小児における軽症頭部外傷は 「よく見られる疾患」 で, 一般臨床医は日常的に頭部CTを撮像する適否を決定しなければならない. 日本はCT検査装置も多く検査がすぐに行える潤沢なる環境にあるが, 被曝によってがんが発生するリスクは欧米に比較して日本では高いとの報告もある. これまでに頭部CT適応基準として米国のPECARN, カナダのCATCH, イギリスのCHALICE (NICE2014) が報告されている. いづれも受傷機転, 病歴, 診察所見などの複数項目を検討し, 臨床的重度頭部外傷 (clinical significant head injury) となる症例を判別するための頭部CT適応基準である. これらの基準は頭部CT撮像の適否を決める根拠となると同時に不要な放射線被曝を避けることを支持するが, 法学的視点からは家族の強い希望があれば頭部CT検査を施行することに躊躇してはならないとの意見もある. 臨床医に大切なことは, これらのアルゴリズムを参考にした医学的根拠のある頭部CT検査適否の決定と, 頭部外傷後の自宅生活上の注意点を丁寧に情報提供することと考える.
【目的】Levetiracetam (LEV) は副作用が少ないことで知られfosphenytoin (FOS) の代替薬として期待される. 今回我々は, 小児のけいれん発作頓挫後の急性期における発作再発予防としてLEV静注製剤およびFOS静注製剤の有効性と安全性を後方視的に検討したので報告する. 【方法】2012年1月から2017年8月までに, けいれん頓挫後の急性期における発作再発予防目的にLEVまたはFOSを静注投与した4歳から15歳までの入院患者のうち, 除外項目該当例 (頭部画像/肝腎機能/電解質異常を有する, LEV/FOSと同系統薬を内服している, benzodiazepine系薬剤の前投与あり) を除いた群を対象とした. 【結果】対象症例は, 除外項目該当例を除いた計35例 (35機会, LEV 12例, FOS 23例) であった. 年齢は中央値9.8歳, 男児20例, 女児15例. 有効率については, LEV群91.7%, FOS群95.7%と統計的に有意な差を認めなかった (p=1.000). 副作用については, 両群で加療を要するものはなかった. 【結論】LEVはFOSと同様に小児のけいれん発作頓挫後の急性期における発作再発予防としての有効性と安全性が期待できる. 今後前方視的な検討が望まれる.
先天性片麻痺を呈し, 頭部MRI検査で上衣下の出血性梗塞を認めた父子例に対し, 全エクソン解析でCOL4A1遺伝子変異 (NM_001845.5:c.4875C>A [p.Tyr1625*]) を同定した. 近年COL4A1/2関連症候群はsmall vessel diseaseとしても認識されている. 本症例のように複数の出血性病変を認める, ないし親子例ではCOL4A1/2遺伝子変異を想定するべきである.
結節性硬化症 (tuberous sclerosis complex ; TSC) は, 諸臓器の局所的形成異常と脳の機能異常 (てんかん・知的障害・自閉症) を呈する疾患であり, 幼少時よりてんかん発作を呈し治療に苦慮する例も多い. 我々は, 上衣下巨細胞性星細胞腫 (subependymal giant cell astrocytoma ; SEGA) を有するTSCの8歳男児に対しeverolimusを投与した. 症例は, 4歳時にてんかんを発症し, 複数の皮膚白斑, 頭部MRIで多発性の皮質結節と上衣下結節を認めTSCと診断した. その後, 抗てんかん薬を開始したが, てんかんは難治に経過した. 8歳時, SEGAの増大を認めeverolimusを開始した. 投与後, SEGAは縮小し, てんかん発作も消失した. また, IQは, everolimus投与前78が, 投与1年後には104に上昇, ADHD-RSも投与前15点が, 投与約3年で4点に改善した. everolimusがTSCのてんかん症状および, 知的発達・認知行動面の改善にも寄与する可能性が示唆された. TSCの治療法はmammalian target of rapamycin (mTOR) 阻害剤の導入により大きな変化を遂げた. それぞれの症例について, 経時的に認知行動面を含めての症状を評価し, 最も適合する治療を模索すべきである.
乳児期発症の歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症 (dentatorubral-pallidoluysian atrophy ; DRPLA) を経験した. 症例は, 1歳2か月の男児で, 5か月の寝返り獲得まで正常発達であったが, 10か月健診で運動発達の遅れを指摘され紹介受診した. 家族歴やてんかん発作を認めなかったが, 頭部MRI画像で小脳と橋被蓋部の萎縮を認めたため脊髄小脳変性症を疑った. 遺伝子解析の結果, ATN1に93のCAGリピート伸長を認めDRPLAと診断した. 本症例は, 典型的な家族歴や臨床像を認めず, MRI画像が大きな決め手となり早期の段階で診断に至った症例である. 乳児期発症のDRPLAは, 若年型で特徴とされるてんかんやミオクローヌスを伴わず, 発達の遅れを主体とし, 筋緊張の異常や不随意運動など非典型的な初期症状が多い. 診断には, MRI画像での小脳と橋被蓋部の萎縮が重要な所見である. また遺伝性のある本疾患は, 早期発見であればあるほど家族対応への慎重な配慮が不可欠となる. 予後改善が見込めない疾患では, 検査実施前に遺伝子検査の意義を多職種で十分に検討しなくてはいけない. 家族の心理社会的な支援や, 家族間に発生する問題に備えた体制を整えておくことが重要である.
欠神発作重積状態に対してlevetiracetam (LEV) 静注が有用であった2例を経験した. 2例ともに意識障害を主訴に受診した. 発作時脳波は, 症例1では30分以上持続した2~4Hz全般性棘徐波複合を認めた. 症例2では4~8秒持続する3Hz全般性棘徐波複合の群発を認め, 棘徐波複合を認めていない時間帯も反応性低下を認めた. それぞれ欠神発作重積状態と診断した. 内服が困難であったためLEV静注を行い, 意識障害は改善し, 脳波では棘徐波複合が消失した. 欠神発作重積状態にLEV静注は有用であった.
重症心身障害児 (者) は呼吸器感染症を発症することが多く, 抗菌薬の使用頻度が高くなる. 従って薬剤耐性菌の増加がしばしば問題となる. 当センターでは耐性菌対策として抗菌薬サイクリング療法を施行した. 本療法では4種類の抗菌薬 [piperacillin (PIPC), cefotiam (CTM), sulbactam/ampicillin (ABPC/SBT), flomoxef (FMOX)] を3か月ごとに呼吸器感染症に対する第一選択として治療開始時に使用した. 本研究では, 本療法開始前後のPsudomonas aeruginosaの薬剤感受性を比較検討した. 対象は入所中の大島分類1の重症心身障害児 (者) で抗菌薬サイクリング療法開始前に喉頭気管分離・喉頭閉鎖を施行していない9名である. 9名のうち7名でPsudomonas aeruginosaが検出され, 抗菌薬サイクリング療法開始前後で抗菌薬全般およびニューキノロン系抗菌薬の感受性の改善を認めた. 呼吸器感染症の第一選択薬に広域抗菌薬を用いず, 抗菌薬サイクリング療法を行うことで薬剤感受性の改善を図ることができると考えた.