脳と発達
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48 巻, 5 号
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巻頭言
総説
  • 平木 洋子, 高成 広起
    2016 年 48 巻 5 号 p. 325-331
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/09
    ジャーナル フリー

     ATP感受性K+チャネル (KATPチャネル) は, 種々の電気的興奮細胞において代謝に同期するバイオセンサーとして細胞の生理機能を制御している. KATPチャネルは2種類の蛋白質Kir6.xおよびABCC (SURx) によって構成され, それぞれKCNJ遺伝子およびABCC遺伝子によってコードされる. これらのKATPチャネルを構成する遺伝子の変異は, 糖尿病, 高インスリン血症の発症から, 不整脈, 心血管系疾患に至るまで, 様々な疾患に関与する. 一方, Cantú症候群は, 先天性多毛症, 特異顔貌, 子宮内過成長, 心血管系および骨異常を特徴とする多臓器疾患である. 近年, ABCC9 (SUR2) あるいはKCNJ8 (Kir6.1) の機能獲得性変異がCantú症候群の原因であることが報告された. KCNJ11 (Kir6.2) あるいはABCC8 (SUR1) の機能獲得性変異により生じる新生児糖尿病に対しチャネル阻害剤により効果的な治療が行われており, 今後, Cantú症候群においても, KATPチャネルの機能獲得性遺伝子異常によるチャネル病としてとらえた研究が加速すると思われる. 本総説では, KATPチャネル病に新たに位置づけられたCantú症候群につき概説する.

原著論文
  • 髙山 留美子, 福村 忍, 皆川 公夫, 渡邊 年秀
    2016 年 48 巻 5 号 p. 332-336
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/09
    ジャーナル フリー

     【目的】Lennox-Gastaut症候群 (LGS) に対するrufinamide (RFN) の短期有効性と安全性を検討した. 【方法】平成25年7月~平成26年1月に当院と緑ヶ丘療育園通院中のLGS症例において, RFN開始3カ月時点の有効性と安全性を診療録より後方視的に検討した. 有効性は抑制 (発作消失), 有効 (50%以上の発作減少), 不変 (50%未満の発作減少または増加), 悪化 (50%以上の発作増加), responder rate (RR) は50%以上発作減少に達した症例の頻度とした. 【結果】LGS 13例 (男8例, 女5例) であった. 強直発作 (13例) は抑制1例, 有効3例, 不変8例, 悪化1例, RR 30.8%, 発作増加のため2例が中止した. 4例に一過性の抑制効果を認めた. 強直間代発作 (2例) は抑制1例, 不変1例, 脱力発作 (2例) は不変2例, 非定型欠神 (2例) は有効1例, 不変1例であった. 副作用は8例に認め, 眠気6例, 不眠1例, 食欲低下4例のうち2例に体重減少を伴った. 重篤な副作用, 副作用による中止例はなかった. 【結論】RFNはLGSの強直発作に短期有効性を認めたが, 一過性の抑制効果を示す症例も認めた. 重篤な副作用はなくLGS症例にRFNは使用する価値があると判断した.

  • 水口 浩一, 久保田 雅也
    2016 年 48 巻 5 号 p. 337-341
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/09
    ジャーナル フリー

     【目的】人工呼吸器に依存する重症心身障害児 (重症児) は, 少ない摂取エネルギーでも, ときに栄養過多による肥満が問題となる. 長期人工呼吸管理中の蘇生後脳症児5例に対し, 生体インピーダンス法 (BIA) で体組成を測定, 病態とエネルギー必要量を検討した. 【対象・方法】年齢1~9歳. 体組成は多周波数BIA (InBody S20®) を用い, 体脂肪率, 骨格筋量, 除脂肪体重 (FFM) を測定した. 各症例の経過を後方視的に検討した. 【結果】体脂肪率は40~60%と高く, 全例で肥満, 過栄養状態であった. また, 骨格筋量と, FFMが減少していた. 適切な摂取エネルギー量の検討後は210~350kcal/日と極めて少なく, FFMあたり25~42kcal/kg/日で維持できていた. 【考察】人工呼吸管理を要す蘇生後脳症児の体組成は, 体脂肪が増加し, FFMは減少する. FFMが基礎代謝量に強く相関するため, 本病態では体重を用いたエネルギー必要量の設定では過栄養となる. FFMを基準にしたエネルギー必要量の設定が望ましい. 【結語】BIAを用いた体組成の把握は, 重症児の栄養管理の一助となる.

