脳と発達
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52 巻, 6 号
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巻頭言
総説
  • 山本 俊至
    2020 年 52 巻 6 号 p. 361-367
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/20
    ジャーナル フリー

     次世代シーケンスによる網羅的遺伝子解析により, 多くの疾患関連遺伝子が明らかにされてきた. このことにより, 網羅的遺伝子解析は研究レベルから臨床診断への応用に利用目的が広がってきている. 次世代シーケンスを用いた解析においては, 実験室レベルで検体を調整する過程を経てシーケンサーにかけられ, 自動的に解析結果がデジタルファイルとして得られるが, 最終的には疾患について専門的な知識を持つ医師によって判断されなければ疾患関連バリアントに辿り着くことは難しい. その判断過程においては, バリアントの意味づけや頻度情報の扱い方, 様々なデータベースの利用方法, トリオ解析の重要性を認識しておく必要がある. その上で, filteringやcurationがどのように行われるべきか, さらにACMGガイドラインに沿ってどのように判断すべきかについて概説した.

特集・第49回小児神経学セミナー
<見て学ぶ小児神経>
  • 浜野 晋一郎, 熊田 聡子
    2020 年 52 巻 6 号 p. 368-369
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/20
    ジャーナル フリー
  • 鈴木 由香
    2020 年 52 巻 6 号 p. 370-373
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/20
    ジャーナル フリー

     摂食障害の低年齢化や早期発見の困難さ, 治療受け皿の乏しさが指摘されており, 小児神経科医も積極的に治療に参画することが求められている. 摂食障害の診断の変遷, 重症度の評価, 治療時の身体管理のポイント, 心理サポートや連携について小児期 (前思春期) の特性に着目して述べた. 確立した治療法はないが, 診断・回復過程では, 患者家族, 学校等とも共同し, ライフサイクルを見通し患者をエンパワーメントする治療が必要とされる.

  • 横山 浩之
    2020 年 52 巻 6 号 p. 374-378
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/20
    ジャーナル フリー

     DSM-5では知的能力障害を, 生活活動や社会生活への適応を評価して診断し, 知能検査は確認要件となった. 知的能力障害の支援に教育のレディネス (Gesell) の理解は必須であり, 個別の指導計画や個別の教育支援計画の作成に役立てたい. 知的能力障害は定型発達に比べて同じ精神年齢での経験年数が長いので, 教育目標分類学の精神運動領域をよりよく習得させられる. このことを教育課程 (自立活動) に活かすと, 青年期のよりよい福祉的就労を目指せる. IQが境界域ないし軽度の知的能力障害は, 支援がないと不登校などの不適応が認められやすい. また, DSM-5の自閉スペクトラム症の診断基準に知的水準に関する記載がなされたことにも留意したい.

  • 大橋 博文
    2020 年 52 巻 6 号 p. 379-383
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/20
    ジャーナル フリー

     先天異常症候群とは, 多発先天異常のパターンが一つの疾患と認識可能な場合に冠せられる臨床的診断 (recognizable patterns of human malformations) である. 先天異常症候群の診断 (Dysmorphology) アプローチとして, “Gestalt” 認識, 診断支援システムの活用, 類縁疾患の鑑別, 遺伝学的検査による診断などを概説した. 先天異常症候群の診断では小奇形 (治療を要さない軽微な形態特徴) の評価が特に重要である. 診断後の包括的支援の一環として当センターで進めている先天異常症候群集団外来の試みも紹介した.

原著論文
  • 伊東 藍, 中村 由紀子, 松岡 雄一郎, 河野 千佳, 大澤 麻記, 小沢 愉理, 小沢 浩, 菊池 信介
    2020 年 52 巻 6 号 p. 384-389
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/20
    ジャーナル フリー

     【目的】近年, 眼科疾患の早期発見・介入に対する眼科検診の有用性から, 眼科スクリーニング検査の普及が進んでいる. しかし神経発達症などの患者には眼科検査が困難な例が多く異常の早期発見が難しい. 他覚的屈折検査機器のSpotTM Vision Screenerを導入する機関が増加しているが, 障害児・者を対象とした報告はまだ少ない. 本研究は療育外来通院中の障害児・者における当該検査の適応可能性, 有用性を明らかにすることを目的とした. 【方法】2017年10月から2018年9月に本検査が依頼された当センター療育外来通院中の患者を対象に, 臨床的特徴, 検査結果, 眼科的介入等について診療録を用いて後方視的に調査した. 【結果】対象患者134例中, 初回検査の困難例が15例であったが再検査で成功した例もあり計129例に実施できた. 診断は自閉スペクトラム症30例, 注意欠如/多動症28例, 知的能力障害35例などであった. 異常値を呈したのは48例81眼, うち著者らで作成した当センターの紹介基準をこえたのは18例24眼であった. 本検査実施後に眼鏡を新規に作製した8例中4例で視覚反応の改善や集中力向上を認めた. 【結論】本検査は対象患者においても高確率に実施可能であった. 屈折異常や斜視の早期発見により, 発達の阻害因子となりうる視機能異常の早期治療につながると考えられた.

