A型ボツリヌス毒素 (Botulinum toxin A, 以下BTX-A) 療法は痙性斜頸治療のひとつであるが, 呼吸障害を併発する患者への使用は慎重に投与する必要がある. 今回われわれは, 頸部の筋緊張亢進に伴う異常姿勢により閉塞性呼吸障害を来した5名においてBTX-A治療を行い, 治療前後でTsui scoreと呼吸状態の変化について後方視的に検討を行った. 対象患者は全例で治療前から臨床的嚥下障害を認めた. 頸部の筋緊張亢進とそれに伴う異常姿勢は5例全例で改善し, Tsui scoreと呼吸障害も改善した. 最も若い症例では, 2回のBTX-A治療のみで筋緊張のコントロールが良好な状態を維持している.
BTX-A治療は頸部緊張亢進を改善し, 上気道のねじれや過伸展を軽減し, 閉塞を防ぐことにより呼吸状態を改善することができると思われる. しかし, 一方で一過性の唾液増加と嚥下困難を呈した例が1例ずつあり, 前頸部筋へのBTX-Aの浸潤や急激な嚥下パターンの変化には注意が必要である.
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