薬剤抵抗性で難治に経過するてんかん症例に対しては, 成人・小児に関わらず, 積極的な外科手術適応を考慮すべきであるが, 特に小児においてはより早期の手術施行が望まれる. なぜなら, 重症てんかん発作の持続が小児の精神運動発達を遅滞, 時に退行させうるからである. 術後無発作を達成するためには, てんかん原性領域を確実に同定し完全に切除する必要がある. 重要な脳機能に関与する部位を含んだ根治的切除は重篤な神経学的後遺症を引き起こす可能性があるが, 小児期の脳は可塑性が高く術後神経機能の代償性改善が期待しやすい. さらに, 抗てんかん薬の長期内服が患児に及ぼしうる悪影響も早期手術が望まれる要因である. 一方で, 小児てんかん外科手術が, 患児のIQや併存する精神神経疾患などに及ぼす影響については今後更なる検討が必要である. 本稿では, 小児てんかん外科治療の最も適切なタイミングについて, 自験例と文献的考察を交えながら述べる.
小児の神経学的診察の要点を概説した. 乳児期の神経診察は, 一連の流れを予め自分で作っておき, 短時間に手早く行い素早く多くの情報を得ること. 幼児期以降の神経診察は, 座位, 臥位, 立位の順で手際よく行うこと. 歩行障害, 筋力低下, 運動失調症, 不随意運動などの診察は, 問題となる運動をよくみること. 神経学的診察では, 一度で判断できないことも多い. 診察を繰り返すことが困難な場合もあるので, 症状を再度確認したり多人数で検討したりできるように, 保護者の許可を得た上で本人の様子や診察時の状況をできるだけ動画で残すよう努力する. 動画で記録を残しておくと, 診断だけでなく将来の改善程度や悪化程度の判定にも有用となる.
東海小児神経研究会は, 2008年から愛知県および周辺の医療機関が参加して急性脳炎・脳症の登録と年に1回の症例検討会を開催している. 毎年, 約20の施設より登録があり, それぞれの症例について, 病歴, 検査結果, 画像診断に加えて, 脳波データを登録している. 未だに標準治療が確立していない脳炎・脳症の臨床研究には症例の蓄積が必須であり, 当研究会は国内最高規模の集積を行っている. しかし, 治療方針は施設ごとの対応で, 統一されておらず, けいれん重積型 (二相性) 急性脳症 (AESD) の予後はこの10年で改善されていなかった. 現在の症例登録システムにとどまることなく, 治療法に対する臨床研究へ発展させることが課題である.
周生期の低酸素虚血に続く脳症は, 成熟新生児の死亡や生存者の神経学的合併症の主たる原因であったが, 2010年1月, 新生児低体温療法の効果を検証した3件の質の高い大規模臨床試験のプールデータ解析結果がBMJ誌に公表され, 低体温療法の有効性が最上位の臨床的エビデンスに支持されることになった. 当時, 臨床エビデンスの蓄積を待たずに実験的な低体温療法を臨床応用していた日本においても, エビデンスに基づいた低体温療法を提供する体制の整備が必要となり, 厚生労働省の研究班内に設置された小さな作業部会 (後のBaby Cooling Japan) が啓発活動を担うことになった. 国際ガイドラインの公開が2010年10月に迫る中, 低体温療法の実施状況調査, ワークショップ開催, エビデンスに基づいた実践テキストの出版, 公開討論とパブリックオピニオンの収集, エキスパートオピニオンの調整, 日本版の臨床推奨の日英2か国語での公表が短期間で集中的に進められた. 作業部会の結成から2年後に行われた全国サーベイランスでは, わが国における低体温療法の提供体制が全国レベルで整ったこと, そして, 世界で最もエビデンスに忠実な低体温療法が施行されていることが明らかになった. 2012年からは, 低体温療法実施施設の大半の参加を得て, 低体温療法全国症例登録が開始された. 現在までに1,000例を超える症例情報が蓄積され, 従来の100〜200症例程度の検討からは見えてこなかった重要な予後操作因子や, 冷却中の呼吸循環変量の基準値などは, 10本に迫る英文査読誌掲載論文を通じて世界の臨床現場にフィードバックされ, 高い国際評価を得ている. エビデンスに基づいた低体温療法の提供体制を整備するという当初の目標は達成されたが, 作業部会では, レジストリデータから見えてきた低体温療法適応症例の最適化に向けて, 前向き研究をも執り行っている. 2018年に終了した第1相臨床試験の結果に基づき, 現在第2相臨床試験が計画されている. Baby Cooling Japanの経験から, 小児脳症におけるレジストリー開設および国際臨床研究の推進に有用なフィードバックができれば幸いである.