  • 徳永 沙知, 下村 英毅, 谷口 直子, 李 知子, 竹島 泰弘
    2020 年 52 巻 6 号 p. 390-396
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/20
    ジャーナル フリー

     【目的】脊髄性筋萎縮症患者に対するnusinersenの治療効果を検討する. 【方法】当院でnusinersenの投与を行った患者に, 運動機能評価と主観的指標として患者家族にアンケートを行い後方視的に検討した. 運動機能評価はI型と座位不可のII型にはChildren’s Hospital of Philadelphia Infant Test of Neuromuscular Disorders (CHOP-INTEND), 座位可能なII型とIII型にはSMA拡大Hammersmith運動機能評価スケール (HFMSE) を用いた. 【結果】対象は11例 (I型6例, II型3例, III型2例), 初回投与時年齢は4歳から12歳であった. 運動機能評価の数値は, I型は0または1点でそれぞれ治療後に変化がなかった. II/III型は1例を除いて運動機能の改善を認めた. アンケートでは, 運動機能の他に呼吸機能や消化管機能に関する効果も認めた. 運動機能評価と治療満足度の関連性を検討したところ, 改善がないが満足度が高い症例が4例, 改善があるが満足度が低い症例が2例であった. 【結論】アンケートで示された治療効果は多彩で, 運動機能評価には表れない微細な効果が得られた症例や, 運動機能評価と主観的指標が乖離している症例があった. 単一の指標による評価では不十分な場合, 多角的に治療効果を評価する必要があると考える.

  • 野崎 章仁, 柴田 実, 佐々木 彩恵子, 森 未央子, 森 篤志, 井上 賢治, 石原 万里子, 楠 隆, 藤井 達哉
    2020 年 52 巻 6 号 p. 397-402
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/20
    ジャーナル フリー

     【目的】Duchenne型筋ジストロフィー患者の人生の最終段階に対して本邦での明確な指針はない. Duchenne型筋ジストロフィー患者に対するアドバンス・ケア・プラニング (advance care planning ; ACP) の経験を報告する. 【方法】厚生労働省から示されているACPのステップを参考に, 多職種で 「臨床倫理の4分割法」 を基に本人・家族と対話を行った. 【結果】症例1は22歳. 大切なことは, 現在の生活を同様に送りたいであった. 自身の最期は, 緩和医療を希望し, 自然に逝きたいであった. 症例2は23歳. 大切なことは, 自分のやりたいことをやりたいであった. 自身の最期は, 緩和医療を希望し, 自然に逝きたいであった. 経過で非持続性心室頻拍を認め, 自分の意思で埋め込み型除細動器を選択した. 症例3は22歳. 本人の大切なことは, 自分自身と向き合うことであった. ACPを行うことで, Duchenne型筋ジストロフィーと向き合う気持ちが起こり, 非侵襲的陽圧換気療法の導入を自身で希望した. また自身の最期については, 緩和医療と自然に逝きたい希望を決めた. なお3例の家族とも本人の思いを優先することで納得された. また多職種での検討でも本人・家族の思いを尊重するとなった. 【結論】多職種と連携し, ACPを行うことで, 人生の最終段階に対する患者本人と家族の思いを確認することができた.

