2021年3月に制定され2023年3月に最終改正された「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」は,人を対象とする医学研究およびゲノム研究で他の法令・指針の適用を受けないもの(および部分)に遵守が求められるいわばデフォールト・ルールを定めるものとなっている.本稿では,2024年春の第66回日本小児神経学会学術集会における教育講演の内容に基づき,指針の目的・基本方針,用語の定義,研究者等の責務,インフォームド・コンセント,研究結果の取扱いなどを中心に,この指針の性格と内容,および,2004年以降,わが国の医学研究に関する倫理指針に大きな影響を及ぼしてきた個人情報保護法制について概説する.
指定難病である副腎白質ジストロフィー(ALD)の診療ガイドラインは男性患者では小児から成人まで幅広い年齢層に発症すること,さらに移植技術の向上により小児大脳型の進行例や成人大脳型に対する造血幹細胞移植の有効性を踏まえて現在,小児,成人領域の学会が協力して更新作業を進めている.またALDでは発症前に診断して適切な時期に治療介入を行うことにより大脳型や副腎不全の予後が改善されるため国内外で新生児スクリーニングが広がりつつある.本稿ではALD医療の最新の現状と課題について国内診断拠点における経験も含めて概説し,難病克服に向けた診療ガイドラインの作成と新生児スクリーニング国内導入の取組みについて紹介する.
Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)は遺伝子変異により筋線維が脆弱化し,進行性の筋力低下を呈する難治性疾患である.近年,ステロイドやエクソンスキッピング核酸医薬に加えて,アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターによる遺伝子治療が承認されたが,再投与困難や高用量投与による肝障害など安全性の課題が残る.次世代治療として注目されるCRISPRゲノム編集は,変異修復が可能という点がユニークであり,我々は患者由来iPS細胞で修復方法を検討してきた.また,非ウイルス性の送達方法の開発も進めている.安全で持続性の高いゲノム編集治療の確立は,多様な遺伝性筋疾患への応用が期待される.
【目的】自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder;ASD)の病態における自律神経系の関与を対光反射の精密測定により明らかにする.【方法】DSM-5に基づいて診断されたASD小児88名,コントロールとしては定型発達小児121名,およびTD成人105名に対し,瞳孔記録計NPi-200(NeurOptics社)を用いて明所で特に課題を課さず,片眼を光刺激し,初期瞳孔径(R0),縮瞳時変化径(RA),縮瞳速度(CV),散瞳速度(DV)を計測した.TD小児32名,ASD小児20名に対しては暗所での計測も行った.【結果】交感/副交感緊張の比をsympathetic-parasympathetic ratio(SP)比とすると,安静時R0は明所,暗所いずれでもASD小児ではTD小児と比べ有意に小さかったことから,SP比は低いといえる.対光反射中は明所ではASD小児のRA,CV(副交感由来)およびDV(交感由来)はTD小児と比べて有意に小さく,CV/DVは有意に大きくSP比は高い.これらは暗所では有意差はなくなった.【結論】ASD小児のR0が示すSP比の低さは環境(明暗)に依存せず,特有の交感/副交感緊張のsympathetic/parasympathetic tone balanceの存在を示す.一方,ASD小児の対光反射中のSP比は明所では高かったが,暗所では下がりTD小児と有意差はなくなり,環境(明暗)により可変であり,ASDの適応的変容を示している可能性がある.
重症筋無力症に心筋炎が合併することは成人でも極めて稀であり,小児の報告はない.今回,急性心筋炎が先行した全身型重症筋無力症の小児例を経験したため報告する.症例は3歳女児.前医に急性心筋炎の診断で入院した.免疫グロブリン大量療法とprednisoloneが有効であったが,prednisoloneを中止すると心筋障害が再燃した.Prednisoloneを緩徐に漸減し,第86病日に前医を退院した.退院3日後から,左外斜視,歩行障害,嚥下障害,右眼瞼下垂が出現し,心筋逸脱酵素の上昇があり,第96病日に当院に入院した.塩酸edrophonium試験,反復刺激試験により全身型重症筋無力症と診断した.Prednisoloneを漸増し,免疫グロブリンを投与したところ,四肢近位筋の筋力低下は改善したが,心筋逸脱酵素の上昇は持続した.Tacrolimusを開始したところ,心筋逸脱酵素は低下し退院した.本例は成人例と臨床経過や血清学的にも相違があり,心筋炎と重症筋無力症の関連性は不明である.成人例では急性心筋炎後に炎症が慢性化することで慢性心筋炎に移行する例が報告されている.機序としてTh17細胞の活性化が挙げられており,本症例の臨床経過からその関連も疑われた.本論文ではこれらの点について小児神経内科の視点で症例経過を詳細に記載・考察した.小児の急性心筋炎や重症筋無力症における,免疫学的な機序の解明が待たれる.
