脳と発達
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48 巻, 6 号
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巻頭言
原著論文
  • 野村 芳子, 余谷 暢之, 永井 章, 久保田 雅也
    2016 年 48 巻 6 号 p. 401-405
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/09
    ジャーナル フリー

     【目的】周期性嘔吐症 (cyclic vomiting syndrome, 以下CVS) 症例の背景と片頭痛に準じた予防的薬物療法の効果, および運動発達と睡眠の特徴を明らかにし, 病態背景について検討する. 【方法】先行文献にならい, 複数の神経筋疾患を背景に持つ患者と持たない患者をそれぞれCV (+) およびCV (−) と定義し, 計24名に対し片頭痛との関連性や予防治療の内容・効果などに基づき, CV (+)/CV (−) の異同について検討した. また, 両者のロコモーションと睡眠発達についても検討を行った. 【結果】片頭痛の家族歴については, CV (+)/CV (−) ともに見られ, 有意差はなかった. Cyproheptadineやvalproateなどによる予防治療の効果は, CV (+)/CV (−) とも高率に認められた. ロコモーションの発達については, CV (+) 全例に獲得遅延が見られ, 他の発達に遅れのないCV (−) でもハイハイ獲得の遅れが高率に見られた. 睡眠脳波上のatonia during non-rapid-eye-movement-sleep (non-REM atonia) 検出率は, CV (+)/CV (−) 両者とも高く認められた. 【結論】本研究ではCV (+)/CV (−) の病態に明確な相違は見られず, 使用薬物の薬理作用やロコモーション・睡眠脳波所見から, CVS全体に共通する病態背景としてセロトニン神経系の関与が考えられた.

  • 尾上 幸子, 幸田 徳二, 延時 達朗, 渡邊 誠
    2016 年 48 巻 6 号 p. 407-412
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/09
    ジャーナル フリー

     【目的】重症心身障害者の長期生存例の増加に伴う死亡例の特徴の変化を調べるために, 当センターの死亡例について検討した. 【方法】対象は, 1969年4月1日から2013年3月31日の間に死亡した314例, 期間最終日に生存していた388例である. 生存率はKaplan-Meier法で求めた. 死亡例を1994年以前 (Ⅰ群) と1995年以降 (Ⅱ群) の2群に分け, 経過が24時間以内 (A群) とそれを越えたB群とし, A群の特徴を検討した. Ⅱ群において, 死亡に影響する要因, 24時間以内の死亡に影響する因子を検討した. 【結果】50%生存期間は56歳であった. 経管栄養は経口に比べ2.4倍死亡率は高かった. 経管栄養例の1/3は60歳に, 寝たきりの1/3は70歳に達した. 死因のうち24時間以内死亡はⅠ群で32% (51/157例, 平均死亡年齢18歳) からⅡ群で20% (31/157例, 40歳) へ減少, 悪性腫瘍死はⅠ群で1%であったが, 年長者が増加したⅡ群では12%を占めた. ⅠA群の年齢分布は, 20歳代までに多かったが, ⅡA群では40から50歳代に多くなり, 軽症例にも認められた. また24時間以内死亡は, 気管切開, モニターを装着していなかった, の2項目との関連が有意であった. 【結論】重症例においても長期生存例がいること, 24時間以内死亡は年長者や軽症例にも起こり得ること, 頻度は減少してきていることが示された.

  • 鈴木 智, 植松 貢, 佐藤 寛記, 佐藤 優子, 植松 有里佳, 中山 東城, 菊池 敦生, 小林 朋子, 福與 なおみ, 呉 繁夫
    2016 年 48 巻 6 号 p. 413-419
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/09
    ジャーナル フリー

     【目的】結節性硬化症を基礎疾患とする児のスパズム及び強直発作に対してvigabatrin (VGB) の投与を行い, その効果と有効性に関与する因子及び副作用について明らかにすることを目的とした. 【方法】2010年4月から2015年5月の間に東北大学病院小児科に通院中の結節性硬化症小児17例に対しVGB投与を行った. VGBは30mg/kg/日を初期投与量とし, 6カ月間投与後に漸減中止した. 50%以上の発作頻度減少を有効として解析を行った. 【結果】17例の発作型はスパズム10例, 強直発作7例であった. VGBはスパズム群で10例中9例に有効である一方, 強直発作群の7例中5例で無効であった. 投与終了時効果に関わる因子として, 単変量解析で発作型がスパズムである, 最大投与量が少ない, 投与開始年齢が若い, 投与開始までの期間が短いことが挙げられ, 多変量解析では発作型がスパズムであることが挙げられた. 観察期間終了時のてんかん発作の消失もスパズム群で有意であった. 副作用は精神症状を7例, 網膜電図の電位低下を2例で認めたが薬物の減量や中止で改善した. 【結論】VGBは結節性硬化症を基礎疾患とするスパズムの第一選択となりうる薬剤である. 投与期間と投与量を最小限に抑えた我々のプロトコールは, 有効性と副作用軽減の観点からも有用と思われる.