症例報告
  • 大黒 春夏, 中山 智博, 白井 謙太朗, 渡辺 章充, 渡慶 次香代, 中山 純子, 中島 光太郎, 岩﨑 信明
    2020 年 52 巻 6 号 p. 403-407
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/20
    ジャーナル フリー

     Klüver-Bucy症候群 (KBS) は側頭葉障害によって精神的盲目や視覚失認, 視覚性過反応, 口唇傾向, 情動の変化, 過度な性的反応等の特徴的な症状を示す症候群である. 今回, 軽微な頭部外傷にもかかわらずKBSの症状を呈した小児を経験した. 症例は5歳の男児. 転倒による頭部打撲後に口唇傾向, 視覚刺激に対する極端な無反応, 易怒性の出現, 日常生活が遂行できなくなる失認や記憶障害, 情緒反応の欠如が認められた. 頭部MRIで異常所見はなかったが, 99mTc-ECD脳血流SPECT検査で両側小脳, 右側優位の両側頭葉・頭頂葉・視床・基底核の血流低下が, 脳波検査では左側頭部の徐波が認められた. 脳症として治療され第28病日頃に症状は軽快し, 徐波も症状の改善と合わせて消失した. 小児では急性脳炎脳症後にKBSを発症した報告は多いが, 頭部外傷に伴う発症例は殆ど報告されていない. 小児では頭部外傷後の脳症においても, KBSと考えられる経過を取る場合があるため注意が必要である. また, 頭部MRIに明らかな異常所見がない場合においても, 脳血流SPECTや脳波は障害部位の診断において有用である.

  • 木原 祐希, 佐藤 孝俊, 谷口 直子, 石黒 久美子, 七字 美延, 村上 てるみ, 斎藤 良彦, 西野 一三, 永田 智, 石垣 景子
    2020 年 52 巻 6 号 p. 408-413
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/20
    ジャーナル フリー

     右眼瞼下垂を除いて明らかな周産期異常のない5歳の女児について報告する. 患者は6か月間の理学療法にもかかわらず支えなしで歩くことができなかったため, 2歳で当科に入院した. 遷延する右眼瞼下垂, 右眼外斜視, 高口蓋および鼻唇溝の左右差を認めた. 精神発達に遅れはなく, 言葉による指示を理解できたが, 3歳時に歩行獲得以降も跳躍は不可能で, 階段は左下肢から1段ずつ昇っており, 右優位の筋力低下が明らかになってきた. 血清CK値に異常はなく, 骨格筋CTで大臀筋の低吸収域, 骨格筋MRIで両側ヒラメ筋のT1高信号を認めた. 5歳時に家族の同意を得て右上腕二頭筋より筋生検を行い, 病理所見上中心核ミオパチーと診断された. さらに遺伝学的検査でmyotubularin 1 (MTM1) 遺伝子に既知のヘテロ接合性のミスセンス変異 (NM_000252.3 : c.721C>T [p.Arg241Cys]) が同定された. 同変異の症候性女性保因者は歩行獲得が遅く, 外見上の左右差があり, 眼瞼下垂と外眼筋麻痺, 左右差のある筋力低下が起きることが報告されている. 本邦ではこれまで症候性MTM1遺伝子変異保因者の報告はなかったが, 特に左右差を伴う筋疾患の診断の際には鑑別候補として注意すべきである.

  • 隈井 すみれ, 山本 啓之, 中田 智彦, 城所 博之, 藤浦 直子, 柴田 元博, 金子 仁彦, 高橋 利幸, 夏目 淳
    2020 年 52 巻 6 号 p. 414-418
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/20
    ジャーナル フリー

     急性散在性脳脊髄炎 (acute disseminated encephalomyelitis ; ADEM) において, 抗myelin oligodendrocyte glycoprotein (MOG) 抗体が陽性の症例が報告されているが, 抗体価の経時的変化が治療方針決定に有用かは明らかでない. 今回, 抗MOG抗体陽性の多相性ADEMの1例で免疫グロブリン療法 (intravenous immunoglobulin ; IVIG) を行い, 経時的に抗MOG抗体を評価したため報告する. 症例は9歳男児. 頭痛, 異常言動を認め頭部MRI T2強調像, FLAIR像で皮質下白質に散在する高信号域を認めADEMと診断した. ステロイドパルス療法で寛解するも, ステロイド漸減に伴い頭痛, 異常言動が出現しMRIで新規病変を認め, 計3回の再発を認めた. 発症5か月から月に1回のIVIGを開始し, 以降再発を認めていない. 抗MOG抗体価は発症時からIVIG開始までは4,096倍から2,048倍で推移したが, IVIG開始後は徐々に低下した. 抗体価の低下を確認しながらprednisoloneを漸減, 終了し, 発症から1年3か月でIVIGを減量開始, 発症1年9か月でIVIGを終了した. 多相性ADEMにおいて経時的な抗MOG抗体の測定はADEMの病勢を把握し治療の漸減や中止時期の決定に有用な可能性があり, 多数例での検討が必要と考えられた.

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