脳と発達
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48 巻, 2 号
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巻頭言
総説
  • —病態と診断・治療のポイント—
    大野 耕策
    2016 年 48 巻 2 号 p. 81-88
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/26
    ジャーナル フリー
     Niemann-Pick病C型 (NPC) は, ライソゾーム脂質輸送蛋白質をコーディングしているヒト染色体18番のNPC1 (患者の95%) またはNPC2遺伝子の変異に伴う常染色体劣性遺伝の神経変性疾患である. この輸送蛋白質の機能不全により, 全身のライソゾーム内に遊離コレステロールが蓄積し, 特に脳神経細胞においてはスフィンゴ脂質が蓄積する.
     本邦では, 2015年12月時点で, 34例のNPC患者の生存が確認されているが, 西欧での発症頻度を勘案すると, その約5倍の数の潜在患者がいるものと推計される. NPCは診断法が確立しており, 本疾患に対する治療薬も承認されている. 発症早期から薬物治療を開始することで, 患者の神経症状の進行を遅らせることができるので, 日常診療において少しでもNPCを疑う症例に遭遇した場合は, 速やかに専門施設に紹介することが重要である.
会長講演
  • —つながりの中で, 子どもを育む—
    永井 利三郎
    2016 年 48 巻 2 号 p. 89-94
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/26
    ジャーナル フリー
     障害者の権利に関する条約の批准を受けて, 我が国の障害児支援は重要な局面に達している. 発達障害児だけではなく, 肢体不自由児など, 様々な課題のある子ども達全てへの支援において, 『「合理的配慮」とは何か』が問われている. 「合理的配慮」は, 教育, 福祉, 医療などの様々な分野での取り組みが求められており, 特に, その専門家である小児神経科医には, その取り組みにおいて, 中心的な役割を果たすことが求められている.
     発達障害児への支援は, 早期に開始するほどその子の成長に良い影響が得られることがさまざまな研究で示されており, その早期診断・早期支援は, 合理的配慮の中での大きな課題である.
     てんかんについては, 様々な誤解や偏見が, 以前から認められており, 学校教員や福祉職, 看護師など, 子どもの重要な支援者に対して, 正確な情報提供が求められている.
共同研究支援委員会主催セミナー
産科医療補償制度小委員会主催セミナー
社会活動・広報委員会主催セミナー
医療安全委員会主催セミナー
東日本大震災支援小委員会主催セミナー
薬事委員会主催セミナー
原著論文
  • 木村 育美, 西田 裕哉, 山口 直人, 長瀬 美香, 大日向 純子, 石川 直子, 北 道子, 中谷 勝利, 米山 明, 北住 映二
    2016 年 48 巻 2 号 p. 117-121
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/26
    ジャーナル フリー
     【目的】知的障害を伴い自傷行動を示す当施設事例の基礎要因と治療に関する評価を行い, 対処法の検討を試みた. 【方法】当センター利用中の, 知的障害を伴い自傷行動を示す事例92名 (男性67名女性25名, 年齢3歳6カ月~66歳10カ月, 平均22歳2カ月±12歳10カ月) を対象に主治医への後方視的質問紙形式にて, 身体状況, 併存症状, 自傷生起誘因, 試みた治療と効果などに関する調査を行った. 【結果】精神行動面の合併症状で高頻度に挙げられたのは易興奮性など主に情動調節の不安定を示唆する症候であった. 生起誘因では体調17件・騒音気温などの物理環境33件の回答があった. 81名が自傷に関する薬物療法を試みられ, risperidoneの処方が75名 (有効38名 (50.6%)) と最多数であったが, 自傷の程度が強い例ではphenothiazine系抗精神病薬の使用が比較的有効な傾向がみられた. 選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI) は20名処方中有効5名 (25%) で興奮などの副作用も認め11名 (55%) は中止されていた. 付加的使用でtopiramateは13名処方中10名 (76.9%) で感情安定による効果を示した. 肘伸展保持装具の使用も有効な例があった. 【結論】知的障害児 (者) における自傷行動において薬物療法は一部有効であるもその効果は部分的であり, 生起状況を併せて考慮した対応が必要である.
