脳と発達
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50 巻, 4 号
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巻頭言
特集・第59回日本小児神経学会学術集会
<シンポジウム5:日本の学習障害 ~日本の今とこれから~>
  • 若宮 英司
    2018 年 50 巻 4 号 p. 247-248
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/16
    ジャーナル フリー
  • 関 あゆみ
    2018 年 50 巻 4 号 p. 249-252
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/16
    ジャーナル フリー

     脳機能画像研究によりアルファベット語圏の発達性読み書き障害 (developmental dyslexia ; DD) 児者においては, 左頭頂側頭移行部と左側頭葉後下部のvisual word form area (VWFA) の活動減弱が報告されている. 日本語においても, 定型発達児では親密度の高い平仮名単語に対し左紡錘回の活動を認めるが, DD児では同部位の一貫した活動が認められない. VWFAの活動は生得的なものではなく, 読字の熟達に伴い単語や文字列に特異的な反応を示すようになる. DDではこのような皮質機能の特殊化が障害される. しかし, VWFAの活動が 「熟達した読み」 のどのような側面を反映するのか, 皮質機能の特殊化の障害がなぜ起こるのかは明らかでなく, 今後の研究課題である.

  • 岡 牧郎
    2018 年 50 巻 4 号 p. 253-258
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/16
    ジャーナル フリー

     発達性読み書き障害 (developmental dyslexia ; DD) は, 他の発達障害をしばしば併存する. 我が国においては自閉スペクトラム症 (autism spectrum disorder ; ASD) の約26%, 注意欠如・多動症 (ADHD) においては30~40%の頻度でDDが併存すると報告されている. これらの併存症によりDDの臨床特性は多様になる. ASDやADHDを併存するDDの病態には, 音韻処理能力の障害に加えて実行機能の障害やワーキングメモリの障害などが存在すると考えられ, 一般的なDDと比べて異なる認知特性も有する可能性がある.

     欧米諸国では, DDの候補遺伝子部位としてDYX1からDYX9が, 候補遺伝子としてDYX1C1, ROBO1, DCDC2, KIAA0319などがこれまでに報告されている. 我が国においても今後大規模な検討が望まれる.

  • ―身体動作と学習の関連性―
    畑中 マリ
    2018 年 50 巻 4 号 p. 259-263
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/16
    ジャーナル フリー

     発達性読み書き障害 (developmental dyslexia ; DD) はデコーディングの障害が原因であることが知られており, 音韻認識障害など原因病態の解明が進んでいる. 漢字書字障害はDDに伴って生ずるものだけではなく, 読みに障害がなくともみられるため, DDの病態とは異なる病態の可能性がある. 日本の読み書き教育の中で漢字書字不全は顕在化しやすい問題であるにも関わらず, その病態は十分に明らかにされていない. 本稿では, 正確な漢字書字と漢字筆順の習得との関係を評価した研究結果を報告する. 日本語における読み書きの障害は, 文字種により病態が異なる可能性があり, その違いを意識し研究を進めていく必要があるのではないだろうか.

原著論文
  • 高嶋 裕美子, 池田 梓, 辻 恵, 露崎 悠, 市川 和志, 相田 典子, 後藤 知英
    2018 年 50 巻 4 号 p. 264-268
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/16
    ジャーナル フリー

     【目的】軽微な頭部外傷後の脳梗塞症例の臨床, 画像的特徴, 特にmineralizing angiopathy (以下MA) との関連を検討する. 【方法】1980年4月から2016年11月までに脳梗塞の診断で当院に入院した患者の診療録を後方視的に調査し, 軽微な頭部外傷後の脳梗塞患者を対象に, 臨床, 画像的特徴について検討した. 【結果】動脈性脳梗塞と診断された119例のうち5例が軽微な頭部外傷後の発症であった. 発症年齢は10か月から11歳 (中央値は2歳9か月) で全例男児であった. 1例で無症状, 4例で左片麻痺を認め, 全例予後は良好であった. 頭部画像は4例は右側, 1例は左側の大脳基底核に梗塞像を認めた. 5例中, 麻痺を認めた4例にCTで穿通枝のMAと考えられる線状の高吸収域を認め, うち3例は両側に認めた. 11歳の症例では今回の梗塞像の対側基底核に陳旧性梗塞像を認めた. 【結論】軽微な頭部外傷後の基底核梗塞症例で高率に穿通枝にMAの合併を認めた. 脳梗塞の原因となるその他の因子は明らかとなっておらず, MAが軽微な頭部外傷後の脳梗塞と関係がある可能性が疑われる. 軽微な頭部外傷後脳梗塞は乳幼児の報告が多いが, 本検討の最高齢は11歳で既報より高かった. 乳幼児期以降にも軽微な頭部外傷後脳梗塞の発症があることや, 再発の可能性を考慮する必要があると考えられた.

