ミトコンドリア病はあらゆる臓器障害を来しうるため臨床像が多彩で, しばしば診断に苦慮する. 病態の中核は呼吸鎖酵素機能異常にあるため, 酵素活性や複合体の量的・質的評価などの生化学的診断が重要だが, 病因に応じた治療や遺伝カウンセリングのためには遺伝子診断が必要となる. 病因遺伝子は核DNAとミトコンドリアDNAの両方に数多く存在するが, 網羅的遺伝子解析などでより多くの患者の診断が可能になってきた. 遺伝子解析を役立てるには, 症状や病型の多様性を知った上で注意深い病歴聴取と診察を行い, 適切な臨床検査とともに生化学や病理学的評価などの特殊検査を駆使して, ミトコンドリア機能異常を証明することが重要である.
Congratulation on the publication of the 50th anniversary issue of No to Hattatsu as 4th editorial chairperson. The Journal was put on track by the dedicated contribution of Prof Yukio Fukuyama, Honorary President of the Japanese Society of Child Neurology. The development of the Journal, an institutional journal of the society, is traced from its beginnings as an idea in the mind of the first chief editor, Prof Fukuyama, through 50 years of publication. The urgency of a professional journal to child neurologists push to publish the Journal in 1969, and Prof Fukuyama has served since then as a chief editor and others interested the connections to the neurosciences and new technologies in the child development and disorder.The journal processes original papers, case reports, short communications, review articles, various committee reports including board meeting note, editorial board meeting, interview with delegates by the chairperson.
【目的】ケトン食療法の治療効果を明らかにする. 【方法】難治てんかん53例において, 後方視的に検討した. 【結果】てんかん発作抑制率は6/53例 (11.3%) で, glucose transporter-1 (Glut-1) 異常症3/3例 (100%), 症候性全般てんかん1/6例 (16.7%), 症候性局在関連性てんかん2/15例 (13.3%) であった. ケトン食療法継続率は全症例の18/53例 (34%) で, Glut-1異常症は3/3例 (100%), 症候性全般てんかんは3/6例 (50%), Dravet症候群は3/10例 (30%) で, 平均継続日数は663.0±717.3日であった. ケトン食療法を導入し退院後, 入院日数, 救急受診回数, 救急搬送回数が減少した症例, 就園就学日数が増加した症例があった. 運動発達スコアは8例で, 知的発達スコアは7例で改善した. 【結論】ケトン食療法は, 小児難治てんかん症例の一部において, てんかん発作抑制効果がある.
【目的】マイコプラズマ感染症に合併した急性脳炎・脳症の小児例の臨床的特徴を後方視的に検討する. 【方法】2010年から2016年に当院および関連施設に入院した0~15歳の小児患者のうち, マイコプラズマ感染症に急性脳炎・急性脳症を合併した症例を後方視的に検討した. 【結果】該当症例は8例で, 男児6例, 女児2例, 年齢は2~14歳であった. 発熱や咳嗽などの前駆症状から神経症状発現まで3日以内の早期発症型2例と, 10日以降の遅発発症型6例に分けられた. 早期発症型は可逆性脳梁膨大部病変を有する軽症脳炎 (以下, MERS) が2例, 遅発発症型は自己免疫性辺縁系脳炎が3例, 急性散在性脳脊髄炎が1例, Bickerstaff型脳幹脳炎が1例, 分類不能の急性脳症が1例であった. 予後は6例で後遺症を認めず, 小脳病変を伴うMERSの1例で構音障害を, 辺縁系脳炎の1例で軽度知的障害を残した. 【結論】前駆症状として咳嗽が目立たない症例もあり, 小児の原因不明の脳炎・脳症を見た場合は, マイコプラズマ感染を疑い検査をすることが重要と考えた. 本邦からのマイコプラズマ脳炎・脳症のまとまった報告は少ないが, 近年loop-mediated isothermal amplification法によるDNA検出検査の開発によりマイコプラズマ感染の診断が簡便となってきており, 今後更なる症例の蓄積が期待される.
症例は日齢10の男児. 日齢9より発熱を認め, 日齢10にけいれん発作および中枢性無呼吸をきたした. 頭部MRIでは拡散強調画像において左右対称性の広汎な白質高信号を認め, ヒトパレコウイルス3型 (human parechovirus-3 ; HPeV-3) 脳炎を疑い, 脳保護治療を開始した. 血液検査において凝固異常, フェリチンおよびネオプテリンの高値を認め, 髄液細胞数増多は認めなかったが, 髄液ネオプテリンは高値を示した. 高サイトカイン血症の合併が病態悪化に強く関与していると考え, dexamethasoneを投与した. 白質病変は一部囊胞状変化を示したが大部分は消退し, 第27病日に神経学的異常所見を認めず退院となった. 入院時の血液・髄液・鼻汁のreal-time PCRにてHPeV-3が検出された. また脳炎発症時に横静脈洞血栓症を合併したが, 抗凝固治療により速やかに消失した. 高サイトカイン血症の合併が示唆されるHPeV-3脳炎において, 更なる脳障害の進行を抑制する目的で, 副腎皮質ホルモンをはじめとした免疫調節治療を考慮する必要がある.
Mycoplasma pneumoniae (Mp) は続発して神経合併症をきたすことがある病原体として重要である. 抗糖脂質抗体との関連が報告されているが, 詳細な病態については不明な点が多い. 症例は12歳女児. 第1病日に頭痛のため近医を受診し, 第3病日よりazithromycin, 第6病日よりcefcapene pivoxilを投与されたが症状改善認めないため, 第10病日に前医に入院となった. 髄液検査にて細胞数175/μlと増加あり, 第16病日のマイコプラズマ抗体価 (PA法) で640倍と高値であったため, Mp感染症に合併した無菌性髄膜炎と診断され当院に転院となった. 転院後minocyclineを投与したが症状は持続し, 第25病日より複視の訴えが出現し, 右外転神経麻痺を認めた. 同日の頭部MRIでは軽度の髄膜造影効果以外に, 異常所見は認めず, 免疫グロブリン400mg/kg/日を計5日間投与したところ, 頭痛, 発熱, 外転神経麻痺の症状は徐々に改善し, 第35病日に退院となった. 第46病日の外来受診時には, 外転神経麻痺, 複視の症状は消失していた. また, 第15病日の検体で測定した抗糖脂質抗体は, 抗Gal-C抗体 (IgG) が陽性であった. Mp感染に関連し抗Gal-C抗体陽性の無菌性髄膜炎で, 外転神経麻痺を合併した報告はこれまでになく, 免疫グロブリンの有効性が示唆された.