脳と発達
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49 巻, 6 号
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巻頭言
総説
  • ―睡眠ポリグラフ検査と反復睡眠潜時検査―
    加藤 久美
    2017 年 49 巻 6 号 p. 391-395
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/12
    ジャーナル フリー

     睡眠関連疾患精査のゴールドスタンダードは睡眠ポリグラフ検査であり, 脳波, 眼電図およびオトガイ筋筋電図を基本とし睡眠の量や質, 睡眠中の生体現象を調べる検査である. 眠気を客観的に評価する方法は反復睡眠潜時検査であり, ナルコレプシーなどの中枢性過眠症の診断に有用である. しかし, 我が国ではこれらの検査を小児に実施できる施設は少ないのが現状であり, 検査の経験を持つ小児科医は少なく, 他科や他の医療機関に検査を依頼することも多い. しかし, 成人と小児では一部判定ルールが異なる点に留意が必要である. 本稿では米国睡眠医学会の最新のマニュアルに基づき, これらの検査について解説する.

原著論文
  • 池田 梓, 高嶋 裕美子, 露崎 悠, 市川 和志, 相田 典子, 後藤 知英
    2017 年 49 巻 6 号 p. 396-400
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/12
    ジャーナル フリー

     【目的】小児の脳静脈洞血栓症 (cerebral sinovenous thrombosis, 以下CSVT) について臨床症状, 画像, 予後を検討する. 【方法】診療録をもとに後方視的に検討した. 【結果】CSVT患者は5例 (男児2例, 女児3例). 日齢4~8歳 (中央値3歳). うち1例は新生児であり, 4例は幼小児であった. 幼小児の4例では基礎疾患や血栓傾向を認めたが, 新生児では認めなかった. 全例で急性期に抗凝固療法を行っており, 神経学的予後は良好であった. D-ダイマーは全例で上昇していたが予後との相関はみられなかった. Susceptibility-weighted imaging (SWI) を評価した3例ではいずれも静脈うっ滞, 出血, 血栓像が明瞭に描出された. 【結論】小児CSVTでは年齢により臨床症状が異なるがいずれも非特異的であり, 正確な画像診断と急性期の抗凝固療法が重要である. SWIは静脈うっ滞, 出血や血栓の描出に優れるためCSVTを疑う場合にはSWIが有用である.

症例報告
  • 小出 憲呼, 本田 涼子, 日宇 健, 安 忠輝, 田中 茂樹, 北島 翼, 堤 圭介
    2017 年 49 巻 6 号 p. 401-404
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/12
    ジャーナル フリー

     椎骨動脈解離は小児脳梗塞の重要な原因の一つだが, 急性期の画像検査では診断がつかないことも多い. 今回我々は経時的なMR angiography (MRA) 所見の変化によって, 椎骨動脈解離と診断することができた多発性脳梗塞の小児2例を経験した. いずれの症例も非外傷性で, 後方循環系の動脈灌流域に複数の梗塞性病変を認めた. 初診時の画像検査では解離病変は明らかでなかったが, 症例1は発症から2カ月後, 症例2は発症から1年8カ月後のMRA検査で頭蓋外の椎骨動脈のV3領域に解離性変化を認めた. 症例1は抗血小板療法単独で急性期治療を開始したが, 再発を繰り返したため抗凝固療法を併用し, 以後再発はない. 症例2は抗凝固療法で治療開始し, 後に抗血小板療法へ切り替え, 治療終了後も再発なく経過している. 小児の多発性脳梗塞では, 原因として頭蓋外の椎骨動脈解離の可能性を考慮し, 頚部まで含めたMRA所見の経時的な変化について評価する必要があると思われた. また自験例の経過から急性期の再発予防として抗凝固療法の有効性が示唆され, さらなる症例の蓄積が必要であると考えた.

