脳と発達
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47 巻, 1 号
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巻頭言
総説
  • —先天性GPI欠損症—
    村上 良子, 木下 タロウ
    2015 年 47 巻 1 号 p. 5-13
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/20
    ジャーナル フリー
     最近, 先天性GPI欠損症が知能障害や乳幼児発症の難治性てんかんの原因疾患として注目を集めている. GPI (glycosyl-phosphatidyl-inositol) は150種以上のタンパク質を細胞膜につなぎとめるアンカーの役割をする糖脂質でその基本骨格は真核生物で保存されている. GPIアンカー型タンパク質の生合成とそのリモデリングに関与する遺伝子は現在までに少なくとも26個あることがわかっている. 次世代シークエンサーを使ったエキソーム解析により, 最近このうち12個の遺伝子を責任遺伝子とするGPI欠損症が報告されている. 変異遺伝子のステップや活性の低下の程度により, 症状にはバリエーションがあるが共通症状として知的障害と運動発達障害があり多くはてんかん発作を伴っている. 本総説ではこの先天性GPI欠損症について, 最近の知見を概説する.
原著論文
  • 龍神 布紀子, 粟嶋 勇也, 西倉 紀子, 吉岡 誠一郎, 高野 知行, 竹内 義博
    2015 年 47 巻 1 号 p. 14-16
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/20
    ジャーナル フリー
     【目的】熱性けいれん重積状態後早期の脳波所見の特徴を検討した. 【方法】2009年11月から2012年3月の間に「熱性けいれん重積症」と診断した14例について診療録と脳波を後方視的に検討した. 【結果】止痙後から初回脳波記録までの時間は平均3.4時間であった. 覚醒もしくは覚醒させるべく強い刺激を与えた際の脳波では11例中9例に3Hz以下の徐波を認めたが, 第2病日以後早期に徐波は改善した. 徐波の局在は後頭部優位が4例, 前頭部優位が2例, 広汎性が3例であった. また, 覚醒時記録のみの3例を除き11例中10例で紡錘波もしくは瘤波が確認された. 【結論】熱性けいれん重積状態後は高率に徐波を認めるものの早期に改善し, 紡錘波/瘤波といった正常睡眠リズムが確認されることが多い.
  • 金村 英秋, 佐野 史和, 反頭 智子, 杉田 完爾, 相原 正男
    2015 年 47 巻 1 号 p. 18-22
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/20
    ジャーナル フリー
     【目的】小児てんかん児の発作間欠期頭痛に対するtopiramate (以下, TPM) の有効性について検討した. 【方法】対象は頭痛の訴えを表出できる患児85名 (5~15歳). Valproate (以下, VPA) 内服群42名, carbamazepine (以下, CBZ) 群34名, 併用群6名, 他剤群3名であった. 発作間欠期頭痛の有無, 頻度, 程度{1 (支障度 : 小) ~3 (同 : 大) }による治療開始後6カ月時点でのTPMの有用性を検討した. 頻度50%以上の減少または程度50%以上の軽減を反応群とした. TPMは0.5mg/kg/dayで開始, 症状に応じて3mg/kg/dayまで増量可とした. 【結果】反復する発作間欠期頭痛を認めた児は18名 (21%) であった. VPA群8例, CBZ群6例, 併用群3例, 他剤群1例であった. けいれん発作は頭痛 (-) 群で年平均0.9回に対し, 頭痛 (+) 群では2.6回と高頻度であった. TPM反応群は13名 (72%) (VPA群4例, CBZ群6例, 併用群2例) であり, 頭痛の完全消失を6例 (33%) に認めた. TPMの投与量 (mg/kg/day) は非反応群2.7に対し反応群は平均1.1と低用量であった. なお, 反応群におけるTPM投与後の発作頻度は年平均2.2回と有意な減少を認めなかった. 【結論】てんかん児の頭痛に対してTPMは積極的に試みるべき薬剤と考えられる. TPMは発作と関係なく頭痛への有効性が認められたと考えられる. さらにその有効性は必ずしも用量依存性ではなく, 一定の投与量 (2mg/kg/day) で無効な場合は他剤の使用を考慮すべきと考えられる.