症例報告
  • 山田 博之, 西田 吉伸, 松本 貴子, 毎原 敏郎, 西尾 久英
    2016 年 48 巻 5 号 p. 343-346
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/09
    ジャーナル フリー

     脊髄性筋萎縮症 (spinal muscular atrophy ; SMA) は, 脊髄前角細胞の変性, 脱落に伴う全身の筋力低下を生じる常染色体劣性神経筋疾患である. 責任遺伝子はSMN1遺伝子であり, SMA 1型の95%はSMN1遺伝子欠失のホモ接合体である. 今回我々は, 片側のSMN1遺伝子が欠失し, もう一方のSMN1遺伝子内に変異を認めるSMA症例を経験した. 本症例は日本人男児で, 新生児期から全身の筋力低下と呼吸障害を認め, 生後20日で非侵襲的陽圧換気を受けることになった. 患者の呼吸障害は急速に進行し, 生後3カ月で気管挿管下陽圧換気に移行し, 生後6カ月で気管切開下陽圧換気に至った. MLPA法を用いてSMN1遺伝子欠失を確認したところ, SMN1遺伝子は1コピー存在することを確認した. その後SMN1遺伝子の各塩基配列を検索したところ, エクソン6にc.819_820insTの微小変異を認め, SMN1遺伝子欠失と変異型SMN1遺伝子の複合ヘテロ接合体であることが明らかとなった. 臨床症状と遺伝子検査結果を踏まえ, 患者はSMA 1型と診断された. この変異はSMN蛋白のC末端の構造変化や機能異常をもたらすことが推測される. 本症例では, SMN1遺伝子内変異がSMAの原因となり, 重症度を規定している因子でもあることを示唆している.

  • 本井 宏尚, 清水 博之, 藤原 祐, 渡辺 好宏, 加藤 光広, 武下 草生子
    2016 年 48 巻 5 号 p. 347-350
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/09
    ジャーナル フリー

     脳梁欠損と外性器異常を伴うX連鎖性滑脳症は重度精神運動発達遅滞, 難治性てんかんに加えて難治性下痢を合併することが知られている. 現在のところ下痢の病態は明らかとなっておらず, 治療方法も確立していない. 我々は, 1歳4カ月の本症例を経験したが, 持続する難治性下痢に対して乳糖除去低アレルゲンミルク, ソマトスタチンアナログで対応したにもかかわらず改善が得られなかった. 経腸栄養が不可能であったため, トンネル型中心静脈カテーテルを留置し, 持続静脈栄養管理とした. しかし, 短期間でカテーテル関連血流感染症を繰り返したため, 感染症予防目的でエタノールロック療法を導入した. その結果, カテーテルを温存したまま治療継続が可能であった.

  • 松下 浩子, 岡野 創造, 石井 敦士, 廣瀬 伸一
    2016 年 48 巻 5 号 p. 351-354
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/09
    ジャーナル フリー

     良性家族性乳児てんかんや発作性運動誘発性ジスキネジアの責任遺伝子としてproline-rich transmembrane protein 2 (PRRT2) が同定されている. 我々は, 父親と同じPRRT2遺伝子変異をもつが, 良性家族性乳児てんかんとは異なる経過をたどった症例を経験した. 本症例は, 2カ月時に強直けいれんが群発し, 複数の抗けいれん剤にて発作は消失した. 9カ月時には焦点性発作が群発し, 少量のcarbamazepineで発作は消失した, さらに, 2歳時から体幹を動揺する発作が出現し, 知的障害を合併した. 父親は乳児期に無熱性けいれんの既往があるが正常に発達した. 本症例ではPRRT2遺伝子変異が特定の発達期間にのみ影響を与えていた可能性に加え, 他の遺伝的素因が非典型的発作症状に関与した可能性が考えられた.

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