  • 佐々木 彩恵子, 野崎 章仁, 才津 浩智, 宮武 聡子, 松本 直通, 熊田 知浩, 柴田 実, 藤井 達哉
    2017 年 49 巻 6 号 p. 405-407
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/12
    ジャーナル フリー

    COL4A1はⅣ型コラーゲンのα1鎖をコードする遺伝子で, 孔脳症や裂脳症の原因となる. 我々は, 孔脳症・裂脳症を認めず, 多彩な頭部画像所見よりCOL4A1関連疾患の診断に至った1例を経験した. 症例は21歳女性. 正期産で仮死なく帝王切開で出生した. その後精神運動発達遅滞と小頭症を認めた. 7カ月時にWest症候群を発症した. 頭部画像検査で脳室周囲の白質病変, 側脳室拡大, 小脳萎縮と脳内石灰化を認めた. 原因確定はできず, 痙直型四肢麻痺として経過観察となった. 19歳時にラクナ脳梗塞を発症し, 上記画像所見に加えて微小脳出血および脳動脈瘤も判明した. 虚血性病変と出血性病変を伴っていたことより, COL4A1関連疾患の可能性を考慮した. 遺伝カウンセリングを行い, COL4A1遺伝子解析を行った. 新規なc.2504G>A (p.Gly835Glu) 変異をde novoに認め, COL4A1関連疾患と確定診断した. 原因不明の麻痺例の中にCOL4A1関連疾患が存在する可能性がある. また常染色体優性遺伝疾患であるため, 診断の際には遺伝カウンセリングが重要である.

  • 原口 康平, 里 龍晴, 森山 薫, 井上 大嗣, 渡邊 嘉章, 藤井 明子, 松尾 光弘, 伊達木 澄人, 森内 浩幸
    2017 年 49 巻 6 号 p. 408-412
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/12
    ジャーナル フリー

     2014年秋に北米においてエンテロウイルスD68 (EV-D68) 関連呼吸器疾患のアウトブレイクが発生した際に, 急性弛緩性麻痺の症例が多数報告され, 急性弛緩性脊髄炎という概念が示された. 同様に, 2015年秋に本邦においてEV-D68のアウトブレイクが発生した際にも急性弛緩性麻痺の症例が多数みられ, 長崎県においても急性弛緩性脊髄炎の小児3例を経験した. 症例は, 12歳女児, 4歳男児, 2歳女児である. いずれの症例も先行感染から4~9日後に急性弛緩性麻痺を発症し, 脊髄MRIのT2強調画像では全例で脊髄前角付近を中心とした高信号域病変を, 髄液検査では全例で細胞数増多と2例で蛋白の上昇を, 末梢神経伝導検査では全例にF波の出現率低下を認め, 弛緩性脊髄炎と診断された. 免疫グロブリン静注, メチルプレドニゾロンパルス療法, 血漿交換を行ったが, いずれも効果を示さず, 全例で罹患肢の麻痺を残した. 麻痺の程度はリハビリテーションを継続することで全例において軽快している. リハビリテーションの継続は急性期の効果的な治療法が確立していない本疾患において重要と考えられた. 当院で経験した3例からはEV-D68を検出できなかったが, EV-D68は感染早期の段階でしか検出されないため, 検体採取が遅すぎた可能性や検体保存の方法が不適切であった可能性がある. 急性弛緩性脊髄炎の病態解明のために更なる研究が必要である.

  • 大谷 ゆい, 小国 弘量, 西川 愛子, 伊藤 進, 衞藤 薫, 永田 智
    2017 年 49 巻 6 号 p. 413-417
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/12
    ジャーナル フリー

     徐波睡眠持続性棘徐波 (continuous spikes and waves during slow wave sleep ; CSWS) を呈し薬剤治療抵抗性の非定型良性部分てんかん (atypical benign partial epilepsy of childhood ; ABPE) 患者に古典的ケトン食治療が著効したので報告した. 患者は6歳5カ月男児で1歳5カ月時に非定型欠神発作で発症し, 2歳時より脱力発作が出現した. 発作は各種抗てんかん薬治療に抵抗性で難治に経過し, 徐々に言語障害や失調症状が出現, 悪化した. 脳波所見で当初は左中心側頭領域の高振幅鋭徐波複合が認められたが, 経過とともに睡眠時に広汎化し, ほぼ連続して出現するようになった. 5歳8カ月時に当科紹介され, 長時間ビデオ脳波同時記録検査でCSWSを呈するABPEと診断した. 古典的3 : 1ケトン食を導入し, 発作・脳波ともに著明改善した. 1年以上経過した現在も発作・脳波ともに改善状態を維持し, 言語障害や失調症状, 粗大・微細運動も改善している. 本例のような薬剤治療抗性のCSWSを呈するABPEにおいてケトン食療法は試みる価値がある.