COL4A2はIV型コラーゲンのα2鎖をコードする遺伝子で,そのバリアントは孔脳症などの脳病変や,眼・腎病変など様々な臓器障害の原因となる.今回我々は,姉妹の頭部画像異常よりCOL4A2遺伝子バリアントを同定した家族例を経験した.症例1(5か月女児).4か月健診で左方向の追視がない,左手でものを握れないことを指摘され,頭部MRIにて脳室拡大と上衣下出血を認めた.症例2(4歳6か月女児.症例1の姉).症例1の初診より2年後,けいれん発作のため救急搬送され,頭部MRIにて脳室周囲の白質病変と上衣下出血を認めた.姉妹の頭部画像異常より遺伝性の脳小血管病を疑い,COL4A1/COL4A2遺伝子解析を行った.姉妹ともにCOL4A2遺伝子に新規のミスセンスバリアント(c.1811G>T;p.Gly604Val)をヘテロ接合性に認めた.また,母方叔母が頭痛で頭部MRIを撮影した際に側脳室拡大を指摘されており,同様のバリアントがある可能性を考慮した.遺伝カウンセリングを行ったうえで,両親と母方叔母に遺伝子解析を行い,母と叔母に同様の遺伝子バリアントを認めた.頭部画像異常の家族歴がある場合は常染色体顕性遺伝疾患であるCOL4A1/COL4A2遺伝子バリアントを想定することが重要である.
ACTH療法は乳児てんかん性スパズム症候群(West症候群)に最も効果的な治療の一つである.その一方で,乳児てんかん性スパズム症候群の発症前後にBCGワクチンが接種されている症例をしばしば経験する.Vigabatrinは投与可能な施設が限られ約3分の1の症例に視野狭窄の合併症が見られること,またACTH療法を遅らせると長期的な知的予後への悪影響が懸念されるため,BCGワクチン接種後早期にACTH療法を検討せざるを得ない状況も稀ではない.我々は,乳児てんかん性スパズム症候群の3例に対し,BCGワクチン接種からそれぞれ5日後,6日後,14日後にACTH療法を施行した.これらの症例において短期的な発作の抑制効果は良好であり,ACTH療法施行1年後の時点ではBCG感染症を発症しなかったが,フォローを継続している.BCGワクチン接種後の早期ACTH療法は,BCG感染症の発症のリスクを伴うが,医師が必要と判断し,家族が同意した場合には,早期のACTH療法が選択肢となることがある.その場合,ACTH療法施行後数年間にわたる経過観察,感染専門医との連携,および抗結核薬投与の準備が必要であると考えた.
脊髄小脳失調症(spinocerebellar ataxia;SCA)5型は,常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式の脊髄小脳変性症(spinocerebellar degeneration;SCD)に分類され,SPTBN2のバリアントが原因である.2012年以来,乳児期より全般性発達遅滞のある小児例が報告されている.我々は,乳児期発症で既報告例よりも重度の全般性発達遅滞,顕著な小脳萎縮のあるSPTBN2病的バリアントNM_006946.4:c.185C>T p.(T62I)d.n.を認めた男児例を経験した.患児は生後4か月より頚定遅れの指摘があり,全般的な発達の遅れを認めた.乳児期は小脳症状が目立たず,体幹有意な筋緊張の低下を認めた.頭部MRIにて小脳の広範な萎縮を認めたため,遺伝子解析が行われSCA5と診断された.臨床的に失調型の脳性麻痺と診断される可能性があり,遺伝子解析による鑑別が必要である.
抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク(myelin oligodendrocyte glycoprotein;MOG)抗体は中枢性炎症性脱髄疾患に関連する自己抗体の一つで,近年MOG抗体関連疾患(MOG-IgG associated disease;MOGAD)という新たな疾患概念が確立され注目されている.一部のMOGADに末梢神経障害を合併することは知られていたが,小児MOGADでは急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis;ADEM)として発症することが多く,これまでに末梢神経障害を合併し抗GM1抗体も陽性であった小児MOGAD報告例はない.今回我々は,中枢神経症状とともに末梢神経障害を認めたIgG抗GM1抗体陽性の小児MOGAD症例を経験したので報告する.症例は生来健康な13歳男子で,発熱と頭痛を主訴に来院したが,意識障害に続いて呼吸筋麻痺や腱反射消失を伴う四肢麻痺が出現し,一時的な気管切開を伴う長期人工呼吸管理を要した.神経伝導検査では四肢運動神経および感覚神経の一過性伝導ブロックが疑われ,MRI検査では脳幹辺縁や大脳皮質下,脊髄灰白質といった多彩な病巣が出現した.複数回のステロイドパルス療法と免疫グロブリン大量静注療法を行い,発症約2か月後に人工呼吸器離脱と気管切開孔閉鎖に至り,発症約半年後までに神経学的後遺症なく日常生活へ復帰した.本症例のように小児でも末梢神経障害を伴うMOGADの重症例では,抗MOG抗体だけでなく抗ガングリオシド抗体の関与を疑うことも病態把握や治療選択に有用となる可能性がある.
診断と治療までに1年以上を要した慢性虫垂炎で,起立性調節障害合併の14歳男児と自閉スペクトラム症合併の7歳男児の2例を報告する.症例1は14歳男子.13歳5か月時より頭痛,腹痛,下痢が出現.便秘症と診断され内服加療を行われていたが,症状改善に乏しく腹部超音波検査で虫垂壁内に糞石を認めたがその他の慢性虫垂炎の診断基準を満たさず,後日行われた新起立試験で起立性調節障害と診断され,画像検査で機能性腹痛と判断された.症状発症18か月後の腹部CT検査で虫垂壁肥厚と糞石を認め,虫垂切除術により症状が改善した.症例2は7歳男児.自閉スペクトラム症があり,6歳4か月時より腹痛が出現.当初は心因性腹痛と診断された.症状発症14か月後に虫垂切除術を施行し,症状は改善した.両症例とも病理所見で粘膜下層の線維化とリンパ球浸潤を認めた.小児の慢性腹痛の多くは機能性とされ,器質的疾患の診断が遅れることがある,起立性調節障害や自閉スペクトラム症では,ストレスによる脳腸相関の影響で消化器症状を呈することが多い.本2症例は基礎疾患による心身症状と考えられ,慢性虫垂炎の診断までに時間を要した.心身症症状を有する小児の慢性的な右下腹部痛に対しては,慢性虫垂炎の可能性も考慮すべきである.
モリブデン補酵素欠損症(molybdenum cofactor deficiency;MoCD)は神経学的後遺症を来す先天代謝異常症で,死因が不明瞭なことが多い.症例は1か月男児.けいれん群発で発症,頭部MRIで大脳全体に脳浮腫あり.尿酸0.3 mg/dLと低値,尿中亜硫酸陽性.心臓超音波検査で冠動脈瘻を確認.第X+17日に血圧低下,徐脈となり永眠.遺伝子診断でMoCDと確定.病理結果で冠動脈瘻を認め死因は心不全と判断.MoCDは心疾患を合併する可能性もあることを念頭に置く必要がある.
X染色体関連水頭症(X-linked hydrocephalus;XLH)は最も一般的な遺伝性水頭症で,L1細胞接合分子のバリアントが原因である.われわれは11年以上繰り返す嘔吐を認めた29歳のXLH患者を担当し,最終的に周期性嘔吐症候群と考えgabapentin(GBP)を投与し著効した.重度の認知,身体の障害のため痛みを訴えることが困難な患者の頻回の嘔吐において周期性嘔吐症候群は鑑別すべき大変重要な疾患である.なお,本患者は遺伝子解析研究にてL1CAMの新規バリアントNM_001278116.2:c.2929_2930del [p.H978Qfs*25]が同定され診断が確定した.