  • 福水 道郎, 林 雅晴, 宮島 祐, 石﨑 朝世, 田中 肇, 神山 潤
    2015 年 47 巻 1 号 p. 23-27
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/20
    ジャーナル フリー
     【目的】Melatoninとramelteon小児使用実態把握のため, 全国調査を行った. 【方法】一次調査では, 日本小児神経学会評議員と日本小児精神神経学会会員にアンケートを送付し, 計220名の有効回答を得た. Melatonin使用に関しては254名処方例に対して二次調査を行った. 【結果】Melatoninは回答者の45%で使用経験があった. 約6割がサプリメント輸入で, 試薬が約3割であった. サプリメントでは口頭同意が約7割で, 施設の許可がない使用 (約4割) もみられた. 試薬では口頭同意が3割弱で, 施設の許可がない使用も認めた. 対象疾患は, 広汎性発達障害 (PDD), 脳性麻痺, 注意欠陥/多動性障害, Rett症候群, 視覚障害の順に多かった. 睡眠障害の内訳は, 概日リズム障害49%, 不眠42%であった. Ramelteonは回答者の52%で使用経験がみられ, 対象疾患, 睡眠障害ともにmelatoninと大きな差はなかった. Melatonin使用の二次調査では, 開始年齢が5カ月から37歳で, 0.2~8mgの用量で有効だった. 対象疾患の6割以上はPDDだった. 不眠症使用例の約1/5は概日リズム障害を合併し, 9割以上で入眠障害がみられた. 【結論】Ramelteon, melatoninは小児の睡眠障害に広く使われていた. Melatonin使用では同意や許可が不十分な場合もありmelatoninを薬品開発することが望まれる. また, 将来的なmelatoninの臨床試験では有効量の幅が広いことを考慮すべきである.
  • 日衛嶋 郁子, 熊田 知浩, 野崎 章仁, 林 安里, 宮嶋 智子, 藤井 達哉
    2015 年 47 巻 1 号 p. 28-31
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/20
    ジャーナル フリー
     【目的】混合性四肢麻痺を呈する患者の過度な筋緊張亢進に対して様々な経口筋弛緩剤の間欠投与が行われるが, 十分な効果が得られないことが多い. Tizanidine (テルネリン®) は速効性のある筋弛緩剤だが半減期が短く効果が持続しない欠点がある. 【方法】各種経口筋弛緩剤の間欠投与では緊張緩和が得られない混合性四肢麻痺を呈する5例に対して, 経腸成分栄養 (ED) チューブからミルクまたは経腸栄養剤に混ぜてtizanidineを長時間かけて持続的に注入し, 有効性を後方視的に検討した. 【結果】5例中4例は筋緊張亢進状態が改善し, 心拍数の低下, 睡眠時間の増加を認めた. 【結論】Tizanidineの持続的な注入は従来の間欠投与と比較して, より患者のquality of lifeの改善に寄与できる方法である.
  • 九鬼 一郎, 川脇 壽, 堀野 朝子, 井上 岳司, 温井 めぐみ, 岡崎 伸, 富和 清隆, 天羽 清子, 外川 正生, 塩見 正司
    2015 年 47 巻 1 号 p. 32-36
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/20
    ジャーナル フリー
     【目的】急性脳炎・脳症 (acute encephalopathy and encephalitis ; AE) に対し高用量erythropoietin治療 (high dose erythropoietin therapy ; hEPO) を行い, 安全性と有用性を評価した. 【方法】拡散強調画像で広汎な病変を伴うAE症例を対象にhEPOを実施し, ヘモグロビン値変化, 有害事象, 画像経過, 発達指数を前方視的に検討した. 【結果】4例全例でヘモグロビン値上昇なく因果関係が示唆される有害事象なし. 急性脳炎1例では病変が消失し発達指数は正常. けいれん重積型急性脳症2例では, 回復期に大脳萎縮が軽度で発達指数は1例で正常. 脳幹病変を伴う急性壊死性脳症1例は急性期死亡を免れた. 【結論】広汎な画像異常にも関わらず2例で後遺症なし. AEに対しhEPOは安全に行えたが, 有用性については更なる検討が必要である.
  • 栗原 まな, 吉橋 学, 藤田 弘之, 飯野 千恵子, 小萩沢 利孝
    2015 年 47 巻 1 号 p. 37-42
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/20
    ジャーナル フリー
     【目的】小児期発症の脳血管障害の長期予後について報告する. 【方法】入院リハビリテーションを行った16歳未満で発症した脳血管障害例71例 (脳出血43例, 脳梗塞28例) において, 急性期の状況と後遺症を調査し, 脳血管障害の長期予後を検討した. 【結果】発症年齢の平均は脳出血9歳8カ月, 脳梗塞6歳8カ月で脳梗塞の方が有意に低かった (p<0.01). 発症原因は脳出血では脳動静脈奇形破裂が多く, 脳梗塞では脳外傷に伴うもの, 脳血管異常, 心疾患などの周術期が1/3ずつであった. 好発部位は脳出血では前頭・後頭・頭頂葉・小脳, 脳梗塞では中大脳動脈領域・大脳基底核・前頭葉であり, 脳出血では脳梗塞に比べテント下が有意に多かった (p<0.05). 後遺症は身体障害64例 (主として片麻痺), 知的障害22例, 高次脳機能障害57例, てんかん11例で脳出血と脳梗塞で発症率に差はなかった. 高次脳機能障害の内訳では, 脳出血に比べ脳梗塞で注意障害と視覚認知障害が有意に多かった (p<0.05). 【結論】脳出血と脳梗塞では発症年齢, 原因, 後遺症の内容が異なっていた.
