脳と発達
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52 巻, 5 号
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巻頭言
総説
  • 酒井 康成
    2020 年 52 巻 5 号 p. 299-302
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/06
    ジャーナル フリー

     発達を支えるメカニズムに関して情報量が急速に膨らみ, ヒトとその他の哺乳類との差異について考える機会が増えてきた. 次世代シーケンサーによる希少疾患の診断精度は年々高くなり, これまで診断未確定であった症例の臨床徴候が, 遺伝的診断により再認識されることも少なくない. 診断後, 患児とご家族に喜んでいただける治療方針にたどり着くまでに, 小児神経科医はどのような役割を果たすと良いのだろうか. 今回, 遺伝学と連動して発展してきた, 自閉症分野の分子生物学に焦点をあてて考察する.

原著論文
  • 加藤 沙耶香, 服部 文子, 水野 久美子, 栗原 崇浩, 榎原 毅, 矢澤 健司, 貝谷 久宣, 齋藤 伸治
    2020 年 52 巻 5 号 p. 303-305
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/06
    ジャーナル フリー

     【目的】災害発生時, 筋ジストロフィー患者やその家族は, 安全確保や避難所での生活において様々な困難が生じると予想される. 在宅医療を必要とする筋ジストロフィー患者自身による災害対策の実態調査を行った. 患者自身の背景について第一報として報告を行う. 【方法】2014年から2015年に, 筋ジストロフィー協会会員へアンケートを送付し, 患者背景 (居住状況, 年齢, 性別, 職業, 介助の有無, 医療機器の使用状況) について調べた. 【結果】876通の回答 (回収率53.8%) があった. このうち在宅筋ジストロフィー患者776人に対し解析を行った. 年齢の中央値は31歳 (1~83歳), 就学前5.2%, 学生25.4%, 就労者は20.7%であった. 移動・着替え・食事のいずれかに介助を要する人が85.3%, 在宅人工呼吸器の使用者が32.1%であった. 【考察】災害対策の人工呼吸器を使用する患者には電源確保が必須であり, 準備には費用負担と行動力が必要である. しかし上記の背景から筋ジストロフィー患者自身が準備するには, 経済的・人的支援が必要と考えられる.

  • 加藤 沙耶香, 服部 文子, 水野 久美子, 栗原 崇浩, 榎原 毅, 矢澤 健司, 貝谷 久宣, 齋藤 伸治
    2020 年 52 巻 5 号 p. 306-310
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/06
    ジャーナル フリー

     【目的】第一報にて我々は筋ジストロフィー患者自身の背景を調査し, 経済的, 人的支援が必要であると報告した. 今回は患者自身による災害対策の準備状況について第二報として報告する. 【方法】2014年から2015年に, 筋ジストロフィー協会会員へアンケートを送付し, 現在の災害対策について調べた. 【結果】876通の回答 (回収率53.8%) のうち在宅筋ジストロフィー患者776人に対し集計を行った. 3日分以上暮らせる準備, 保険証のコピー, ヘルプカードの準備をしている人はそれぞれ34.4%, 28.1%, 8.0%であった. 18.4%が停電時の自宅での電源確保をしていた. 自由記載では, 災害対策に関する情報が得られず, 準備の仕方がわからないことやニーズにあった行政の対策が取られていないという意見があった. 【結論】停電対策, ヘルプカードの用意など費用負担と行動力を必要とする準備には特に改善の余地があることがわかった. 自助対策が進まない理由として情報不足と患者背景 (第一報) が考えられた. 患者のニーズに沿った経済的補助, 人的補助, 福祉避難所の整備体制が行政には望まれる.

  • 山根 希代子, 前岡 幸憲, 北山 真次, 内山 勉, 金沢 京子, 米山 明, 光真坊 浩史
    2020 年 52 巻 5 号 p. 311-317
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/06
    ジャーナル フリー

     【目的】放課後等デイサービスガイドライン策定後の支援の質の変化や挿入すべき内容等について, 実態調査を行い, ガイドライン改定案の作成に資する資料とすることを目的とした. 【方法】平成30年11月に全国の放課後等デイサービス12,480か所を対象に, アンケート調査を郵送し, 調査票の返信および一部の調査内容はインターネット上での直接入力の二つの方法で実施した. 【結果】有効回答数3,845件, 回収率30.8%であった. 事業種は, 放課後等デイサービスが59.8%でその他は多機能事業所等であり, うち, 主たる障害が重症心身障害の施設は, 201か所5.2%であった. 利用者は, 発達障害, 知的障害が多く, 小学校低学年が多かった. ガイドライン活用による変化は65.2%の事業所に見られ, ガイドライン策定の効果がみられた. 改定に関わる意見としては, 具体的支援内容, 特に発達的視点や重症心身障害児等障害特性等に関わる内容の挿入, 他のガイドラインとの整合性についての意見が多かった. 【結論】放課後等デイサービスガイドラインは多くの事業所で活用され, なんらかの質的な変化があったと予測された. 今後改定に向け, 児童発達支援ガイドライン等との整合性を図りながら, 発達特性や障害特性等を踏まえた支援内容の挿入が望まれる.