  • 齋藤 和代, 渡邉 幸恵
    2016 年 48 巻 2 号 p. 122-128
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/26
    ジャーナル フリー
     【目的】Down症児は早期からの療育が開始されることが多く, 運動発達促進やシャフリングベビーの減少が知られている. また, Down症児と自閉症スペクトラム (autism spectrum disorder ; ASD) の合併に関する報告も注目されている. そこで, 今回, Down症児の早期療育における問題点を調査する目的で, シャフリングベビーを含む粗大運動発達と精神発達について調査した. 【方法】対象は, 外来診察を行ったDown症児のうち, 1歳以上の男児79例女児42名の計121例で, 診療録による後方視的調査を行った. 【結果】シャフリングベビーは14例 (11.6%) であった. 粗大運動発達では, シャフリングベビー群で, 頚定, 四つ這い, 独歩が遅い傾向にあった. 精神発達の調査では, シャフリングベビー群で, ASD傾向が認められることが多かった. 【結論】早期介入にも関わらずシャフリングベビー群に移行する症例では, ASD傾向の合併に注意を払い, その特性に合わせた療育的介入が望ましい.
症例報告
  • 山本 晃子, 井手 秀平, 岩崎 裕治, 加我 牧子, 有馬 正高
    2016 年 48 巻 2 号 p. 127-131
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/26
    ジャーナル フリー
     心肺停止後の低酸素性虚血性脳症により, 発作性の交感神経亢進症状が出現しparoxysmal sympathetic hyperactivity (PSH) と診断, 治療した4歳女児例を経験した.
     既存の文献においてPSHに有効とされる治療のうち, morphine, bromocriptine, propranolol, clonidineは発作頻度の減少に有効であったが, gabapentin, baclofen, dantrolene, ベンゾジアゼピン系薬剤は無効であった. 500病日以上経過した後もPSH症状は完全には抑制されていない. 発作間欠期の血漿中・尿中カテコールアミン代謝産物濃度は当初高値であったが治療経過に伴い徐々に低下した. 一方, 発作直後の検体では治療後も高値が持続した. 小児のPSHは報告例が少なく, また遷延する症例において, 治療によるカテコールアミン濃度の推移を確認できた点で貴重な症例と考えた. PSHの病態はいまだ明確ではないが, 本症例の薬剤感受性などについてBaguleyらの病態モデルであるexcitatory : inhibitory ratio (EIR) モデルに基づき考察を加えた. 症例の蓄積によりPSHの病態解明や治療戦略に関する今後の研究が必要である.
  • 元木 崇裕, 佐々木 征行, 石井 敦士, 廣瀬 伸一
    2016 年 48 巻 2 号 p. 133-136
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/26
    ジャーナル フリー
     症例は3カ月の女児. 生後数日より発作性の異常眼球運動と姿勢の異常を不定期に認めていた. 左右の眼球が発作性に別々に外転位や眼振を繰り返していた. また片側性のジストニア姿位も認めていた. この特徴的な左右非対称性異常眼球運動およびジストニア姿位より小児交互性片麻痺 (alternating hemiplegia of childhood ; 以下AHC) を疑った. ATP1A3遺伝子解析を行いAsp801Asn変異が確認された. AHCは左右不定の片麻痺発作を繰り返す非常にまれな疾患である. 多くは生後6カ月以内に発症するが, 初発症状として見られるのは片麻痺発作ではなく異常眼球運動や全般性強直けいれんであることが多い. AHCの異常眼球運動の特徴として左右非対称性の眼転位や眼振があげられる. AHCは各種検査で特徴的な所見を示さず, 片麻痺発作発症前は確定診断が困難である. 近年はflunarizineの運動発達退行を防ぐ可能性も示唆されており, 早期診断がより重要となる. 左右非対称性の異常眼球運動が新生児期や乳児期早期に認められた場合はAHCを積極的に疑い, 遺伝子解析を考慮すべきである.
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