脳と発達
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巻頭言
総説
  • 西田 裕哉
    2024 年 56 巻 5 号 p. 333-340
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/04
    ジャーナル フリー

     N-methyl-D-aspartate受容体脳炎(NMDARE)は早期診断・治療が肝要である.2016年発表の臨床診断基準は①精神症状,行動異常または認知機能障害,②言語障害,③けいれん,④不随意運動症,⑤意識障害,⑥自律神経障害または中枢性低換気の6つの主症状群を含み,感度は小児でも80%以上と高い.ただし小児では片麻痺や小脳失調などの非典型的な症状が出現しうる点と陽性的中率が低い点に留意が必要である.そのため確定診断には髄液での抗体解析が必須である.若年成人に多い腫瘍の合併は小児ではまれである.臨床症状では小児は成人より言語障害,不随意運動症の割合が高く,記憶障害と中枢性低換気の割合が低い.けいれん発作は初期症状としては小児に多いが,全経過を通すと小児と成人で出現率は変わらない.脳波ではextreme delta brushが比較的NMDAREに固有であるが,出現率は報告によりばらつき,特に小児では低い.不随意運動症は小児でchoreoathetosisが多いのに対し成人で頻度の高いcatatoniaやbradykinesiaは少なく,orofacial-lingual dyskinesiaは全年齢で認める.成人では致死的になりうる自律神経症状は小児では軽症であることが多い.小児では精神症状,適応機能障害が残存しやすいとの報告もあり包括的な機能評価には多職種連携が望ましい.

特集・第65回日本小児神経学会学術集会
<シンポジウム15:日本遺伝子細胞治療学会―日本小児神経学会(JSGCT-JSCN)連携シンポジウム難病に対する遺伝子治療実用化への展開>
  • 村松 一洋, 小野寺 雅史
    2024 年 56 巻 5 号 p. 341-342
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/04
    ジャーナル フリー
  • 小坂 仁, 中村 幸恵
    2024 年 56 巻 5 号 p. 343-347
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/04
    ジャーナル フリー

     アデノ随伴ウイルス(AAV)は神経細胞と親和性が高く,遺伝子治療に適している.AAVベクターを用い,疾患遺伝子をエンドサイトーシスで核内に到達させることで,長期間適切な細胞で蛋白を安定発現させることが可能である.グルコーストランスポーター1(GLUT1)は12回膜貫通ドメインを持つ糖輸送体であり,脳内では血液脳関門の血管内皮細胞を主たる発現部位とする.GLUT1欠損症は常染色体顕性遺伝で,SLC2A1遺伝子の変異により発症し,脳への糖輸送が障害されることで神経細胞のエネルギー不足を招き,進行性の知的障害を引き起こす.我々はまずSLC2A1遺伝子変異の機能解析系として2-deoxyglucoseを用いた方法を確立した.次にAAVベクターを用いた遺伝子治療により,GLUT1欠損症モデルマウスのGLUT1発現,運動機能,髄液糖値の改善を確認し,大型動物でも分布を確認した.今後GLUT1欠損症に対する遺伝子治療の治験を進める.

  • 羽田 明, 宇田 晃仁
    2024 年 56 巻 5 号 p. 348-352
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/04
    ジャーナル フリー

     脊髄性筋萎縮症(SMA)は常染色体潜性遺伝形式の単一遺伝子疾患である.原因となる遺伝子は染色体5q13に座位があるsurvival of motor neuron 1SMN1)で,95~98%は両アレルの欠失,残りの2~5%は機能喪失型の病的遺伝子多型が原因である.前者の両アレル欠失は現行の公的新生児スクリーニング(NBS)に用いるろ紙血を試料とする検出法が確立されている.SMAの治療薬剤が開発され,症状が明らかになる前に治療を開始すれば,運動発達障害の発生を防ぐあるいは遅延させることが,先行して実施された国において明らかとなった.発症前診断にはNBSが欠かせないが,薬剤の費用が極めて高額であることから,治療の妥当性に議論がある.本研究では,日本の医療制度において,SMAのNBSを導入して早期治療を開始する場合と,導入しない場合とを比較した費用対効果を分析した.その結果,我々の設定した条件の下では,公的医療の立場にたった基本分析および,社会的立場を考慮したシナリオ分析の双方において費用対効果が高いことが明らかとなった.この結果は,SMAを従来の公的NBSに導入するという施策を議論する上で,重要な知見であると考えられる.