脳波検査は古くから人の脳機能を把握する検査として行われている. 急性脳症における知見も積み重ねられてはいるが, 近年その診断には頭部MRIの存在感が高まっている. しかし, 脳波は脳機能をリアルタイムに, また持続的に把握できる検査法であり, 急性脳症・脳炎では必ず考慮されるべき検査法である. 急性脳症では頭部MRIよりも早く異常所見を呈することがあり, 脳波検査により早期に診断できる可能性がある. また, 持続脳波モニタリングを行うことで潜在性の発作を検出することができ, 発作の早期治療介入により予後を改善させることが期待される. 血圧, 心電図, 酸素飽和度のように生体情報モニターとして脳波が使用されていくことを望む.
けいれん重積型急性脳症 (遅発性拡散能低下を伴う二相性脳症, AESD) 発症には, けいれんに伴い放出されるグルタミン酸による神経細胞の興奮毒性が関与するという説が有力である. 我々は, NMDA受容体拮抗作用をもつdextromethorphan (DM), アポトーシス抑制作用を持つcyclosporinを用いた治療を試みた. 9例の神経学的予後は3例が正常, 2例は軽度, 2例は中等度, 2例は重度後遺症であった. DMは早期に使うことによりAESD発症を予防できる可能性もあるが, ランダム化試験による検討を要する. 後遺症に対しては2例にTRH療法を行ったところいずれも改善効果を認めた.
日本はWHO西太平洋地域で唯一AFPサーベイランスを実施していない国であったが, 2015年秋のAFP症例の多発をきっかけとして, 2018年5月から15歳未満の 「急性弛緩性麻痺 (急性灰白髄炎を除く)」 が感染症法に基づく感染症発生動向調査の5類感染症全数把握疾患に導入された. 2015年秋に続き, 2018年9〜11月にAFP症例が多発した. ポリオ根絶の維持の確認と, AFPの迅速な探知と対応に繋げるために, 小児神経専門医にAFPサーベイランスを周知することが重要である. 原因病原体検索には, 急性期の臨床検体 (5点セット) の確保と保管が極めて重要である.
急性弛緩性脊髄炎 (AFM) は急性発症の弛緩性麻痺と脊髄MRI上に特徴的な縦走する病変を呈する疾患である. 北米では2014年にAFMサーベイランスが始まって以来, 2年おきにAFM症例の多発が観測されている. 2018年には最多数の発生があり, 病原体として呼吸器・糞便検体からエンテロウイルスD68 (EV-D68) の他に, エンテロウイルスA71が多く検出された. 我々は2018年に本邦で発生した急性弛緩性麻痺に関して日本小児科学会の協力を得て調査を行い, その臨床像を明らかにした. AFMの診断基準の見直しやEV-D68とAFMの因果関係の検証が行われている.
Valproic acid (VPA) 単剤および他の抗てんかん薬との併用治療の副作用で高アンモニア血症を来すことがある. これまでに報告された併用薬にgabapentin (GBP) は含まれておらず, その高アンモニア血症リスクに関しては不明である. 今回, 私たちはVPA, phenytoin, phenobarbital, 臭化カリウム, clonazepam, lamotrigine, lacosamide, perampanel内服中の児にGBPを追加したところ, 高アンモニア血症を来した. VPA内服中のGBP追加に際しても高アンモニア血症に関する留意が重要である.
急性弛緩性脊髄炎 (acute flaccid myelitis ; AFM) は, 急性弛緩性麻痺を呈し, MRIで主に灰白質に限局した脊髄病変を認める疾患である. エンテロウイルスD68 (enterovirus D68 ; EV-D68) との関連が強く疑われているが, EV-D68は主に呼吸器検体から検出され, 脳脊髄液から検出される症例は非常にまれであり, 本疾患の発症原因は不明な点も多い. 今回脳脊髄液のみからEV-D68を検出したAFMの1例を経験した. EV-D68の直接侵襲がAFMの発症機序の1つである可能性が示唆された.