tomography検査を行った. 治療前はFMZの大脳皮質の広範な集積低下を認めたが, 治療開始2カ月後には大脳皮質全体のFMZ集積の増強 (改善) を認めた. FMZの集積改善に関して, ケトン食治療による脳内のγアミノ酪酸 (GABA) 系神経伝達の変化 (GABA濃度の上昇またはGABA-A受容体の機能亢進) が, 発作抑制につながった可能性を考察した.
  • 石田 悠, 宮島 祐, 志村 優, 森地 振一郎, 森島 靖行, 五百井 寛明, 小穴 信吾, 山中 岳, 河島 尚志, 星加 明徳
    2012 年 44 巻 1 号 p. 55-59
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/25
    ジャーナル フリー
     生後早期に先天性サイトメガロウイルス (CMV) 感染症と診断し, valganciclovir (VGCV) 投与が奏効した1例を経験した. 症例は日齢21男児. 日齢5に自動聴性脳幹反応で聴覚障害を疑われ, 両側の高度感音難聴, 脳回形成異常, 側脳室拡大を認めた. 血清CMV IgM抗体陽性, 尿中・臍帯CMV-DNA陽性から先天性CMV感染症と診断し, 書面で両親のインフォームド・コンセントを得た上で, 日齢34よりVGCVを2クール内服投与した. その後1歳まで, 血中CMVは消失しており, 脳波所見, 頭部画像所見, 運動発達に改善を認めた. 先天性CMV感染症の早期発見, 治療の保険適応の問題など今後の検討が必要である.
  • 吉岡 三惠子, 井坂 雅子
    2012 年 44 巻 1 号 p. 60-65
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/25
    ジャーナル フリー
     乳幼児期に運動や言語の遅れを主訴に受診し, 5~6歳でAsperger障害と診断された症例の内, ほぼ年1回の発達検査によって乳幼児期の認知や言語について客観的評価ができた12例 (男10例, 女2例) の発達経過を検討した. 発達検査は6歳までは新版K式発達検査2001 (新K式2001), 5~6歳以降はWechsler知能検査 (WISC-III) を施行. 前者の認知・適応項目 (C-A) を後者の動作性知能指数 (PIQ) に, 前者の言語・社会項目 (L-S) を後者の言語性IQ (VIQ) に対応させた. 新K式2001による初回検査 (平均3歳2カ月) から最終検査 (平均5歳4カ月) までに, 12例の平均でC-Aは70.6から84.5に, L-Sは64.8から85.8に, 全領域は68.5から84.8にそれぞれ上昇した. 特に4~6歳頃にL-Sの急激な上昇が認められた.
  • 中村 康子, 松本 浩
    2012 年 44 巻 1 号 p. 66-68
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/25
    ジャーナル フリー
     耳痛で発症し, その後激しい嘔吐, 回転性めまいおよび耳介帯状疱疹を生じた6歳女児. 経過中に顔面神経麻痺を伴わなかったため不全型Ramsay-Hunt症候群と診断した. 水痘ワクチンの接種歴があったが, 水痘罹患歴はなかった. 急性期血清の水痘・帯状疱疹ウイルス (VZV) 抗体価はIgM陰性, IgG陽性であった. 耳介水疱液のVZV-DNAについてSNP解析を行い, 野外流行株由来と判明した. 水痘不顕性感染によるRamsay-Hunt症候群は稀ではあるが存在するため, 急激に発症した回転性めまいの原因として, Ramsay-Hunt症候群も鑑別診断の一つに考える必要があると思われた.
  • 里 龍晴, 国場 英雄, 松尾 光弘, 松坂 哲應, 森内 浩幸
    2012 年 44 巻 1 号 p. 69-72
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/25
    ジャーナル フリー
     薬剤過敏症症候群 (drug-induced hypersensitivity syndrome;DIHS) は特定の薬剤投与後に発症する重症薬疹の一つである. その発症にはヘルペス属ウイルスの再活性化が関与しているとされており, さらにはregulatory T細胞 (Treg) の機能障害がその発症に関与していると考えられている. 今回, 我々は新規抗てんかん薬lamotorigine開始後に発症したDIHS症例を経験した. 本症例でもヘルペス属ウイルスの連続した再活性化を認め, 臨床経過や検査結果より特有の免疫病態の関与が示唆された. 今後さらなる病態生理の解明のためにはウイルス学的検討に加え, さらなる免疫学的検討が必要である.
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