  • 林田 拓也, 斎藤 義朗, 前垣 義弘
    2018 年 50 巻 4 号 p. 269-275
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/16
    ジャーナル フリー

     【目的】薬剤抵抗性の小児慢性片頭痛におけるtopiramate (TPM) 予防内服の効果について検討した. 【方法】先行して処方された片頭痛予防薬で症状が十分に改善しなかった5例を対象に, 臨床的背景, 頭痛の特性, 併用薬, TPMの投与期間, 予防効果, 副作用などに関して後方視的に検討を行った. 【結果】対象は初診時年齢が10歳から14歳で, 男児が4例, 女児が1例であった. 5例中4例が慢性連日性頭痛の診断基準を満たしていた. TPM開始1か月以内に, 5例とも頭痛頻度は減少し, そのうち3例は頭痛頻度が75%以上の減少を示した. 残りの2例も一旦は頭痛頻度が減ったが, 後に再増悪した. 副作用としては, 2例に眠気, 1例に体重減少がみられたが全例で治療継続可能だった. 【結論】薬剤抵抗性の小児片頭痛は慢性化しやすく治療に難渋することが多い. TPMは, 心理社会的要因や発達特性が関与している症例に対しての持続的効果は3例中1例と限定的であった. これらの要因のない, 特に慢性片頭痛に移行してから早期の段階で試みる価値が高いと考えられた.

症例報告
  • 高島 光平, 高野 知行, 松井 潤, 西倉 紀子, 底田 辰之, 丸尾 良浩
    2018 年 50 巻 4 号 p. 276-280
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/16
    ジャーナル フリー

     抗myelin oligodendorocyte glycoprotein (MOG) 抗体は様々な脱髄性疾患で認められる. 近年, 抗MOG抗体陽性の急性散在性脳脊髄炎 (acute disseminated encephalomyelitis ; ADEM) に続発する視神経炎 (optic neuritis ; ON) という, 従来のどの脱髄性疾患にも分類されない疾患が報告されたが, 詳細な臨床像は明らかでない. 症例は8歳男児. 発熱と頭痛, 排尿障害のため入院した. 症状とMRIよりADEMと診断し, methylprednisoloneパルス療法 (IVMP) を行ったところ, 症状は直ちに消失した. Prednisolone (PSL) による維持療法に移行したが, 減量中に異なる部位に病変を認めるADEMが計2回再発した後, ONを発症した. この際, 抗MOG抗体は陽性であった. PSLと免疫抑制薬による維持療法を行ったが, 計4回, ONが再発し, 4回目のONからはIVMPへの反応が不良となり, 血漿交換 (PE) を要した. PE後に視力は病前と同様に改善し, 現在はPSLとrituximabで維持療法を行っており, 5か月間, 寛解を維持している. 抗MOG抗体陽性のADEMに続発するONは再発を繰り返すうちにIVMPへの反応が不良となる可能性がある. IVMPが無効な場合はPEの施行を考慮すべきである.

  • 上野 弘恵, 池田 ちづる, 島津 智之, 岡田 拓巳, 澤田 貴彰, 水上 智之, 石津 棟暎, 松田 悠子, 佐々木 征行, 高橋 幸利
    2018 年 50 巻 4 号 p. 282-287
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/16
    ジャーナル フリー

     生来発達に問題のない2歳男児で, インフルエンザウイルス罹患時に全般性強直間代発作があり, その頃より徐々に酩酊様歩行, 易転倒性, 流涎の増加を認め, 有意語も徐々に減少した. 発達退行が段階的に進行し, 発症から約12か月後には自力での移動や寝返りは不可で, 殆ど有意語を発さない状態となった. 血中/髄液中抗グルタミン酸受容体 (glutamate receptor ; GluR) 抗体, 血中抗電位依存性カリウムチャネル (voltage-gated potassium channel ; VGKC) 複合体抗体の上昇を認め, 免疫グロブリン大量療法を施行したところ, 投与後数日で寝返り可能となり, その後歩行可能となった. また, 有意語も徐々に増加した. ステロイドパルス療法の追加でさらに発達の伸びを認め, 免疫療法開始前の発達指数 (DQ) は40であったが, 治療後はDQ71まで上昇した. 免疫療法が著効したことより, 病態への自己免疫的機序の関与が強く示唆された. 本症例の主症状は小脳症状であり, 抗glutamate receptor D2 (GluD2) 抗体が病態に主として関与したと推察した. 発達退行を呈す症例では, 自己免疫的機序による治療可能な病態も鑑別に挙げる必要がある.