  • 北井 征宏, 大村 馨代, 平井 聡里, 荒井 洋
    2015 年 47 巻 1 号 p. 43-48
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/20
    ジャーナル フリー
     【目的】小児期発症低酸素性虚血性脳症 (HIE) の長期予後に影響する因子を明らかにし, 予後予測に基づく療育計画を提言する. 【方法】生後1カ月以降発症のHIE 42例 (男28例, 女14例, 発症年齢2カ月~13歳10カ月, 経過観察期間1年~14年) を, 粗大運動予後から軽度群 (独歩可), 中等度群 (歩行器歩行可), 重度群 (自力移動不可) に分け, 頭部MRI所見, 発症年齢, 臨床経過, 合併症を後方視的に比較検討した. 【結果】軽度群10例, 中等度群10例のMRI所見は全例限局性損傷, 重度群22例中19例は広範性損傷, 3例は乳児期発症の限局性損傷であった. 中等度群で新生児HIE類似の基底核視床+中心溝周囲病変を示した3例は生後5カ月未満発症であった. 軽度群10例中7例は5カ月以内に独歩を再獲得したが, 9例で中等度以上の知的障害, 3例で重度視覚障害を認めた. 重度群の過半数に外科的合併症 (股関節脱臼, 側彎, 気管切開, 胃瘻) を認め, 紹介までに半年以上を要した6例中5例は, 初診時すでに合併症が進行していた. 【考察】限局性脳損傷例は移動機能獲得を目指したリハビリテーションとともに, 早期に独歩を獲得できても知的障害や視覚障害に対する療育の重要性が高い. 広範性脳損傷例は, 機能獲得は困難だが, 合併症予防のため早期からのリハビリテーションが重要である. MRI所見, 発症年齢, 臨床経過から予後を予測し, 適切な療育計画を立てる必要がある.
症例報告
短報
  • 岩崎 信明, 中山 純子, 稲田 恵美, 絹笠 英世, 中山 智博, 伊藤 達夫
    2015 年 47 巻 1 号 p. 53-54
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/20
    ジャーナル フリー
     通気型の透明プラスチックフードを用いて間接熱量計によって重症心身障害児 (以下重症児) の安静時エネルギー代謝量を測定した. 対象は経管栄養法が施行されている重度の痙性四肢麻痺の2名である.
     エネルギー代謝量はそれぞれ725kcal/日, 531kcal/日で, 測定中に覚醒しているにも係らず安静を保つことができた.
     この値から1日の推定エネルギー必要量の算出を試み, 摂取エネルギー量や身体計測値と比較した. 本法はエネルギー必要量を推定する際の指標になる可能性があると考えられた.
     また, 重症児では従来のマスクを用いる方法では, 装着が煩雑で, 違和感が強いため測定が困難な場合が多い. 本法は違和感が少なく, 手技も簡便で短時間に正確なエネルギー代謝量の測定が可能であるため, 重症児に適した方法であると考えられた.
  • 新井 幸佳, 星野 恭子
    2015 年 47 巻 1 号 p. 55-56
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/20
    ジャーナル フリー
     症例は7歳女児, 自閉性障害と診断, Wechsler intelligence scale for children-IIIの結果, full scale intelligence quotient 57・verbal intelligence quotient 58・performance intelligence quotient 64, 特別支援学級に所属. 初診時こだわりが強く会話はほとんどできなかった. 受診1カ月後から前頭葉機能改善を目的に少量L-ドパ療法開始, 2カ月後から心理士がsocial skill training (SST) 開始.
     初回は同じ質問が多く会話が困難, 視線が合わず無表情であったが, 2回目以降目線を合わせた会話ができ, 4回目頃からやり取りが可能となる. 課題に集中でき物事への意欲も向上. 現在は語彙が増え, 喜怒哀楽を表現できる等コミュニケーションの幅は広がっている. 1年半後の知能検査は改善し, 2年後の神経学的診察所見の改善を認めた. また, 保護者の児への理解も深まった.
     本児の変化は, 少量L-ドパ療法とSSTの併用により前頭葉症状を含めた広範囲の高次脳機能が改善したことによると考えられ, 自閉性障害の社会性の改善に有用な治療であると考えられた.
国際学会印象記
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