  • 日衛嶋 郁子, 熊田 知浩, 宮嶋 智子, 柴田 実, 横山 淳史, 野崎 章仁, 林 安里, 森 未央子, 舞鶴 賀奈子, 藤井 達哉
    2016 年 48 巻 6 号 p. 420-424
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/09
    ジャーナル フリー

     【目的】当院では, 重症心身障害児 (者) の急性呼吸不全に対して非侵襲的陽圧換気療法 (noninvasive positive pressure ventilation, 以下NPPV) を積極的に導入している. 急性呼吸不全を合併し, NPPVでは気管内挿管を回避が不可能であった症例の特徴およびその原因を解析し, 急性呼吸不全に対するより適切なNPPV管理の検討を目的とした. 【方法】対象は2010年12月から2012年11月までの2年間に急性呼吸不全でNPPV管理を必要とした重症心身障害児 (20歳未満) 21名である. 経過中にNPPVにより気管内挿管を回避できた例, 気管内挿管を要した例の割合, 背景について調べ, 気管内挿管を要した例の原因について考察した. 【結果】NPPV管理は21名のべ51回で, その原因は肺炎30回, 気管支炎21回であった. そのうち43回で気管内挿管が回避できた. 気管内挿管を要した急性呼吸器感染症は肺炎8/30回, 気管支炎0/21回と全例肺炎症例であった. 気管内挿管を要した要因は気道分泌物の増加に伴う上気道閉塞が4回, 無気肺の増悪が3回, 両者の合併が1回. 全例, 気管内挿管前または後より機械的咳介助装置による積極的な排痰介助が必要であり, 気管内挿管を回避できた例と比較し有意に高かった (p=0.006). その他, 気管内挿管に至りやすい患者要因として平常時の吸引回数が気管内挿管に至った患者では, 気管内挿管を回避できた例と比較し有意に多かった (p=0.019). 【結論】急性呼吸不全にNPPVを施行し, 84%のケースで気管内挿管を回避できた. 気管内挿管を要した例は全例上気道または下気道の分泌物増加に伴う呼吸症状の悪化が原因であり, 呼吸理学療法や体位ドレナージを併用しても気道クリアランスが十分できない症例であった. 重症心身障害児は嚥下障害・誤嚥による気道分泌物の増加があるが, 胸郭変形, 拘縮, 舌根沈下などにより排痰困難であり, NPPV施行中に最も注意を要する項目と考える.

  • 成田 有里, 浜野 晋一郎, 黒田 舞, 菊池 健二郎
    2016 年 48 巻 6 号 p. 425-429
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/09
    ジャーナル フリー

     【目的】小児の心因性非てんかん発作 (psychogenic non-epileptic seizure ; PNES) の実態はよくわかっていない. 今回, 当センター神経科から心理外来へ依頼のあった症例について検討した. 【方法】対象は男児2例, 女児13例, 日本てんかん学会治療ガイドラインの分類に従い, ①てんかん発作が併存 (7例), ②知的障害を伴わず, てんかん発作が併存しない (7例), ③知的障害が併存 (1例) の3群に分け, 身体症状やその症状の誘因や原因と考えられる背景, 対応方法, その後の経過について検討した. 【結果】①群でてんかんと心因性非てんかん発作の両方とも治療終了できたのは1例のみで, 5例は転院, ②群ではてんかんの治療は全例終了, PNESについては症状の改善はみられるが終了は1例のみ, ③群はてんかんもPNESも治療終了できた. 【結論】②群は小児神経科医から, てんかんではない可能性についての説明が重要で, ③群は心理相談によって本人の発達について親の理解を促すことが重要ではないかと考えられた. ①群ではより対応の難しさがあるため, 小児神経科, 児童精神科, 心理などが協力して対応すべきと考えられた.

