近年における先天性サイトメガロウイルス (CMV) 感染症の診療における最大の進歩は, 症候性感染児に対する抗ウイルス療法が予後を改善できることを示したことである. それに伴って, 感染児を見逃すことなく確定診断することの重要性が増し, 本邦では生後21日以内の新生児尿を検体としたCMV核酸増幅法が保険収載された. しかし今なお多くの先天性CMV感染児が診断されないまま見逃されており, 特に新生児聴覚スクリーニングを経て発見された先天性難聴児の中に潜む先天性CMV感染児の早期診断と治療介入が進むことが望まれる.
小児急性脳症診療ガイドラインは, エビデンスに基づいて策定された. 冒頭に診療フローチャートが提示されており, 実際の臨床の流れに沿ってガイドラインを参照できるように工夫されている. 小児急性脳症におけるエビデンスが確立している項目は多くなく, 高い推奨度を持つ項目は限られている. 特に現時点でエビデンスが確立した治療法は少ない. ガイドラインは改訂を行うことが求められるが, ガイドラインをより良いものにするには小児の急性脳症に対する研究が進展し, 学術論文として報告されることが必要である.
けいれん重積型 (二相性) 急性脳症 (AESD) は病態として興奮毒性が推定され, 最も頻度が高い脳症症候群である. 「分類不能」 群のなかで軽症例の一部はMR spectroscopyで一過性のグルタミン上昇を認め, 興奮毒性型急性脳症の軽症スペクトラム (MEEX) と推定される. AESDにMEEXを加えると興奮毒性型が半数以上と想定される. また, AESDとして典型的な経過をたどりながら, late seizures後に急激に脳浮腫に陥り予後不良な経過をたどる症例も存在する. 頭部外傷後 (abusive head traumaを含む) に, AESD類似の臨床経過・画像所見を呈する乳児症例 (TBIRD) もMR spectroscopyでグルタミンの一過性上昇が認められ興奮毒性の関与が疑われる.
小児急性脳症はほとんどが発熱時の遷延するけいれんで発症する. けいれんが遷延化し重積状態になってしまう場合, 神経組織は不可逆的な傷害をもたらすことから, けいれんを迅速に止めることが治療の第一歩となる. 5分間以上継続する遷延性けいれんは自然に頓挫しづらいため, いち早く経静脈的に止痙剤を投与するなど積極的な治療的介入が必要である. 診療ガイドラインを遵守し適切に治療することが肝要である. けいれんに対する治療と同時に急性脳症のタイプにかかわらず, 全身状態をできうる限り改善し, かつ維持するための全身管理のための支持療法を行うことが急性脳症治療の基本となる.
Guillain-Barré症候群は, 急性単相性の運動・感覚障害を呈する免疫性末梢神経疾患である. 末梢神経の脱髄を主体とする急性炎症性脱髄性ポリニューロパチー (AIDP), 軸索変性が主体の急性運動性軸索型ニューロパチー (AMAN), 運動神経軸索の変性に感覚も障害される急性運動感覚性軸索型ニューロパチー (AMSAN) の3型に分類される. 病因は抗糖脂質抗体がAMANで検出され意義が確立している一方, AIDPやAMSANではほとんど検出されず現在も抗原は不明である. Fisher症候群では, 1~3週前に上気道感染の既往を持つことが多く, 外眼筋麻痺, 失調, 深部腱反射消失を呈するが, 自然軽快も知られている.
慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー (CIDP) は無治療下で2か月以上にわたり進行し, 緩徐または階段状の進行あるいは再発性の経過を示す, 自己免疫が介在する脱髄性・炎症性の末梢神経障害である. 15歳未満の有病率は10万人あたり0.23人とされ, 小児期においては比較的まれな疾患である. 経静脈的免疫グロブリン療法, 副腎皮質ステロイド, 血液浄化療法がファーストラインの治療法であり, これらの治療で反応不良な場合や, 副作用等で治療継続が困難な場合に免疫抑制薬等の補足的治療を検討する. 近年, 一部の患者でランビエ絞輪部近傍を標的とする自己抗体が報告され, CIDPには多様な臨床型が含まれることが明らかになってきている.
遺伝性ニューロパチーは, 遺伝子変異など先天的要因により末梢神経の脱髄または軸索障害が生じ, 運動あるいは感覚神経障害をきたす疾患である. 遺伝性運動感覚性ニューロパチー (Charcot-Marie-Tooth病と同義) が代表的な病型であるが, 下肢優位の四肢遠位筋の筋力低下, 足の凹足変形, 逆シャンペンボトルと呼ばれる下肢遠位筋萎縮が臨床的特徴とされる. PMP22重複がFISH検査で確認されるCMT1Aが大半を占めるが, それ以外の病型でも次世代シークエンスの普及により新規遺伝子が同定され, 病態の理解が深まってきている. 診断にあたっては電気生理学的診断および遺伝形式により病型分類がなされ, 遺伝子診断へとすすむ. 鑑別疾患として末梢神経の炎症性疾患である炎症性ニューロパチーがあげられるが時に鑑別が困難なことがある. 遺伝性ニューロパチーの知識の整理を行い, 小児神経科医が知っておくべき末梢神経疾患の理解を深めたい.
抗myelin oligodendrocyte glycoprotein (MOG) 抗体は, 小児の急性散在性脳脊髄炎や視神経脊髄炎など脱髄疾患で陽性例が報告されている. 今回, 我々はムンプスウイルス感染症が先行し視神経炎 (optic neuritis; ON) で発症した抗MOG抗体陽性関連脱髄疾患の7歳女児例を経験した. 右眼痛, 右視力低下が出現し視神経炎の診断で当院へ紹介受診した. 右視力は10cm手動弁まで低下しており, 頭部MRIのT2強調画像とfluid attenuated inversion recovery (FLAIR) で右視神経の腫大, 両側大脳皮質下白質に高信号病変を認めた. ステロイドパルス療法3クール, ガンマグロブリン大量療法を施行したところ治療に反応し視力は右眼1.5まで改善した. その後, 抗MOG抗体の陰性を確認してステロイド内服を中止したが, 再発なく経過している. 抗MOG抗体についてはその病的意義や感染症との因果関係は明らかにされていないが, 本症例ではムンプスウイルス感染症が先行した. 抗MOG抗体とムンプスウイルスとの関連を指摘した報告はなく, 今後さらなる症例の蓄積による検討が必要である.