脳と発達
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57 巻, 3 号
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巻頭言
特集・第66回日本小児神経学会学術集会
<シンポジウム1:胎児期の脳ができる仕組み:サブプレートニューロンの役割>
  • 城所 博之
    2025 年57 巻3 号 p. 175
    発行日: 2025/05/01
    公開日: 2025/06/12
    ジャーナル フリー
  • 白木 杏奈
    2025 年57 巻3 号 p. 176-181
    発行日: 2025/05/01
    公開日: 2025/06/12
    ジャーナル フリー

     サブプレート層は,胎児期の大脳の発達過程で一過性に出現し,脳形成に携わる.近年,自閉スペクトラム症などの神経精神疾患は,胎児期に起きた脳変容に起因するとも考えられており,胎児期の脳発達に関心が寄せられている.サブプレートが脳の形成において果たす重大な役割を踏まえると,サブプレートの変化が神経発達に影響を及ぼすことが想定される.しかしながら,サブプレートの臨床的な評価方法は未だ確立されていない.

     ヒト早産児脳波の波形の一つに,delta brushがある.Brushは律動的な紡錘波様速波であり,修正28週頃から増え始めて32週付近で最も高頻度に見られるようになった後,40週にかけて減少しほとんど見られなくなっていく.Brushは自発的にも刺激誘発的にも出現し,脳形成に必要な神経活動であると認識されている.一方,動物実験からは,このbrushがサブプレートに関係した電気活動であると推定されている.目視でbrushを数えた既報の研究と私達の自動検出アルゴリズムでbrushを検出した検討からは,brushの消退遅延と幼児期早期の発達遅滞や自閉特性との関連が示唆されており,サブプレートやbrushが,適切な時期に発達し,また消失することが,正常な脳の形成には必要であると考えられる.Brushをサブプレートの間接的な指標として,今後ますます研究が発展し,神経精神疾患の病態解明や新たな治療法開発へと導く新たな知見がもたらされることだろう.

  • 多賀 厳太郎
    2025 年57 巻3 号 p. 182-185
    発行日: 2025/05/01
    公開日: 2025/06/12
    ジャーナル フリー

     胎児期の脳の発達において,一過的に形成され縮退するサブプレートが重要な役割を担っていると考えられている.サブプレートに関連する細胞構築,遺伝子発現,神経活動,機能的ネットワーク,行動発達等の研究から,脳の発達の仕組みが浮かび上がってくる.ここでは,皮質のネットワーク形成と知覚や運動の発達におけるサブプレートの役割に焦点を当て,「サブプレートU字型発達仮説」を提案する.

  • 丸山 千秋
    2025 年57 巻3 号 p. 186-191
    発行日: 2025/05/01
    公開日: 2025/06/12
    ジャーナル フリー

     脳は胎児期という限られた時間内で数百億のニューロンの誕生,移動,層への配置と基本的な回路形成の正確な制御により再現性良く構築される.サブプレートニューロンは最初期に誕生,成熟し,視床-皮質投射や大脳皮質内の移動ニューロンへのシグナル伝達などを行う.サブプレートニューロンは生後にその多くが消失することから胎児期の脳構築に重要な機能を持つことが推察される.興味深いことに霊長類,特にヒトではサブプレート層が胎生中期の一定の期間に顕著に拡大する.このことから霊長類の大脳皮質の発達においてはサブプレート層が重要な役割を果たしていることが示唆される.本稿では,まずマウスを用いて,神経細胞移動制御におけるサブプレートニューロンの新規の機能を発見した研究について紹介し,後半では,霊長類のサブプレート層で特異的に発現が増大している遺伝子について,マーモセットとヒト胎児脳切片を用いた空間的遺伝子発現解析Visiumを用いて探索した.この解析により同定された遺伝子がサブプレートニューロンの産生やサブプレート層の拡大化に寄与するのではないかという仮説について考察した.

  • 米田 泰輔
    2025 年57 巻3 号 p. 192-196
    発行日: 2025/05/01
    公開日: 2025/06/12
    ジャーナル フリー

     哺乳類の大脳皮質の発達過程において,サブプレートニューロンは出生前後の時期の神経回路形成を誘導する.そのほとんどは生後まもなく細胞死を迎えるが,一部は大脳皮質最深部の6b層に残存し,新たな神経回路を形成する.しかしながら,生き残ったサブプレートニューロンの機能は,ほとんど解明されていない.本研究では,生後発達期マウスの一次視覚野において,6b層ニューロンの視覚応答と視覚経験に依存した機能的な可塑性を明らかにすることにより,生き残ったサブプレートニューロンの機能を検証した.2光子励起顕微鏡によるCa2+イメージングを用いた解析によって,6b層ニューロンは,2/3層や6a層ニューロンよりも,視覚刺激に対してブロードなチューニングを示すことが明らかになった.イメージングの後に三次元抗体染色を行うことによって,記録した6b層ニューロンの大部分が,サブプレートニューロンマーカーを発現することを確認した.さらに,視覚入力操作により視覚野ニューロンの視覚反応が顕著に変化する臨界期において,6b層ニューロンが経験に依存した可塑性を示すかを調べた.その結果,6b層ニューロンは,他の層のニューロンと同様に,経験依存的な可塑性を示した.これらの結果は,生き残ったサブプレートニューロンが,成熟した大脳皮質において,経験に依存した皮質機能の成熟と視覚情報処理に関与していることを示唆している.