  • 浅井 完, 石井 雅宏, 下野 昌幸, 五十嵐 亮太, 松田 夢子, 福田 智文, 千手 絢子, 高野 志保, 塩田 直樹, 楠原 浩一
    2018 年 50 巻 4 号 p. 288-291
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/16
    ジャーナル フリー

     小児の抗muscle-specific tyrosine kinase (MuSK) 抗体陽性の重症筋無力症 (MG) は稀であり, 治療法も確立していない. 小児での予後は成人に比して不良である. 我々は早期の単純血漿交換療法 (PE) と免疫抑制剤の併用が効果的であった抗MuSK抗体陽性MGの1例を経験した. 患児は12歳から眼球運動障害, 眼瞼下垂, 嚥下障害を認め, 抗MuSK抗体が陽性であった. ステロイドパルス治療を2コース施行したが, 症状の改善に乏しかった. そのため3コース目は行わずステロイド内服とPEの併用に変更した. PE 2コース終了後から眼球運動障害や眼瞼下垂は消失し, 4コース終了時には嚥下障害も消失した. 5コース終了後直ちに, tacrolimus内服を開始した. 発症2年後も寛解を維持している. 小児抗MuSK抗体陽性MGにおいてはPEや免疫抑制剤といった積極的治療を早期に試みるべきであると考えた.

短報
  • 中澤 友幸, 細井 賢二, 真弓 怜奈, 村野 弥生, 山田 浩之, 宮崎 菜穂, 新島 新一, 清水 俊明
    2018 年 50 巻 4 号 p. 292-293
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/16
    ジャーナル フリー

    Enterococcus faecalisによる急性巣状細菌性腎炎 (acute focal bacterial nephritis, 以下AFBN) に伴うけいれん重積にて発症した3歳女児. 第2病日の頭部MRIでは異常を認めなかったが, 第6病日に再発熱と発語の消失を認めた. 頭部MRI再検し, 拡散強調像で前頭部優位に皮質下白質高信号の所見を認めた. けいれん重積型 (二相性) 急性脳症 (acute encephalopathy with biphasic seizures and late reduced diffusion) に準じ, ステロイドパルス療法 (methylprednisolone 30mg/kg/日×3日間), fosphenytoinを開始し, 速やかに回復した. AFBNに可逆性脳梁膨大部病変を伴う軽症脳炎・脳症 (clinically mild encephalitis/encephalopathy with reversible splenial lesion) を合併する報告が増えているが, 異なる脳症を発症しうることに留意すべきと考えた.

  • 林 貴大, 木村 暢佑, 中森 いづみ, 樋口 嘉久, 宮嶋 智子
    2018 年 50 巻 4 号 p. 294-295
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/16
    ジャーナル フリー

     MethylphenidateはADHDに使用され, 適正使用ガイドには脳血管発作 (脳出血, 脳梗塞, くも膜下出血) の報告例が記載されている. 今回methylphenidate内服中に2回の脳出血を来した13歳男子を経験した. 6歳7か月からmethylphenidate 18mg, 9歳1か月よりatomoxetine 20mgを毎日内服していた. 10歳9か月時に意識障害を生じた. 頭部CTでは左側頭葉に出血が認められた. 血圧, 身体所見, 血小板数, 凝固能, 抗核抗体, 頭部MRIやMRAでは異常所見はなかった. 保存的加療で1か月後の頭部CTでは出血像は消失していた. 薬剤性を考慮し2剤を中止したが, 多動や集中力低下が著明であり出血3か月後からmethylphenidateのみを再開した. 後遺症なく経過していたが, 12歳11か月時トランペット吹奏中に同部位に再出血を来した. 脳血管造影検査では器質的疾患の存在は否定的であった. Methylphenidateは構造や作用がamphetamineに類似している. Amphetamine使用例での脳血管発作の報告例は散見する. 機序として, 血管炎, hypertensive spikesや脳血管奇形の破綻が報告されている. 本症例では, これらの所見は指摘できなかったが, methylphenidateは稀に脳出血を来しうることを考慮する必要がある.

  • 植田 紀美子, 米本 直裕, 山根 希代子
    2018 年 50 巻 4 号 p. 295-297
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/16
    ジャーナル フリー

     障害児は不慮の事故やけがにあうリスクが高く, 事故防止対策の重要性が指摘されている. 質問票調査により児童発達支援センターおよび児童発達支援事業所における事故やけが, 健康状態の急変時に備えた取組の現状を明らかにした. 84.8%の施設が緊急時対応マニュアルを作成していたが, それに従って訓練しているところは47.6%と少なかった. 児童発達支援事業や多機能事業所での自動体外式除細動器の設置割合はそれぞれ40.3%, 35.1%であった. 心肺蘇生, 異物除去, 止血法などの実践訓練を行っている施設は40%に満たなかった. 児童発達支援センター等の利用者の急増を背景に事故防止対策が追いついていない状況であった. 事故防止の体制整備が急務である.

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