脳と発達
Online ISSN : 1884-7668
Print ISSN : 0029-0831
ISSN-L : 0029-0831
47 巻, 6 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
巻頭言
総説
  • 山本 俊至
    2015 年 47 巻 6 号 p. 415-420
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/20
    ジャーナル フリー
     小児神経学の領域で対象となる疾患においては遺伝的な要因が発症に関わることが多いため, 確定診断や予後予測, 遺伝カウンセリングのためにしばしば遺伝学的検査が行われている. 研究として遺伝子解析を行う場合はいわゆるゲノム指針に則り, 施設内倫理委員会の承認を得た上で, 患者検体の匿名化などに留意して行う必要がある. 診療として行う場合にはこの限りではないが, 日本医学会によるガイドラインに則り, 生殖細胞系列の遺伝情報の特殊性に留意して適切に行う必要がある. 小児や意志表示が困難な患者を対象とする場合の同意の取り方や, 臨床遺伝専門医との連携, 出生前診断に関することなどにも精通しておきたい.
原著論文
  • 常石 秀市, 田口 和裕, 八木 隆三郎
    2015 年 47 巻 6 号 p. 421-426
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/20
    ジャーナル フリー
     【目的】経管栄養依存状態にある重症心身障害児・者 (重症児・者) のカルニチン欠乏に対するカルニチン補充・維持方法を確立する. 【対象と方法】重症児・者45例で遊離カルニチン値を測定し, 低下例に対するカルニチン製剤投与やカルニチン添加栄養剤使用による正常化とその維持効果を検討した. 【結果】カルニチン無添加栄養剤依存34例中31例 (91.2%) で遊離カルニチン値の低値を確認した. カルニチン添加栄養剤への変更, あるいは15~30mg/kg/日のカルニチン製剤投与にて正常化を得られ, カルニチン添加栄養剤の継続, あるいは5~10mg/kg/日のカルニチン製剤低用量補充にて維持可能であった. 【結論】重症児・者の食餌性カルニチン欠乏に対する補充・維持方法として, 低用量カルニチン製剤やカルニチン添加栄養剤が有効である.
  • 高見 勇一, 佐竹 恵理子, 伴 紘文
    2015 年 47 巻 6 号 p. 427-432
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/20
    ジャーナル フリー
     【目的】小児の初回無熱性発作の再発率を検討する. 【方法】2008年11月1日から2012年10月31日までに初回無熱性発作があった生後1カ月以上16歳未満の250例を無治療で前方視的に観察した. 再発率はKaplan-Meier法を用いて計算し, 再発リスク因子の単変量解析はCox proportional hazards modelを用いた. 【結果】135例 (54%) が再発した. 再発例のうち, 37例 (27%) が1カ月以内, 71例 (53%) が3カ月以内, 95例 (70%) が6カ月以内, 118例 (87%) は1年以内に再発していた. 初回発作後の再発率は, 0.5年, 1年, 2年, 5年でそれぞれ38%, 47%, 54%, 58%であった. 再発リスク因子では, 症候性, てんかん性脳波異常, 8歳以上, 部分発作の熱性けいれん既往で再発率が高かった. 【結論】原則的に初回発作で抗てんかん薬治療を開始すべきではないが, 再発率や再発リスクを考慮することは重要である.
  • 吉岡 三惠子
    2015 年 47 巻 6 号 p. 433-437
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/20
    ジャーナル フリー
     【目的】乳児健診で運動発達遅延を指摘されたフロッピーインファントには種々の疾患が含まれる. この中には筋緊張低下が改善し, 後方視的に先天性良性筋緊張低下と診断される一群があるが, 知的障害や他の脳障害が明らかになる例が多い. 今回, 2歳以上まで経過観察された症例の神経学的予後を検討した. 【方法】乳児健診後, 直接または他院を経て当センターをこの8年6カ月間に受診した症例の内, 全身の筋緊張低下を認め, 腱反射が正常または低下している例で, 在胎37週以上, 生下時体重2,500g以上, Apgar score (5分) 7点以上で出生し, 家族歴・大奇形・頭部画像所見・染色体検査 (Gバンド・fluorescence in situ hybridization) ・血清creatine kinase値・血中乳酸・ピルビン酸・血液アミノ酸分析に異常がない32例 (男15, 女17) を対象とした. 4カ月健診から16例 (以下, 4健群), 9カ月健診から16例 (9健群) が該当した. 【結果】頚定は4健群, 9健群で全例可能. 座位は4健群では全例で, 9健群では14例で可能だが, 2例は不可で, それぞれRett症候群, 脊髄性筋萎縮症と遺伝子診断された. 独歩は4健群の14例, 9健群の13例で可能となり, この27例中知的障害を18例 (67%) に, 自閉症スペクトラムを5例 (19%) に認めた. 独歩不可は4健群2例, 9健群3例で, 先天性ミオパチーや奇形症候群が疑われた. 【結論】筋緊張低下が改善し独歩可能となった例にも知的障害や自閉症スペクトラムを示す例が多く, 早期から知的や行動面に留意した療育が必要であった.
