近年の周産期医療の進歩は超早産児の死亡率を著しく低下させた. 脳室周囲白質軟化症や脳室周囲出血性梗塞・出血後水頭症といった粗大な脳病変も, 全体として減少傾向にある. しかし, 超早産児が抱える神経学的後障害は高率のまま存在する. 超早産児に認める知的障害や発達障害などの多彩な神経後障害の病態は, 脳室周囲白質軟化症などの脳病変のみでは説明できず, 正常な脳発達の変容に着目すべきである. 脳波・MRI研究の進歩は, 胎生期から新生児期にかけての脳の構造的・機能的発達過程を解明する有用な手段である. 胎生期に一過性に認めるサブプレートニューロンは, 活動依存的発達に重要な役割を担い, 発達期の体性感覚地図や網膜地図の形成, 視床皮質ネットワークの形成, 皮質内抑制系の成熟に必須である. 今後は, ヒトの知能・認知・言語の発達メカニズムの詳細を早産児期から明らかにすることが, 早産児に認める多彩な精神疾患や知的障害のメカニズムを解明する上でも重要である.
【目的】重症心身障害児 (者) における呼吸器感染症の予防・治療は, 生命予後を大きく左右する. 慢性的な誤嚥から肺膿瘍を含む重症呼吸器感染症に進展し, 多臓器病変の合併から重篤な経過をたどることもある. 肺膿瘍の早期診断・治療のため, 重症心身障害児 (者) における肺膿瘍の臨床像について検討したので報告する. 【方法】1993年4月から2014年8月の間に当院で肺膿瘍と診断し入院加療を行った, 大島分類が2以下の重症心身障害児 (者) 5例を対象に臨床的特徴について診療録より後方視的に検討した. 【結果】男性3例, 女性2例. 発症年齢は平均11歳 (4~34歳). 全例に側弯症と側弯凹側に一致する肺膿瘍, 誤嚥性肺炎, 無気肺の既往を認めた. 初発症状は5例中3例が発熱のみで, 全例に著明な白血球増多とCRP上昇を認めた. 全例が経過中に, 遷延する発熱と気道症状の悪化を呈し, 2例で胸部単純X線に腫瘤影を認めた. 胸腔穿刺を施行した4例中3例で, 嫌気性菌を含む口腔内常在菌の混合感染を確認した. 抗菌薬投与により軽快し, 外科治療を要した症例はなかった. 【考察】発熱のみであっても側弯を有する重症心身障害児 (者) は, 側弯凹側に肺膿瘍をきたす可能性があり, 遷延する発熱や炎症反応上昇, 胸部単純X線の腫瘤影は重症呼吸器感染症を疑う所見となる. 重症呼吸器感染症の予防には, 日常的な口腔ケアや体位ドレナージ, 適切な食事形態の評価が重要となる.
【目的】私たちは, 中枢神経感染症によらない熱性の小児難治性けいれん重積に対し, 早期にtargeted temperature management (TTM) とbarbiturate coma therapy (BCT) を行い転帰を改善できることを以前に報告したが, 同様の管理でも治療前になかった神経学的所見を残す場合がある. 本研究は, そのような症例の初療時の臨床的特徴を明らかにする目的に行った. 【方法】2010~2015年に加古川東市民病院に15分以上の発熱に伴うけいれん, 意識障害で来院した108例中, TTM・BCTを早期に導入した難治性けいれん重積5症例の初療時の臨床的特徴を治療後の神経学的所見の有無で比較した. 【結果】神経学的所見残存例2例は来院時けいれんは頓挫していたが意識障害が遷延し, diazepam投与後midazolam投与までに長時間要した. 2例とも意識障害, 瞳孔散大が継続し, non-convulsivestatus epilepticus (NCSE) の持続が疑われた. 1例は二相性脳症の診断基準を満たし退院後右片麻痺が残存, もう1例は退院後てんかんを発症した. 【結論】中枢神経感染症によらない熱性の難治性けいれん重積症例で, 初療時に瞳孔散大を伴い意識障害が遷延した例において神経学的所見が残存した. けいれん重積の予後は一般的に原疾患に依存するとされるが, NCSEの遷延, 追加治療の遅れが予後に関連した可能性もあると考えられた.
