小児神経科医が関わるリハビリテーションが必要な疾患とその紹介元には次のようなものがある. 脳神経外科からは脳外傷, 脳血管障害, 脳腫瘍が, 一般小児科からは発達障害や脳性麻痺が, 新生児科からは脳性麻痺が, 小児救急科からは急性脳症, 低酸素性脳症, 脳外傷が, 小児精神科からは発達障害が, 小児悪性腫瘍科からは脳腫瘍が紹介されてくる. またリハビリテーションを進めていく際に「小児科以外の他科」として連携するのは脳神経外科, 泌尿器科, 眼科, 耳鼻科, リハビリテーション科, 放射線科などであり, 多職種の連携としては医師, 看護師, 理学療法士, 作業療法士, 言語聴覚士, 臨床心理士, ソーシャルワーカーなどがある. さらにリハビリテーションの領域では医学, 薬学, 工学, 数学, 教育などの多分野が関わっている. すなわちリハビリテーションというものは常にさまざまな連携をとりながら進められていくのである. 連携が特に有効な疾患の代表には, 脳性麻痺, 二分脊椎, 後天性脳損傷, 重症心身障害がある. これらにおけるリハビリテーションの実態を提示した. いずれの場合も, キーパーソンとして医師が全体をまとめていくことがポイントであり, 小児を対象とした場合には, 小児の成長・発達に詳しい小児科医が担当することが望ましい.
リハビリテーションにおいて「他科・多職種」との連携は重要である. しかしそれ以前に, 小児神経科医にリハビリテーションの基礎を知って欲しい. リハビリテーションの目的は, ①本人の機能改善, ②介護量の軽減, ③本人と家族のquarity of life (QOL) の向上, ④費用対効果の向上である. 当院でリハビリテーションを行った小児はいずれも何らかの利益を得ており, 専門的なリハビリテーションを受けた例と受けなかった例の差は明らかである. 小児神経科医はリハビリテーションの基礎を知り, 必要に応じてリハビリテーション科医に紹介すべきであるが, 実際には小児を診るリハビリテーション科医は少ない. 小児神経科医自らがリハビリテーションを担当して欲しい. 最近になり小児救急, 小児悪性腫瘍, 新生児, 重症心身障害, 小児在宅医療の分野のセミナーにリハビリテーションの項目がとり入れられるようになってきた. 今後リハビリテーションがさらに普及していくことを望む.
リハビリテーションを必要とする小児は今後ますます増加が予想されるが, 患児・患者のライフステージに合わせた全人的な「総合リハビリテーション」が行われることは, 小児専門リハビリテーション医や療法士の不足, 医療と教育間の連携不足, 学童期以降の療育施設不足などから現状では難しい. 厚生労働省が推進する地域包括ケアシステムを模した「小児版」地域包括ケアシステムを構築し, そのコーディネーターとしてリハビリテーションが役割を果たしてくれることが, 小児脳外科疾患がリハビリテーションに最も期待するところである.
小児後天性脳損傷は多彩な症状を呈するが, 長期的には高次脳機能障害が問題となることが多い. 高次脳機能障害においては問題が変化していくため, 時間軸に沿った診療が必要である. 高次脳機能障害の評価は机上の検査と生活場面の観察を総合して行う. 高次脳機能障害の診療は身体管理, 認知リハビリテーション, 環境調整等を含む総合リハビリテーションである. 運動療法も有効かもしれない. エビデンスに乏しい部分が多いが, 支援を必要としている患者, 家族に手を差し伸べ, その知見を蓄積していくことが大切である. 小児 (神経) 科医のより積極的な関わりを促したい.
小児期GM2ガングリオシドーシスには3~5カ月頃から精神運動発達の遅延, 退行が始まる乳児型の他に, 2~10歳に発症する若年型の病型がある. 今回経験した若年型症例では, 運動退行が前面に立ち知的退行は遅れて出現し, 知的機能は後期まで残存する点が本病型の既報に合致していた. 一方, 音過敏を伴う自閉症状の一過性の出現や水痘感染を契機とした退行の急激な増悪が本例では特徴的だった. 臨床経過として運動機能面では3歳頃から歩行時の転倒が出現し, 9歳時には立位困難となった. 言語面では6歳頃から語彙減少がみられ, 10歳時には喃語も消失した. また6歳頃から強直発作・ミオクロニー発作からなる難治性てんかんを呈している. なお, 若年型では頭部MRIで小脳萎縮が先行し大脳萎縮は後から出現することが多いが, 本症例では5歳頃から大脳萎縮が始まり, 基底核・小脳の順に萎縮が進んだ. 本例で認めた運動退行が知的退行に先行する点, 知的機能は後期まで残存する点は若年型GM2ガングリオシドーシスを積極的に疑う特徴として周知されるべきであり, 一方で自閉症状やミオクローヌス, 脳萎縮の経過は若年型の臨床像のバリエーションとして周知されるべきである.
症例は6歳女児. 3週間続く嘔吐と活気低下, 1週間前からの複視があり, 両側外転障害と視神経乳頭浮腫を認めた. 頭部MRIで占拠性病変はなく腰椎穿刺を行い, 初圧1,000mmH2Oと著明な髄液圧の上昇があり, MRI所見と併せて特発性頭蓋内圧亢進症と診断した. 腰椎穿刺後速やかに自覚症状と乳頭浮腫は改善した. Acetazolamide (AZM) 内服を開始したが2週間後に再燃した. 腰椎穿刺で一旦症状は改善するものの, 同様の経過で短期間に3度再燃し反復腰椎穿刺を要した. 4度目の腰椎穿刺後からtopiramate (TPM) 内服に変更したところ, その後一度も再燃することなく良好な経過をたどった. 特発性頭蓋内圧亢進症が慢性に経過した場合, 視神経萎縮により視力障害を残すことが報告されており, 早期治療介入が肝要である. 内科的治療が無効の場合, 脳脊髄液シャント術など外科手術を要することもある. 内科的治療の第一選択薬はAZMであるが, 本症例では同治療薬は無効で複数回再燃し, 第二選択薬群の一つであるTPMが著効した. 両薬剤とも炭酸脱水酵素阻害作用により脈絡叢での髄液産生を抑制し特発性頭蓋内圧亢進症に有効であると考えられているが, TPMがより炭酸脱水酵素選択性が高く, 親油性が高いため血液脳関門を通過しやすく有効性が高かったと考えた. 経過が長引く症例では, 外科治療を行う前にTPM内服も考慮するべきである.