  • 宮本 洋輔, 短田 浩一, 林 耕平, 西村 陽, 木﨑 善郎, 越野 幸子, 木村 聡志
    2017 年 49 巻 6 号 p. 419-422
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/12
    ジャーナル フリー

     脈絡叢囊胞は比較的頻度の高い神経上皮性囊胞であり, 小さく無症候性で偶発的に発見されることが多い. 薄く造影効果のない囊胞壁を有し, また内部に脳脊髄液に似た成分を含むため, 通常のCTやMRIで検出するのは困難な場合もあるとされる. 今回脈絡叢囊胞により急性水頭症をきたしたが, 定常状態コヒーレントシークエンスがその診断に有用であった2歳男児例を報告する. 児はけいれんで発症し, 頭部CTで急性水頭症と診断, 緊急脳室ドレナージ術を施行した. 術直後の通常シークエンスのMRIでは閉塞性水頭症の原因となるような明らかな病変は認めなかった. 術後も頭蓋内圧亢進状態が持続するため, 定常状態コヒーレントシークエンスを撮像したところ, 第三脳室内に単房性囊胞性病変を認め, 中脳水道を閉塞していることが明らかとなった. その後, 内視鏡的囊胞切除術および第三脳室開窓術を施行, 組織病理より脈絡叢囊胞と診断した. 定常状態コヒーレントシークエンスは血管拍動や脳脊髄液の流れのアーチファクトが少なく, また空間分解能が高いため, 髄液循環路の異常や, 脳室内の小病変の描出に有用であるとされる. 閉塞性水頭症が疑われるが通常の頭部CT, MRIで原因病変が描出されない場合, 定常状態コヒーレントシークエンスは診断の一助になると考えられた.

  • 松田 夢子, 下野 昌幸, 福田 智文, 石井 雅宏, 千手 絢子, 五十嵐 亮太, 塩田 直樹, 楠原 浩一
    2017 年 49 巻 6 号 p. 423-426
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/12
    ジャーナル フリー

     Cockayne症候群 (CS) は, 低身長, 精神発達遅滞, 小頭症, 網膜色素変性症, 早発老化徴候, 腎機能障害, 日光過敏症などの多様な症状を呈し, 非常に稀な疾患である. 各症状は年齢とともに緩やかに進行するため, 発症初期は診断に苦慮することが多い. 今回我々は, 遺伝子検査でERCC8 Exon 4の逆位と欠失, TACTTAAT塩基の挿入をhomoに認めCockayne症候群A (CSA) と診断した姉弟例を経験した. 我が国のCSAの遺伝子解析報告は1報しかなく, その5例中3例で今回と同様の変異であった. 同変異は日本人のCSAの創始者効果である可能性が報告されており, 我々の結果はそれを更に裏付けるものである.

短報
  • 野崎 章仁, 岡本 伸彦, 鈴木 敏史, 鶴崎 美徳, 三宅 紀子, 松本 直通, 熊田 知浩, 柴田 実, 藤井 達哉
    2017 年 49 巻 6 号 p. 427-428
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/12
    ジャーナル フリー

     Joubert syndrome (JS) は, 頭部画像所見にてmolar tooth sign (MTS) を特徴とする繊毛病の1疾患である. Centrosome and spindle pole associated protein 1 (CSPP1) 変異がJSの原因として近年報告された. CSPP1変異によるJSの本邦第1例目を経験したため報告する. 症例は4歳男児. 生下時より両側眼瞼下垂を認めたが, その他の外表奇形は認めなかった. 頭部CTでは両外直筋以外の外眼筋形成不全を認めた. 眼科評価では斜視, 外眼筋形成不全による眼球運動障害, 対光反射消失および左視神経乳頭萎縮を認めた. 網膜ジストロフィーはなかった. その後, 低緊張と重度精神運動発達遅滞を認めた. 頭部MRIではMTSを認め, JSと診断した. 腎および肝合併症もないことから古典的JSと判断した. 3歳時に全エクソームシーケンスを行い, CSPP1に複合ヘテロ変異 (NM_024790: c.457_458del/c.2448_2451del) を同定した. また4歳時に呼吸異常を認めた. CSPP1変異によるJSでは腎および肝疾患の罹患は少ないと報告されており, 疾患責任遺伝子の同定は児の予後や合併症管理において有用であると考えられた.

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