症例報告
  • 野崎 章仁, 森 未央子, 熊田 知浩, 橋口 昭大, 髙嶋 博, 村山 圭, 藤井 達哉
    2020 年 52 巻 5 号 p. 318-322
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/06
    ジャーナル フリー

    SUCLA2関連ミトコンドリアDNA枯渇症候群は, メチルマロン酸尿症を伴うLeigh症候群と知られる. 症例は12歳女児で血族婚なし. 臨床所見は精神運動発達遅滞, 低緊張, 感音性難聴, 摂食困難, 成長障害, 筋萎縮, 外眼筋麻痺, 眼瞼下垂, 胃食道逆流, 反復嘔吐, 矢状縫合早期癒合, 軸索型末梢神経障害, 拘束性呼吸障害, 脊柱後側彎症を認めた. 8か月での血液・髄液検査で乳酸高値を認め, 頭部MRIで大脳萎縮を認めた. 2歳時の頭部MRI (T2強調画像) で両側基底核に高信号を認めた. 以上からLeigh症候群と診断した. 血清アシルカルニチン分析でプロピオニルカルニチンの軽度増加を認めるも, 尿中有機酸分析で異常なしとの判断であった. 9歳時に末梢神経障害の研究のためエクソーム解析を行い, NM_003850.2 (SUCLA2) : c.1300del (p.Asp434Metfs8) +c.664-1G>Aと新規複合ヘテロ変異を認めた. 両親は各々保因者であった. 再度の尿中有機酸分析で, メチルマロン酸の軽度排泄増加を認めた. 筋組織の呼吸鎖複合体ⅠおよびⅣの活性が正常下限であった. 以上からSUCLA2関連ミトコンドリアDNA枯渇症候群と診断した. ミトコンドリア病患者の血清プロピオニルカルニチンおよび尿中メチルマロン酸の軽度増加を見逃さないことが重要である.

  • 須貝 みさき, 大府 正治, 當山 潤
    2020 年 52 巻 5 号 p. 323-326
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/06
    ジャーナル フリー

     電動車いす (電動) 支給が幼児期に決定した, 脊髄性筋萎縮症 (spinal muscular atrophy ; SMA) Ⅱ型の4歳7か月とⅢ型の4歳1か月の女児2症例を報告する. 両症例共に筋力低下, 腱反射消失, 手指の線維束れん縮を認め, SMN1遺伝子exon7-8領域欠失よりSMAと診断した. 自力歩行が不能で, 身体障害者手帳1級を所持しており, 自立支援法に基づく補装具費の支給対象となる. 3歳時にリハビリテーション施設で電動の操作訓練を開始し, 運転可能となり本人用の電動作製を申請するも, 当該自治体にて学齢児未満での支給前例がないことを理由に却下された. 本人, 関係多職種で役所を訪れて移動の自立の重要性を説明し, 実地調査を経て支給決定に至った. SMA児は, 歩けないとしても電動があれば自立して動くことができる. 適切な発達時期に移動手段を得るためには主治医が積極的に関係機関へ働きかける必要がある.

  • 尾崎 文美, 小牧 宏文, 西野 一三, 埜中 征哉, 生田 陽二, 坂本 正宗, 岩間 一浩, 水口 剛, 松本 直通, 佐々木 征行
    2020 年 52 巻 5 号 p. 327-331
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/06
    ジャーナル フリー

     精神運動発達退行と進行性小脳萎縮を呈した14歳男子で, hypotonia, ataxia, development delay, and tooth enamel defect syndrome (HADDTS ; OMIM #617915) の責任遺伝子であるcarboxyl terminal binding protein 1 (CTBP1) バリアント (c.1024C>T, p.R342W) を認めた症例を経験した. HADDTSの既報告例と比較して, 本症例では, 4歳時の筋生検で先天性筋線維タイプ不均等症 (congenital fiber type disproportion ; CFTD) と診断されたこと, および, 本疾患の主要症状である歯エナメル質形成不全を認めなかった点が特徴的であった. HADDTSでは様々な中枢神経疾患との合併が報告されており, 精神運動発達退行や進行性小脳萎縮を呈するCFTD症例では, CTBP1異常症も鑑別に挙げることが重要である.

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