症例報告
  • 野崎 章仁, 熊田 知浩, 柴田 実, 林 安里, 日衛嶋 郁子, 森 未央子, 井上 賢治, 佐々木 彩恵子, 藤井 達哉
    2016 年 48 巻 6 号 p. 430-433
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/09
    ジャーナル フリー

     Joubert症候群では新生児期の呼吸障害が特徴である. 年齢とともに改善するとされていたが, 幼児期以降も睡眠呼吸障害が伴いやすいと近年報告された. 症例は15歳男児. 新生児期より呼吸障害を, その後精神運動発達遅滞および筋緊張低下を認めた. 臨床経過と9歳時に頭部MRIのmolar tooth signよりJoubert症候群と診断. 15歳時に日中の眠気で受診. 問診と質問紙評価 (エプワース眠気尺度, 小児睡眠質問票およびピッツバーグ睡眠質問票) により日中の過度の眠気と睡眠呼吸障害ありと判断した. 終夜睡眠ポリグラフ検査を行い, 無呼吸低呼吸指数16で, 中枢性パターンより中枢性睡眠時無呼吸症候群と診断した. 夜間在宅酸素療法を導入し, 1カ月後には質問紙評価での日中の過度の眠気と睡眠呼吸障害は改善し, 12カ月後も改善を維持した. 本症例のように, 非特異的な訴え (日中の眠気) を契機に初めて睡眠呼吸障害が評価され, 治療介入により改善に至ることもある. Joubert症候群の診療においては, 幼児期以降でも睡眠呼吸障害の存在を常に念頭におくべきであると考えられた.

  • 曽根 翠, 吉野 綾子, 川原 ゆかり, 武田 佳子, 浜口 弘, 江添 隆範, 西條 晴美, 荒木 克仁, 倉田 清子
    2016 年 48 巻 6 号 p. 434-438
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/09
    ジャーナル フリー

     鼻腔栄養は簡便な経管栄養法として広く用いられている. 我々はビデオ内視鏡嚥下機能検査により鼻腔栄養チューブに起因すると考えられた喉頭蓋潰瘍を発見し, チューブ挿入方法の変更により改善することができた重症心身障害者3例を経験したので報告する. 症例の年齢は25歳, 39歳, 55歳で, すべて男性であった. 全例に高度の筋緊張亢進があり, 2例は高度側彎, 1例は胸椎前彎が見られた. 全例が人工呼吸器管理を受けていた. 高度側彎例は咽頭の変形も高度で, 鼻腔栄養チューブが喉頭蓋喉頭側面を斜走していた. 胸椎前彎例は栄養チューブが喉頭気管分離術を行った気管の盲端内でとぐろを巻いていた. 潰瘍は全例喉頭蓋喉頭側に形成されていた. 潰瘍形成の原因は, 高度側彎例では咽頭の変形, 胸椎前彎例では栄養チューブの気管侵入と考えられた. 栄養チューブの挿入方法を変更することにより, 全例で潰瘍は軽快した. 高度な脊柱側彎が見られる例, 高度の緊張が持続的に見られる例で鼻腔栄養チューブを使用する場合には, ビデオ内視鏡嚥下機能検査を実施して, 栄養チューブが喉頭蓋を傷つけないように挿入できる方法を確認しておくことが必要と考える.

  • —てんかん治療の選択について—
    米田 哲, 下野 昌幸, 芳野 三和, 高橋 保彦
    2016 年 48 巻 6 号 p. 439-442
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/09
    ジャーナル フリー

     結節性硬化症 (tuberous sclerosis complex, 以下TSC) は年齢依存性に全身に多様な病変を合併する. 今回我々は難治性てんかんと上衣下巨細胞星細胞腫 (subependymal giant cell astrocytoma, 以下SEGA) を合併した乳児のTSC症例に対しmammalian target of rapamycin (mTOR) 阻害剤であるeverolimusを使用した. 脳腫瘍の増大は抑えられ, 同時に難治性てんかんの臨床症状と脳波所見も著明に改善した. Development quotient (DQ) はスパズム発症時点117, everolimus開始時は64.3と一時退行し, その後81.5と改善した. SEGA合併のTSCのてんかん患者に対し, everolimusが患児の疾患予後を改善させる可能性がある.

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