Joubert症候群は, 一次繊毛の機能障害により, 脳や腎臓などの多臓器の障害を呈し, NPHP1を含めた複数の責任遺伝子が同定されている. 弟には腎機能障害を伴うJoubert症候群を, 姉には腎機能障害を伴う自閉症スペクトラム障害を認め, 同胞間で臨床像が大きく異なった症例を経験した. 遺伝学的検査では, 姉弟で新規のNPHP1変異 (c.1639C>T; p.Q547*) のホモ接合と考えられる結果を認めた. NPHP1変異症では, 同じ遺伝子変異を持つにも関わらず, Joubert症候群, 腎機能障害および自閉症スペクトラム障害と幅広いスペクトラムを呈しうる. Jourbert症候群の病態を理解するためには, さらなる症例の積み重ねが必要である.
網膜片頭痛 (RM) は単眼の視覚障害の発作が片頭痛に伴って繰り返し起こる疾患で, 国際頭痛分類第3版β版で片頭痛に分類されている. 本邦に小児の報告はない. RMと診断しカウンセリングにより頭痛が改善した小児例を経験したので報告する. 症例は14歳7カ月の女子, 母親は前兆のない片頭痛. 12歳より右目が暗くぼやけた後に頭痛を訴えるようになり, 14歳6カ月時には1カ月に5回ほどの発作が起きたため総合病院の眼科と小児神経科に受診した. 非発作時の眼底検査, 視野検査, 視力, 頭部MRIに異常なく片頭痛と診断されrizatriptanを処方された. Rizatriptanは無効で気持ち悪くなるため内服を嫌がった. インターネットで頭痛専門医を調べて当院を受診した. 頭痛は片頭痛の診断基準を満たし, 視野障害は左目に障害はなく, 右目の右側が暗く見えない. 視覚障害の後に必ず頭痛がはじまるためRMと診断した. 患児には悪性の疾患でないこと, 予防療法が有効である可能性を説明しibuprofenを処方した. 当院受診後1年経過した時点では発作は数カ月に1回となり, 頭痛に対してibuprofenは有効であったため予防療法は行っていない. RMでは網膜の血管れん縮が起きるため網膜動脈血管を収縮させるtriptanの使用は避けなくてはならない. 片頭痛の診療をする機会の多い小児神経科医もtriptanを使用する場合に注意が必要である.
拡散強調像により多彩な疾患で可逆性脳梁膨大部病変を呈することが報告されている. 無熱性けいれん群発の2歳児で, MRI検査上, 亜急性出血病変を含む13個の脳海綿状血管奇形と脳梁膨大部病変の合併を認めた. けいれん発作はmidazolamとphenobarbitalで消失, 4日目のMRIで膨大部病変は軽快した. 以降, けいれんなく4歳時の脳波は正常範囲だった. 両者の合併報告は過去にないが, くも膜下出血の亜急性期での報告がある. 海綿状血管奇形に血液脳関門はなく, 正常白質においても血管透過性は亢進しているとされる. 浮腫をきたしやすい素因および出血で惹起された炎症により脳梁膨大部病変をきたした可能性がある.
抗N-methyl-D-aspartate受容体 (NMDAR) 脳炎は当初卵巣奇形腫に随伴する傍腫瘍性脳炎として報告されたが, 近年腫瘍合併のない小児の報告が増加している. 症例は2歳11カ月女児. 左半身優位の舞踏アテトーゼ, 口部ジスキネジー, けいれん, 興奮で発症し, 髄液および血清の抗NMDAR抗体陽性を確認し, 抗NMDAR脳炎と診断した. 画像検査では, 全身CTで卵巣を含めて腫瘍合併はなく, 頭部MRIも正常だった. ステロイドパルス療法とガンマグロブリン療法は無効だったが, 血漿交換療法により症状は改善した. しかし, 頻回のカテーテルトラブルにより血漿交換療法は中止せざるをえなかった. 中止時点で髄液と血清の抗NMDA受容体抗体陽性が持続していたため, rituximab追加投与を行い, 症状と抗体は消失した. Rituximab投与によりIgGの低下があり, ガンマグロブリン補充を要したが, 感染症などの合併症はなく安全に治療を終了した. 本症例を通じ, 成人例と比較した, 小児における抗NMDAR脳炎の特徴と治療管理上の問題点について検討する.