Multilineage-differentiating stress enduring(Muse)細胞は体内の様々な組織に内在する非腫瘍性の修復性多能性幹細胞であり,体外で増殖が可能で,間葉系幹細胞にも1~数パーセントの割合で含まれている.多能性幹細胞とマクロファージの両面の性質を併せ持つ特徴を有しており,静脈投与によって臓器共通の傷害シグナルの一つであるスフィンゴシン-1-リン酸を感知し,傷害臓器を探し当てて生着することが可能である.傷害臓器内では死細胞や傷害細胞を貪食し,それらの細胞から分化に必要な転写因子などを再利用することで,被貪食細胞と同じ細胞種に分化し,死細胞・傷害細胞を健常細胞に置き換えて,組織を修復する.貪食を利用した分化はエラーなく日単位で進む.特異な機構によって免疫寛容を誘導するため,ヒト白血球抗原(human leukocyte antigen;HLA)不適合のドナーMuse細胞を免疫抑制剤なしに点滴投与しても,免疫拒絶を受けずに長期間体内に機能的細胞として生存する.このため,新生児低酸素性虚血性脳症をはじめ,脳梗塞,頚椎脊髄損傷などの治験はすべてドナーMuse細胞の点滴投与で行われており,安全性や有効性が報告されている.Muse細胞治療は細胞を標的臓器に届けるための外科的手術,特定の細胞への分化誘導,ドナー細胞使用におけるHLA適合検査を必要としないため,臨床応用上多くの利点を持つ.本稿では,これまで明らかにされてきたMuse細胞の生物学的な特徴と,新生児低酸素性虚血性脳症を中心とした治験での結果をまとめ,将来展望について考察する.
酸化ストレスは,新生児低酸素性虚血性脳症(hypoxic-ischemic encephalopathy;HIE),急性脳症,神経発達症などの小児神経学領域の疾患の発症や病状進展に関与している.生命進化の過程で,抗酸化システムを獲得することによって酸素毒性に対抗できるようになったが,生命体は酸化ストレスから逃れることはできない.高次脳機能を維持し,エネルギー消費が高い脳は,ミトコンドリアから漏出する活性酸素種(reactive oxygen species;ROS)が多く,最も酸化ストレスを受けやすい臓器のひとつである.HIE脳損傷の原因には,虚血再灌流による酸化ストレス障害による遅発性細胞死がある.この二次エネルギー不全の段階で,活性化したグリア細胞が炎症を引きおこしている.抗酸化システムのひとつであるチオレドキシン(チオレドキシン(thioredoxin;TXN)/チオレドキシン還元酵素(thioredoxin reductase;TXNRD)/ペルオキシレドキシン(peroxiredoxin;PRDX)システムをコードする遺伝子群の異常では,てんかん,小脳萎縮,神経発達症,末梢神経障害など臨床スペクトラムを示す.酸化ストレス障害におけるグリア細胞は,炎症促進,細胞死,血管新生,再生など多彩な役割をもつ.網羅的RNA seq解析やトランスクリプトーム解析の進歩によって,従来考えられていたM1/M2やA1/A2の二分類を超えた機能的多様性が明らかになりつつある.グリア細胞の制御は,酸化ストレス障害の治療のターゲットとなり得る.
【目的】2~5歳,6~15歳,16~18歳の神経発達症を有する入眠困難な患者におけるメラトニンの睡眠に対する有効性と安全性を検証する.【方法】2~18歳のうちDSM-5に基づき神経発達症と診断され,入眠困難を有するため新たにメラトニン製剤(メラトベル®顆粒小児用0.2%)を処方される患者を対象とした.14日間のスクリーニング期に睡眠指導とベースライン評価を行った後,メラトニンを1mgから開始し,84日間の投与期と7日間の後観察期の間,睡眠日誌と問診,検査によって有効性と安全性の評価を行った.【結果】最大解析集団43名での有効性解析と安全性解析集団45名での安全性解析を実施した.主要評価項目であるベースラインからの入眠潜時の年齢別の変化量では,2~5歳で変化量が最も多く,−59.0±38.8分(n=32,p<0.0001)であった.他の年齢区分では十分なデータを取得できなかったが,6~15歳では−31.6±27.2分(n=6,p=0.0361),16~18歳では,−1.2±108.6分(n=5,p=0.9820)であった.副作用は,全期間で3例4件(6.7%),うち好中球減少症,不眠症,泣き,好酸球増加が各1件であり,いずれも中等度以下,非重篤であった.【結論】2~5歳の神経発達症を有する入眠困難な患者の睡眠改善においてメラトニンは有効で安全な薬剤であると考えられる.
瀬川病は瀬川昌也先生により発見され,病態の検討,治療の確立,責任遺伝子同定までがなされた.その疾患概念成立の過程を残されたカルテ,メモ,論文,抄録等を読むことにより辿ってみた.他の追随を許さない慧眼は,若い頃,先輩医師に薫陶を受けた「学問のサロン」において獲得し発展させたものである.推論の最初には患者の観察から何か変だぞと思う気づきがあり,それを説明するために仮説を立て整合性のある推論を進めていった.単なる演繹や帰納ではなくアブダクション推論(仮説形成推論)という過程が援用された.彼にとってのアカデミアは彼の魅力に引き寄せられた人たちとともに作ったvirtualな空間である.有形無形の影響は今後様々な形で結実すると思われる.