<シンポジウム3:神経変性・神経代謝疾患の病態に基づいた新しいモダリティによる治療開発>
  • 村松 一洋, 中山 東城
    2025 年57 巻3 号 p. 197-199
    発行日: 2025/05/01
    公開日: 2025/06/12
    ジャーナル フリー
  • 池田(谷口) 真理子
    2025 年57 巻3 号 p. 200-202
    発行日: 2025/05/01
    公開日: 2025/06/12
    ジャーナル フリー

     福山型先天性筋ジストロフィー(Fukuyama congenital muscular dystrophy;FCMD)は日本で福山らにより報告された重度の先天性筋ジストロフィー,II型滑脳症,眼症状の3症状を示す常染色体潜性遺伝形式の希少難病である.日本ではDuchenne型筋ジストロフィーに次いで2番目に多い小児の筋疾患で,乳児早期に筋緊張低下,筋力低下で発症し,若く死に至る重篤な疾患であり,眼,骨格筋,心筋,脳・神経系が侵される.我々はこれまで,FCMDに対する治療法開発を行ってきた.そのうちの代表的ものとして,FCMDの初の根治療法ともいえる,スプライシング異常に対するアンチセンス核酸は臨床試験が開始されるに至った.一方,FCMDは先天性疾患である.胎児期からの治療が必要なのではないか,また,中枢神経系の疾患であるため薬剤の中枢神経系へのデリバリーが必要なのではないか,など,治療法開発への課題は多く残る.本稿では,主に疾患モデルを用いた治療法開発への挑戦について最近の知見を交えて概説した.

  • 粟屋 智就
    2025 年57 巻3 号 p. 203-207
    発行日: 2025/05/01
    公開日: 2025/06/12
    ジャーナル フリー

     RNAを標的とした創薬研究が近年注目を集めている.Fabry病はX染色体上のGLA遺伝子の異常によって生じ,α-ガラクトシダーゼ(α-GAL)の機能低下により,糖脂質グロボトリアオシルセラミド(Gb3)がライソゾーム中に蓄積することで発症する.GLA c.604-801G>A変異は,第4イントロン中に早期終止コドンを含む57塩基の偽エクソンを生じて遅発型の心Fabry病を引き起こすが,台湾で行われた新生児マススクリーニングで,この変異の保有率が極めて高いことが発見された.エクソン認識を左右する因子に着目した創薬研究の一環として,この変異によって生じる偽エクソンの除去を試みたところ,RECTASと名付けた化合物が有効性を示した.現在,臨床試験に向けて前臨床試験を進めている.RECTAS系列化合物はこの変異のみならず,ユダヤ系人種に多い家族性自律神経異常症のエクソンスキッピング型変異に対しても有効である.また,他にもin vitroで有効なスプライシング異常があることがわかっている.本稿では,RNAスプライシングの異常によって生じる単一遺伝子疾患の,低分子化合物による治療開発の事例を示し,アカデミアにおける創薬研究について概説したい.

  • 井上 健
    2025 年57 巻3 号 p. 208-211
    発行日: 2025/05/01
    公開日: 2025/06/12
    ジャーナル フリー

     先天性大脳白質形成不全症の代表的疾患であるPelizaeus-Merzbacher病(PMD)では,原因遺伝子PLP1の重複や点変異による機能獲得型の細胞病態が中枢神経系の広範な髄鞘形成不全を引き起こすことが知られている.一般的な機能喪失型の変異と異なり,遺伝子補充では治療することができない.これまでにいくつかの治療法が基礎研究レベルで試みられているが,臨床応用に進んでいるものはまだない.我々はPLP1を特異的に発現抑制することができる人工miRNAを用いてPLP1を適切なレベルに減少させることによってPMDの治療が可能なのではないかと考えた.そこでPLP1特異的な人工miRNAを設計し,これをオリゴデンドロサイト特異的プロモーター下にアデノ随伴ウイルスに組み込み,モデルマウスの脳内に直接投与したところ,PLP1遺伝子発現の抑制とともに疾患に関連した細胞組織病態が改善され,髄鞘の再生,運動症状の改善,寿命の延長効果などを観察した.現在,より治療効果を高めるために,このプラットフォームに様々な改善を加えているのでこれを紹介したい.

  • 月田 貴和子
    2025 年57 巻3 号 p. 212-216
    発行日: 2025/05/01
    公開日: 2025/06/12
    ジャーナル フリー

     遺伝子治療のコンセプトは1970年代には提唱されており,1990年にアデノシン・デアミナーゼ欠損症に対して世界初の遺伝子治療が実施された.レトロウイルスベクターの挿入変異に伴う白血病化の問題や,アデノウイルスベクターによる患者の死亡など,停滞する時期があったが,ベクターの改良によって2010年代から様々な遺伝子治療製剤が登場している.特にアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは,安全性や非分裂細胞に遺伝子導入した際の効率や発現の持続性が優れており,神経疾患に対する遺伝子治療として有望である.

     本稿では遺伝子治療について概説した後,AAVベクターを中心にウイルスベクターについて取り上げ,現在臨床で使用されている遺伝子治療製剤や開発状況,課題について解説する.また,当科で進行中の遺伝子治療の研究開発について紹介する.

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