  • 渡辺 美緒, 椎原 隆
    2015 年 47 巻 6 号 p. 439-444
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/20
    ジャーナル フリー
     【目的】重症心身障害児 (者) および神経筋疾患患者の難治性誤嚥に対する誤嚥防止術について, その適応と効果, 合併症などについて評価検討する. 【方法】当院で誤嚥防止術を施行した20例 (喉頭気管分離術8例, 気管弁法12例) を対象に, その臨床像, 術後経過, 合併症などを後方視的に評価した. 【結果】対象は全例未頚定, 経管栄養であった. 手術時の年齢は3カ月~ 22歳0カ月 (中央値3歳6カ月) で3歳以下が60%を占めていた. 平均肺炎スコアは術前1.64から術後0.52と有意に低下した (p=0.007). 長期入院患者10例中8例が, 術後退院し在宅療養および施設入所となった. 術後合併症は気管切開孔および気管内肉芽を9例 (喉頭気管分離術5例, 気管弁法4例), 瘻孔形成を気管弁法の2例に認めた. 【結論】重症心身障害児 (者) および神経筋疾患患者において, 誤嚥防止術は患者の呼吸状態を改善し在宅移行を促進した. 難治性誤嚥の症例では, 患者の状態を考慮しながら誤嚥防止術の適応や時期, 術式について検討すべきである.
症例報告
  • 草野 佑介, 粟屋 智就, 齊藤 景子, 吉田 健司, 井手 見名子, 加藤 竹雄, 平家 俊男, 加藤 寿宏
    2015 年 47 巻 6 号 p. 445-448
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/20
    ジャーナル フリー
     Irlen症候群は視知覚の異常が原因とされる読字障害の特殊型である. 特定の遮光レンズ眼鏡やカラーフィルムにより症状が改善することが特徴とされているが, それらの効果には懐疑的な意見も多くIrlen症候群の存在自体にも議論がある. 今回, 我々は羞明などの視覚過敏症状を呈し, 遮光レンズ眼鏡の有無により読字能力が大幅に左右された読字障害の8歳女児を経験した. 遮光レンズ眼鏡がプラセボ効果である心因性視力障害の可能性は完全には否定できないものの, その症状や経過はIrlen症候群の特徴に非常によく合致していた. 本症例では, 遮光レンズ眼鏡非装用下では全く本が読めない状態から, 遮光レンズ眼鏡装用下では年齢相応の読字能力を示し, 何らかの光学的な情報処理の異常が読字に影響を与えていると推察された. Irlen症候群は現在では読字障害, 学習障害全般や一般人口を対照に曖昧にその概念を拡げているが, その科学的な意味付けには本症例のような特徴的な症例を集積する必要がある. 同時に, 遮光レンズ眼鏡という簡便な手法により容易に矯正されうる点で, 学習障害に携わる医療関係者や支援者が記憶しておくべき概念であると考えられる.
  • 平出 拓也, 松林 朋子, 石垣 英俊, 朝比奈 美輝, 坂口 公祥, 福田 冬季子
    2015 年 47 巻 6 号 p. 449-453
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/20
    ジャーナル フリー
     白血病化学療法中にposterior reversible encephalopathy syndrome (PRES) を発症し, 治療中断中に再燃した4歳女児例を報告する. B-precursor acute lymphoblastic leukemia (ALL) に対する寛解導入療法28日目に, けいれん発作と遷延する意識障害が出現した. 血圧は軽度上昇していた. 頭部MRIは, 発症時に右側頭葉と右後頭葉皮質に細胞性浮腫を示唆する異常信号と, 一部右後頭葉白質の血管性浮腫を認め, 3日後には右側頭葉から右頭頂葉および両側後頭葉の皮質下白質に血管性浮腫を認め, 8日後には異常信号は消失していた. けいれん発症から22日目に, 再びけいれんと意識障害が出現し, MRIでは右後頭葉皮質下白質に血管性浮腫を認め, magnetic resonance angiography (MRA) で中大脳動脈と後大脳動脈に広狭不整と描出不良があり, arterial spin-labeling (ASL) で両側後頭葉の血流が低下していた. 再燃時のMRAとASLの結果から再燃時のPRESの発症には, 血管攣縮による低還流が関与したと考えられた. ASLはMRIよりも鋭敏に病変の広がりを明らかにする可能性が示唆された. 白血病では血管攣縮によるPRES再燃に注意が必要である.
学会見聞記
訃報
地方会
委員会報告
feedback
Top