  • 小島 華林
    2024 年 56 巻 5 号 p. 353-358
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/04
    ジャーナル フリー

     小児神経疾患には遺伝子治療が有望な単一遺伝子疾患が多い.アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは非分裂の神経細胞で長期発現が期待できる.AAV9は,血液脳関門を通過し神経細胞移行が良く,中枢神経疾患治療の主流である.神経疾患の遺伝子治療として,脊髄性筋萎縮症(SMA)に対するAAV9ベクターにSMN遺伝子を挿入した静注薬が初めて保険適用され,効果が得られている.我々は,ドパミン合成に必須のDDC遺伝子変異で発症する,芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)欠損症の遺伝子治療臨床研究を施行した.両側被殻にDDC遺伝子搭載AAV2ベクターを注入し,全例で運動機能改善,ジストニア消失などの効果を得て,現在,医師主導治験をおこなっている.GLUT1欠損症とNiemann-Pick病C型も治験準備中である.腰椎穿刺しカテーテルを大槽まで進めベクター注入し,脳の広範な領域にベクター導入する投与経路で臨床応用を目指している.AAVベクターを用いた遺伝子治療が適した疾患の条件として,単一候補遺伝子疾患,ないしは,導入すべき遺伝子が明確な疾患,機能的異常による疾患,かつ遺伝子が発現過剰しても問題のない疾患,一部の細胞への導入で機能回復が期待される疾患,治療効果の判定を行えるモデル動物が存在するなどが考えられる.ベクター開発や投与法開発が進んでおり,AAV遺伝子治療対象疾患は今後も拡大が期待される.

  • 小林 博司
    2024 年 56 巻 5 号 p. 359-364
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/04
    ジャーナル フリー

     遺伝子治療の臨床試験の主流はウイルスベクターを用いた方法であり,造血幹細胞遺伝子治療は患者自身の造血幹細胞を体外へ取り出してウイルスベクターにより遺伝子導入し,元の患者へ移植する形をとる(ex vivo gene therapy).これは通常の造血幹細胞移植と比較してドナー探索,graft versus host disease(GVHD)の心配がなく,長期発現が可能という利点がある一方,挿入変異によるリスクが完全には否定できない.また薬事承認はウイルスベクターそのものではなく,ベクターにより遺伝子導入された患者自己由来の造血幹細胞が細胞製剤として対象となる.現在承認されている造血幹細胞遺伝子治療の対象疾患として異染性白質ジストロフィー(MLD),副腎白質ジストロフィー(ALD)が挙げられる.このほかムコ多糖症I型に対する臨床試験で優良な成績が報告されている.

  • 中山 東城
    2024 年 56 巻 5 号 p. 365-370
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/04
    ジャーナル フリー

     核酸医薬は次世代分子標的医薬として,中枢神経疾患を中心に臨床開発が近年加速している.中でもアンチセンス核酸(ASO)医薬は,脊髄性筋萎縮症やDuchenne型筋ジストロフィーなどで米国食品医薬品局(FDA)に承認されている.また,神経希少疾患の個別の患者変異を標的とした被検者一人の個別化臨床試験(N-of-1臨床試験)の試みも米国で始まっている.本稿では,代表的な核酸医薬の開発やN-of-1臨床試験,関連する法的規制について概説する.

短報
  • 今市 悠太郎, 横地 健治
    2024 年 56 巻 5 号 p. 371-373
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/04
    ジャーナル フリー

     福山型先天性筋ジストロフィーを持つ29歳女性において,perampanel(PER)投与に伴う過眠症状がみられた.PERの投与量を減少させてからも過眠症状の改善には時間がかかった.この間に経時的に血中濃度を測定して算出された半減期は19.8日(475時間)と従来の報告値より著しく延長していた.PER代謝がvalproic acid(VPA)の存在下で阻害されることは既報で想定されており,本症例はその極端な臨床事例であると思われる.よって,PERとVPAを併用する際は,PERに関連した中毒症状に十分な注意を払う必要がある.

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