乳仔期の低栄養が脳発達におよぼす影響を, 3H-チミジソォートラジオグラフィーにより細胞増殖動態の面から検索した.
実験には, ICR-JCL系マウスを用い, 生下時より親マウス1匹につき仔マウス6匹あるいは16-18匹を離乳期まで哺乳させ, それぞれ対照群および低栄養群とした.離乳後, 両群のマウスは, 制限なく自由に食餌を摂取した.
生後20日目では, 低栄養群の体重は対照群の約1/2であり, 脳重量は対照群にくらべて18%減少していた.低栄養群は, 離乳後自由に食餌を摂取したにもかかわらず, 60日目の体重および脳重量はともに, 対照群とくらべ有意に低く, 完全な回復はみられなかった.低栄養の影響は, 大脳より小脳においていっそう著明で, 低栄養群の小脳は, 対照群より明らかに小さく, その外顆粒層の消失はより遅延していた.
3H-チミジンによる5日目と10日目の小脳外顆粒層の細胞の標識率は, 両群の間で有意の差を認めなかったが, 15日目以後の外顆粒層では, 低栄養群は対照群に比較し有意に高値を示した.10日目のマウスの小脳外顆粒層の細胞世代時間は, 低栄養群と対照群でそれぞれ18時間および15.5時間で, 前者は後者にくらべて2.5時間の延長を示した.
この細胞世代時間の延長, すなわち細胞増殖能の低下により, 従来の生化学的研究結果が指摘するような脳の細胞数の減少がもたらされるものと推測された.
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